ある日のお2人さん(1)
薄暗い閉鎖された空間。
流れる音楽はジャズでいかにも大人の空間といえる。
オレンジ色の光が灯るBer。
初老の紳士がバーテンダーの服を着てカクテルを作っている。
シャカシャカと音がより大きく聞こえるカウンター、そこに2人は並んで座っていた。
「マスター、いつもの」
「あ、俺日本酒よろしくー」
しかめっ面のライの前にラウンドアイスの入ったバーボンが置かれる。
そして博士の前には普通Berでは余り頼まれない日本酒。初老のバーテンダーは苦笑してこれを出す。
しかもおちょこではなく湯のみくらいの大きさがある。
ちびちびと味わって飲むライとは違って博士はがぶがぶと飲みまくるため、おちょこでは足りないのだ。
博士は日本酒をさっそく煽る。
「ぷはーっ!やっぱこれに限るよな!」
居酒屋の飲み方なそれにライはマスターにすまなさそうに目を伏せる。
マスターはもう慣れたとでも言うように苦笑している。
博士に呼び出されて律儀に付き合うライ。
古くからの付き合いもあって断れないのだ。
博士は日本酒をゆらゆらと揺らしながらにやにやと笑う。
「ね~・・・ライちゃん、最近どうよ?俺はさぁーブルーちゃんとらぶらぶでさぁー?って言うかあいつが離してくれなくて困ってるぐらいでさぁ?」
「・・・・・」
「俺の傍から離れたら死んじゃう!ってぐらいなんだぜ?も~やめろって言ってもくっついてきて困っちゃうくらい愛されてて~」
「・・・・・」
ブルーがこの場に居れば間違いなく「それは博士でしょう!」と抗議するに違いない。
しかし博士が話せば話すほどライの眉間の皺が寄っていくのをにやにやと見ながら酒を飲み続けている。
「で、ライちゃんは最近どうなのよ?」
「・・・・・」
眉間の皺が最高潮に刻まれる。
カランっとグラスの中の氷が揺れる。
ライはその様子をじっと見て自問するように語りだした。
「・・・最近、会っていないんだ。よく家に来ているのは知っているんだが私が帰るころにはもう居なくなっていて・・・綺麗になった部屋やら用意された食事やら・・・あげく夜は陽の匂いのする布団で寝るわけだ。あれだけ自分の痕跡を残して帰るくせに本人はいつもいないんだっ・・・!私の帰りを待つと言う選択肢はないのか?一緒に食事を取ると言う選択肢はないのか?私に、会いたくないのか・・・?なぁ、どう思、う・・・・・・・・・・・・」
ライが博士を振り返ると博士はライに背中を向けてぷるぷると震えていた。
それを訝しげに思い、「おい・・」と肩に手をかけた瞬間耐え切れないとばかりにカウンターの机をばんばんとたたき出す。
「ぎゃはははははは!かーわいそーっ!!!ぷ、ぷぷ・・・馬っ鹿じゃねぇ!?ひーひー・・・知ってる?ライちゃんみたいな奴の事馬鹿って言うんだよ!!ププー!さっすがライちゃん!!ギャハハハハ!!」
「・・・・・」
涙を流しながら馬鹿にしたように笑う博士。
ライはくっきりと後が付くほど眉間に皺を刻み、目に影を作ってただ黙っていた。
「こいつに相談なんてしようとした私が馬鹿だった・・・」と頭痛を和らげるようにコメカミを揉んでいる。
笑い続ける博士を無視してバーボンに口を付ける。・・・が。
「!?」
「あははははは!飲め飲め!飲んでテンションあげてこーぜー!?」
グラスをそのままがっと固定され一気に飲まされる。
ごくっごくっとバーボンがライの喉を嚥下する。
ライは首まで真っ赤になって倒れた。
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「たっだいまー!博士のお帰りですよ~!ブルーちゃーん!!お水ちょーだーい!」
「ほいほ~いっとぉ。お~酔っ払ってますなぁ」
上機嫌で帰ってきた博士はブルーにじゃれ付き「ちゅー」とか言いながらブルーの顔にキスしまくっている。
ブルーは「やめろー」と抵抗しているが体格差もあって暴れても余り意味を成さない。
そんな2人を気遣って広場でテレビを見ていた皆は席を外そうとした。
しかし博士は思い出したようにパープルを呼び止める。
その顔はニヤついていてパープルは引きつった笑みを浮かべた。
「な、何・・・?」
「いや~ライちゃん潰して来ちゃったから心配だなって!」
「なっ!!」
語尾に星でも飛びそうなくらい可愛らしく言われてパープルの額にぴきっと怒りマークが浮かんだ。
そしてそのまま外に出て行く。
一緒に着いて行こうとしたイエローを殴り飛ばしてから。
ぷしゅー・・・と湯気を出しつつ一瞬気絶したイエローががばりと起き上がって辺りを見渡す。
「あれ、パープルちゃんは!?出ていったのか?!こんな夜中に危ないだろ!!どうすんだよ、俺のパープルちゃんに何かあったら・・・ぶっ!」
「うるさい」
レッドが追いかけていこうとしたイエローの襟首を掴む。
確かに夜歩きは心配だが基地と城はお隣同士。
パープルも、もう成人しているのだし余り深く干渉するのもよくないことに思える。
早くこの場を離れなければブルーに怨まれそうで怖い。
・・・何故か俺を睨んでいるし、とレッドは少し落ち込む。
片方の手ではピンクの手を引いて、もう片方の手ではイエローを引きずってその場を後にした。
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「イエロー大人しくなった?」
「いや、ならなかったから実力行使で。・・・・君との時間を邪魔されたくなかったから」
頬を染めて目を逸らすレッドとそれを微笑ましげに見つめるピンク。
俯いて真っ赤になったレッドに後ろに回って背中から抱きついたピンクはレッドの耳に口を寄せて誘うように囁いた。
「今日はしないの・・・?」
「えっ!・・・・あ、はい・・・っっ!!」
耳を食まれ背筋に電気が走る。
そのまま振り返れば蜂蜜色の瞳をとろりとさせたピンクと目が合った。
甘い、甘い色。
それは蜂が蜜を求めるかのように。
甘い、甘い誘惑だった。
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博士の部屋にお持ち帰りされたブルーは何故か剥れていた。
博士が「ブルーちゃーん?」と頬を突くが、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
がりがりと頭を掻いた。
嫌がるブルーを無理やり腕の中に閉じ込めて逃げられないように固定する。
「どうした?俺なんかしたか?」
「・・・私、もう疲れたんで離してください」
「・・・え。え?まじで俺なんかした?・・・なんで怒ってんの」
「・・・別に怒ってないです」
顔は上がっているが目は床を見ており、明らかに不満顔だ。
ブルーの頭に額を擦り付けるようにして懇願を繰り返す。
「俺に話せないことでもあんの?」
しばらくそうしていると、顔の前で交差している博士の腕を握ってブルーがぽそぽそと話し出す。
「・・・だって、ライちゃんライちゃんってそればっかり・・・」
「え?だってお前、それは・・・」
言いかけるがブルーがばっと博士を振り返り、一言。
「そんなにライさんが好きなら2人で付き合っちゃえばいいじゃないかっ!!」
「っておい!!」
ずびしぃ!と突っ込みを入れるがブルーの目が予想以上に本気で焦った。
後ろからぎゅっと抱きしめいつに無く真面目な声を出す。
「ごめんな」
「・・・私が1番ですよ」
「当たり前だろ」
拗ねた恋人にそのことを証明するために博士はブルーの襟元に手を掛けた。
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「・・・お酒弱いのに博士なんかに付き合うから」
寝台に横たわるライの長い銀髪を梳くように撫ぜる。
いつ見ても整った顔をしていて眉間に皺が寄っている。
今も眠りながら眉間に皺が刻まれていて苦笑してしまう。
Berで潰れていたライに肩を貸して引きずるようにして寝台に寝かせた。
いつになく飲んでいたようで、顔が赤い。
「・・・かっこいい。色っぽい。かっこいい・・・」
ライが眠っているのを良いことに、髪や頬に触れる。
いつもは緊張しすぎて目を合わす事さえまともに出来ない。
「もう、大丈夫だよね?」
このまま帰っても。
そう思って立ち上がった、そのとき。手を掴まれた。
「行くな」
「!」
気づけばライの金色の瞳がパープルを捕らえていた。
甘め。
それぞれの展開です。