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戦え戦隊 悶えんジャー  作者: パープル
8/16

スイの受難(1)


 照りつける日差し。蒸し暑い空気。それだけでもイラつくと言うのに、今俺は最悪に機嫌が悪かった。


 「ねぇねぇ、スイちゃん。お願い」

 「帰れ」

 「え~。そんなこと言わないで、お・ね・が・い。ね?」

 「~~~!鳥肌立ったぞ!!変な声出すな!このぶりっ子女がぁ!」


 スイの目の前にいるのはピンク。

 手を顔の前で組んで可愛らしく小首をかしげているが、スイにとってその行動は鳥肌ものだった。

 

 「もー、照れてるの?ほんとにスイちゃんは可愛いなぁ」

 「近寄るな」

 「お願い、スイちゃん・・・あたし、暑いのぉ・・・」

 「くたばれ」

 

 可愛いのは認める。

 誰が何と言おうと美少女だ。

 しかし、面倒くさがりのスイにとってそれは公害と言ってもいい。

 周りにいる部下達はピンクをぼーっと見つめ、話しているスイを羨ましそうに見ているし、その顔がやに下がっていて気持ち悪いことこの上ない。

 

 ピンクが高3、スイが高1のときはもっと酷かった。

 わざわざ1年の教室までスイをからかいに・・・ごほん、遊びにくるピンクにはファンクラブなるものが存在する。

 そのファンクラブをぞろぞろ引き連れてくるものだから、スイの平穏な学校生活はかなり波乱万丈になったといえる。

 嫉妬からくる嫌がらせや決闘を申し込まれることも少なくなかった。

 水を操るスイがそう簡単にやられることは無かったが、1番厄介だったのは幼馴染のエン。

 エンは火を操るのでお互いに本気を出しても力を打ち消しあって決着がついた事はない。

 いつもスイが「めんどくせー」と言って終わる。

 しかしスイはエンと一緒に居ることが多かった。

 エンと一緒にいるとピンクの出現率が減るからだ。

 

 そんなことを思い出していると新たな来訪者、ブルーがやって来た。


 「お、もう頼んでるのか。やっほースイちゃ・・・って、え?何、この空気」

 「あ、ブルー聞いてよ~スイちゃんったら冷たいの~!」


 よよよ・・・とブルーに擦り寄り被害者面するピンクにスイの血管ははち切れる寸前だ。

 そして何やら2人で話し始めたかと思うとブルーが満面の笑みで振り返ってきた。


 「スイちゃん!頼む!!」

 「嫌だ。面倒くさい」


 ばっさりと切れば大げさに「ががーん」と落ち込むブルー。

 だってしょうがない。面倒くさいのだから。

 

 この姉弟は2人揃ってうるさい。

 ブルーはエンの姉ちゃんだ。

 1対1の時は落ち着いていてまだ良いのだが、周りに人が増えるごとにテンションが高くなってうるさくなる。

 始めは年上だし、敬意をしめして敬語を使おうとした時期もあったが、小さく子供っぽい見た目から阿呆らしくなってやめた。

 

 そんなことを思い出していると、2人がやっと諦めたらしくぼそぼそと話し出した。


 「あ~コレはもぉ無理ですなぁ~。パープル迎えに行って帰りますか。・・・ご飯まだだし」

 「うん、そうしよ~。朝パープルいなくてご飯抜きだったし」


 その言葉に、先ほど部下に聞いた報告を思い出す。

 ライが昼まで来ない、と言う報告を。

 実は、スイ。ライがいないと知って今から自室に帰る所だったのだ。

 

 パープルが城に居て、ライが昼まで来ないとなると間違いなく2人の向かう場所はライの家になるわけで。

 スイは2人を押しと留めて自分がパープルを連れて来ると言い放った。

 無表情だが内心、ライに会えると浮き足立っていることは誰にも分からなかった。





++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





 

 「ライ様、おはようござ・・・・あ」

 「!!」


 まだ寝台に横になっていたパープルと目が合い、スイは少し考えてそのまま障子を閉めた。

 その姿は裸だったらしく、肩から背中にかけて丸見えだったわけだがスイにはそんなもの眼中になかった。


 「・・・ライ様の寝顔、始めて見た」


 ついでに眉間に皺が寄っていない顔も。

 じーん、と地味に感動しているスイは知る由も無かった。

 中で猛然と帰り支度を始めたパープルを必死に押し留めようと攻防するライの姿など・・・。







 「・・・で、何の用だ?」

 「・・・・・」


 いつものように着物を着て眉間にびっしりと皺を寄せるライ。

 その皺がいつもより1本多いような気がするのはスイの気のせいではないだろう。

 しゅん・・・と項垂れていると目の前に温かいご飯が置かれた。


 「はい、どうぞ。・・・ライ様も・・・その、お口に合うか分かりませんが・・・」


 お盆で口元を隠し不安気にライを見つめるその様はいつものパープルからは想像も出来ない。

 頷いてそれを受け取るライもいつもとは違い、柔らかな空気を醸し出している。

 「いただきます」と手を合わせ、もぐもぐとちゃっかり朝ごはんを一緒に食べる。

 食べている間もパープルは醤油を取ったりお茶を注いだりと甲斐甲斐しく世話を焼いている。

 それはまるで・・・。


 「・・・なんか、新婚さんみたいですね」

 「そうか、お前もそう思う・・・」

 「は!?な、ないないないないない!!絶対無い!ライ様と私が・・・し、新婚!?そんな夢みたいなことあるわけない!!」


 しーん・・と沈黙が下り、びしっとライの眉間に皺が寄る。

 スイが「あ」と思ったときにはパープルを引き寄せ、「・・・私の妻になるのが嫌なのか?」とドスの聞いた声で囁いていた。

 その風貌はまさに魔王と呼ぶに相応しく、パープルはもちろんのことスイも見惚れた。

 無意識に2人の口から、「かっこぃぃ・・」と呟きが漏れる。

 ぼーっとライを見上げるパープルからは望む答えは得られなかったものの、「かっこいい」と言われて、ライの耳が赤くなっていたことに気づいた者は誰もいなかった。


 「そう言えばスイ、何の用だ。私は昼まで行かないと言ったはずだが?」

 「あ、はい。パープルさんのお仲間が向かえに来ていましたのでそれを伝えに」

 「「・・・・・」」


 言いながらもぐもぐとご飯を食べるスイを2人は呆れたように見つめた。

 ・・・待たせている人間が居るにもかかわらず、暢気に飯を食べようとは・・・。

 

 「あ、じゃあ私帰りますね」


 パープルが席を立ち上がろうとしたとき、ライの眉間に皺が増えたことに気づいたスイはパープルを引きとめようと、ちょっとだけ頑張ることにした。

 ・・・面倒くさいが。


 「そういえば、なんかお願いだとか、頼むだとか色々言われました」

 

 「何頼んでたのか全く覚えてないですけど」と付け加えればライが呆れ顔でスイを見る。

 パープルは少し考えて「あれかな?」と首をかしげた。


 「ん~・・・なんかね、新しい水着買ってたからスイちゃんに水出して欲しいんだと思う。ほら、ここって屋上に大きな窪みあるでしょう?」

 「はぁ?なんで俺がそんなこと・・・しかもあれはライ様の温泉用で・・・」

 「あはは。皆スイちゃん大好きだからねぇ・・・一緒に遊びたかったんじゃない?」

 「・・・迷惑です。俺はそう言うの嫌いで・・」


 本当に嫌そうな顔をしたスイにパープルは苦笑する。

 こう言うところが皆に好かれる原因なのだ。

 どんなに媚びてもばっさりと切るその潔さ。

 面倒くさいと言いながらやることはちゃんとやってるのがちょっと可愛かったりする。

 スイに悪いとは思うが、ピンクとブルーが楽しみにしていたことも知っているのでパープルはライを振り返り困った様に首を傾げた。

 するとひとつ頷いて、スイを見る。


 「スイ、それくらい出してやれ。別に支障はない」

 「わかりました」


 即答である。

 きらきらとライを見つめるスイにパープルはいつものように笑いを堪えるのに必死だった。






++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 「スイちゃーん!大好き!!」

 「俺は大嫌いだ」

 

 抱きつこうとしてきたピンクを交わし、窪みに手をかざす。

 するとどこから沸いてきたのか、大量の水が流れ込み、屋外プールの完成である。

 

 「おおー!!」っと叫んでぱちぱちと盛り上がっているピンク、ブルー、パープル。

 いつ見ても魔力もちの力を見るのは面白い。


 ふんっと振り返ったスイにそれぞれがお礼を言うが帰ってきたのは素っ気無い返事で。

 それでも「萌えだ!」と叫ぶ3人に白けた目線を向けている。

 

 「これでもう良いだろう」

 「えー?もう行っちゃうの?」


 ピンクが唇に指をつけて言うとスイがぞわぁっと震え上がった。


 「それをやめろっていってるんだろぉがっ!!嫌がらせか!?」

 「そんなことないよぉ。スイちゃんが好きだから勝手にこうなっちゃうんだもん」


 先ほどから語尾にハートでも付きそうな勢いである。

 腕を掻き毟って嫌がっているスイを見て更に笑みを深めていることに気づいているのはブルーとパープルだけだった。


 「じゃあ、泳ぐ?水着に着替えないの?」


 流石にスイが可哀想になってパープルがピンクとブルーに問えば、タイミングよく2人のお腹が鳴った。


 「「その前に、お腹すいた~」」

 「「・・・・・」」


 お腹を押さえて言う2人をパープルは呆れて、スイは「知るかっ」と見つめた。





  

 

 

 

 

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