藤色図書室
「ねぇ・・・起きて?」
「う~ん・・・・」
寝返りを打ってピンクの腰に纏わりつくレッドの頭に寝癖を見つけてピンクは淡く微笑んだ。
素肌が触れ合ってこそばゆいが心地良い。
もう一度レッドの体を揺するとやっと目を開いて上半身を起こして自分を見下ろしていたピンクに微笑みかけた。
2人の距離が縮まり唇が重なろうとした・・・そのとき。
ばぁん!とレッドの部屋の扉が開いた。
「きゃあ!もぉ~何で入ってくるんだよぅ!」
「え、あ。ごめん。でも布団干したいから早く起きて。じゃ」
言う事だけ言ってぱたん・・・と扉を閉めたのはパープル。
2人は顔を見合わせてはぁ、とため息を吐く。
時計を見れば11時。確かにそろそろ起きなければいけない時間だ。
レッドはむくっと起き上がりぴんっと跳ねた髪をガシガシと掻いた。
「ったく・・・あいつはお母さんか・・・」
「まぁ、干してくれるのは助かるけどね・・・」
この現象がブルーと博士のところにも起きるのは数分後の未来。
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ぱんぱん!と布団を叩く音が響く。
今日は天気が良くて干し日和だ。
大量の布団を干している。
「・・・よく他人のまで出来ますね。俺のまで・・・面倒くさくないんですか」
「ん~?別に何人でも一緒だし。それに嫌いな人のはして無いよ。ドクとか」
自分の布団を運んで来たスイに呆れ顔で見られた。
ここは魔王城の中にあるライの家。
戦隊メンバーの布団を干してそのまま魔王城にまで流れてきたわけである。
スイのだってライのついでだし、面倒くさいと文句を言いながらもスイは手伝ってくれるしとても良い子だ。
干す前にライの布団を抱きしめて匂いを嗅いでいたところをスイに目撃されたのは記憶から葬り去る。
「・・・桃色工房はいいんですか」
「私は3時にいればいいだけだから大丈夫。スイちゃんもたまには遊びに来てよ。皆喜ぶから」
「・・・嫌ですよ。ぶりっ子女がいるじゃないですか」
「はは!ピンクのことそんな風に言うのスイちゃんくらいだよ」
スイを見ずに笑うその姿は自然体。
余りにも態度が変わらないそれに自分を男と見ていないんだろうな、とスイは感じた。
パープルは20歳でスイは17歳。
年下は範疇外らしい。
別に構わないのだが、少しは意識しないと危ない気がしたりしなかったり・・・。
面倒くさいので注意したりはしないが。
尊敬するライの恋人であるパープルはスイにとって一応一目置く存在だったりする。
最近ライの元気がないように思える。
きっとパープルのせいだと踏んでいるのだが面倒くさくて聞く気にもなれない。
とにかく早くライが元気になると良いな、くらいには思った。
布団を干している間にライの部屋を掃除したり庭の手入れをしたりと急がしそうだ。
布団を取り込み、桃色工房に戻ったかと思うと4時頃、エンを引きずってまたやって来る。
今度は晩御飯を作って直ぐに帰る。
何でも戦員の晩御飯も作っているらしい。
面倒くさくないのか、いや面倒くさくないわけがない。
まるで恋人と言うより家政婦か何かのようだ。
まぁ、どうでも良いけれど。
そんなことを思っていると仕事を終えたであろうライが帰ってきた。
スイを見て顔を顰めている。
「・・・スイ、お前仕事はどうした」
「あ。忘れてました」
は~、とため息を吐くライを見つめつつ、仕事場にライが居ないのなら残業などする気は1mmもないスイであった。
そして何を思ったかライは辺りを見渡しまたため息を吐く。
「・・・スイ、お前暇か?夕食を一緒に食べないか」
「ええ、構いませんよ。今日は俺の分も作ってもらったんで持ってきます」
「・・・・・何?」
「何か手伝ってくれた御礼とかいって。煮魚でしたよ」
スイが言うとライはまたため息を吐く。
「まったく、あいつは・・・」と眉根を寄せてぶつぶつ言い出す。
そんなライを眺めつつ、スイは昼のある出来事を思い出した。
「・・・そう言えばパープルさん、ライ様の布団抱きしめて悶えてましたよ」
「・・・・・・」
思いっきり顔を顰めたライだったがスイはその耳が赤く染まっているのに気づいた。
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「パ~プルちゃーん」
「パープルー」
ひょっこりと顔を出してピンクとブルーが部屋に入って来る。
しかし、余り反応が良くない。
顔も上げず「ん」と返事をしただけだった。
「・・・今度は何読んでるの?」
「すごい積んであるんだぞ・・・」
眼鏡を掛けたパープルの回りには本、本、本。
がつがつと言う効果音が付きそうな位の勢いで読み進めていく。
「ん~?ファンタジー小説。面白いよ、読む?今全部で40冊くらい出てるけど」
「いや、遠慮しとく・・・」
「漫画なら良いんだけど活字はちょっと~・・・」
無理、と言っているのにあらすじを説明しだして「このセリフ使える!」とメモしている。
そしてパソコンに向かって小説を書き始めるのだ。
パープルの小説部屋の名前。その名も「藤色図書室」。
色々書いていて、作品によってはファンメールが届くらしくとても喜んでいたりする。
ブルーの水色自由帳と同じで妄想の産物だ。
本を読み終わったらしいパープルがやっと2人を見る。
「で、どうしたの?」
「オタ話しに来たの!」
「面白いアニメ見つけたよー」
「まじで!?」と色めき立つ3人。
その語り合いは深夜にまで続く。
それぞれの恋人が人恋しい夜を過ごしているとも知らないまま・・・・。