スイの受難(2)
ピンクの水着は白。ハイグレ気味なそれを2本の紐が隠すように入っている。
胸元に付いた3つの赤いリボンが可愛らしい。
ブルーはフリルの付いたホルターネックのビキニだ。
珊瑚色を主体にカラフルなドット柄がよく似合っている。
「ねぇねぇ、スイちゃんも遊ぼうよぉ」
「面倒くさい」
「見て見て!スイカ柄のビーチボール!!」
「・・・うるせー」
ピンクとブルーに腕を引かれ水の中に落とされているのはスイ。
しかしスイが濡れることはなかった。
水を操りスイの周りだけ水が引く。
嫌そうにしながらもライからピンク達の相手を頼まれたスイがこの場から居なくなることは無い。
ピンクにからかわれ遊ばれるスイはどんどん不機嫌になっていく。
そんな3人を見てパープルは苦笑した。
「おーい、お菓子とか色々買ってきたから、ここ置いとくよー」
お腹の空いていたピンクとブルーが「「はーい!」」と駆け寄って来る。
日陰に避難して日焼け止めを塗りだしたパープルの隣に「疲れた」とスイが座った。
買ってきたジュースをスイに渡すと「どーも」と素っ気無く受け取った。
ピンクとブルーがご飯に夢中な今、スイはやっと落ち着けたとでも言うようにジュースを飲んでいる。
そしてパープルを見てどうでもよさそうに聞いてきた。
「・・・パープルさん泳がないんですか?そんなパーカー着て・・・」
「ん?ああ、焼けるの嫌なんだよ」
一応水着はカーキの上下を着用済みだが上からパーカーを羽織り、日陰に居るにも関らず日焼け止めを更に塗りこんでいる。
「あー・・・だからそんな白いんですか、肌」
「これは元からだけど、そんな白い?私的にはまだ黒いって言うか、黄色いって言うか」
「・・・それ以上白くなったら病人みたいになりますよ」
これまたどうでもよさそうに言われて苦笑する。
しばらく静かな時を過ごしていたが、うるさいのがやってきた。
エンだ。
「スイ、ここに居たのかよ!1人だけサボってずるいぞっ!・・・って!!ピンクさん!!来ていたんですか!?しかも水着ですか!!・・・俺だって負けませんよっ!」
「!???」
ピンクに向かいながら服を脱ぎだしたエンにピンクはぎょっと目を見開いた。
革パンのベルトを引き抜き、下ろそうとしたその時。
どこからだしたのかピンクが大きなハサミで、ブルーがバッドでエンを思いっきり殴った。
弧を描いてパープルとスイが居るところまで飛んできて2人は急いで避けた。
脱ぎかけた革パンの下から黒のビキニが覗いていた。
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余りにも素っ気無いスイと気絶したエンを放っておいてピンクとブルーはビーチボールで遊びだした。
そよそよと吹く風はまだ冷たく肌寒いが2人共とても元気だ。
「パープルさん泳がないんすか?」
「焼けたくないし」
いつの間にか目を覚ましていたエンに聞かれてスイに答えたのと同じ答えを返す。
するとエンがパープルをじろじろと見てきた。
「な、なに」
「・・・前から思ってましたけどパープルさんっておばさんって言うか・・・お母さんみたいっすね」
「なっ!!」
「布団干したりご飯作ったり・・・挙句の果てには焼けたくないから遊ばないって、やっぱお母さんじゃないっすか。若いんだから遊べば良いじゃないっすか。なんかパープルさんってエロイけど性別感じさせないって言うか・・・女に見えないんすよねー」
あはははは、と笑うエンに引きつった笑みを返すパープル。
内心、「こいつは年下私は年上、我慢我慢我慢我慢・・・」と唱えているのだがエンは全く気づかない。
と言うか自分が悪いことを言ったという自覚がない。
立ち上がって伸びをしたエンがそのままプールに飛び込んでいった。
ピンクの嫌がる叫び声が聞こえた気がしたがそれどころだはなかった。
スイが無表情にパープルを覗き込んだ。
「・・・大丈夫ですか」
「・・・スイちゃん、私疲れたから帰るね。2人よろしく」
スイがとっても嫌そうな顔をしたが、楽しい時間に不機嫌な者がいると雰囲気が悪くなってしまう。
パープルはそのまま基地の自分の部屋に帰った。
気づいたのはピンク。
エンをハサミで脅しつつきょろきょろと辺りを見渡した。
「あれ?パープルは?」
「ちょっ!!ピンクさん!!刺さる、刺さるからそれ!!」
「うふふ・・・今日こそその中途半端な前髪ちょん切ってあげる」
「え・・・?うあー!!俺のいけてる前髪がっ!!金髪メッシュがっ!!」
若干涙目になりつつ抵抗するエンを追い詰めたピンクはにっこりと笑った。
「うふふふふふふふ」
「ぎゃーーー!!!ねーちゃんねーちゃんっ!!ちょっ、この人止めてぇー!!おるぁスイ!助けろぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ガンバ!」
「めんどい」
何気に混ざってブルーとスイはビーチバレーをしていた。
2人共エンを見もせずに即答である。
ピンクが「あ、ブルーずるーい」と不満を言っているのをブルーが「いーだろー、うへへ」と返しているぐらいだ。
しかしピンクの笑顔は徐々に引きつっていく。
ぷちっと切れかけたその時、スイが思い切りアタックしたボールがブルーの頭に直撃した。
ビニールだし痛くはないがブルーは「ぎゃー」っと叫んでプールに落ちた。
「ライ様!どうしたんですか、こんなところに」
「ああ、いや・・」
目だけを動かして状況把握をしているライに走りより、スイは待機状態だ。
ぎゅっとライの眉間の皺が寄る。
「・・・パープルはどこだ?」
「帰りました」
「・・・私に挨拶なしでか?」
「疲れたって言ってました。あと2人をよろしくって」
「そうか」と言って踵を返すライにスイは着いて行く。
「2人を頼まれたんじゃないのか」
「エンに変わってもらいました」
死に掛けているエンを無視してさらりと言ってのけるスイだった。
残された3人は。
「・・・そろそろ帰ろっか、ブルー」
「そだね、夕方になっちゃうし、さすがに寒いか・・・・ら・・・・」
じゅわ・・・っとプールの水が一気にお湯になる。
「これでどーです!温かいでしょう。さすが俺!!」
「「・・・・」」
見ればエンが火を操って水を沸かしていた。
鼻高々に威張っているエンを「湯沸かし器・・・」とピンクとブルーが見ていることをエンはいつまでも気づかなかった。
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その頃、パープルはゲームセンターにいた。
無心にクレーンゲームをしている。
脇に抱えた人形の数から長い時間ここに居たことが窺えた。
「おじょーさん。暇なの?」
「・・・・」
「おーい」
「・・・・」
故意に無視しているにも関らずしつこい男が肩に手をかけて来て、さすがにかちんっときた。
パープルが怒って振り返るとそこにいたのは燃えるような赤毛を三つ編みに束ねた美形の男。
「おにぃ!!」
「やーっと気づいた。何してるんだよ、こんなとこで。もう暗くなるし危ないぞ?」
頭にぽんっと手を置かれぐりぐりと撫で回される。
されるがままになっているパープルの顔はふて腐れていてお世辞にも可愛いとは言えない。
「なんだ、そんなやさぐれた顔して。なんかあったのか?」
「ん~・・・まぁ、あった。って言うかすっごくむかつくこと言われたぁ!」
「くそぅ!!今思い出してもやっぱりむかつく~!!」と吠え出したパープルを宥めつつ時計を確認する。
22時。
もう結構な時間だ。
「パープル、久々に遊びに行くか?」
「行く!!」
「おし、決まり」そう言って手を繋いで仲良く街を歩くその姿は下手をすれば恋人同士にしか見えなかった。