はじまり、はじまり
「お兄ちゃん、もう直ぐ始まるよ?」
「ああ、今行く」
俺の部屋にノックもせず顔を覗かせる女の子。
長い髪をウサギのような髪型にしている。
妹のパープルだ。
わがままで小憎らしいのだが甘え上手でつい甘やかしてしまう。
「あのメンバーじゃお兄ちゃんが居ないと纏まらないよ?リーダーだし」
パープルの言葉に苦笑して触角のような耳がついた頭を撫でる。
すると気持ちよさそうに目を細める。だからつい、してしまうのだ。
パープルに手を引かれて部屋を出てすぐの広場に行く。
すると既に全員揃っていて、とても・・・うるさい。
「あ!パープルちゃん!!ここ、ここ!ここに座って!!」
目に痛いほど黄色い髪を短くし、耳や顔にピアスがついた三白眼の男が椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がりパープルに向かってぶんぶんと手を振る。
イエローだ。
パープルが好きなことを隠そうともしない。
いつも全力でパープルに付きまとっている。
しかし。
「うざい。きもい。死ね」
・・・我が妹ながら容赦ない。
俺を挟んでイエローとは反対側の椅子に座っている。
つんっとそっぽを向くパープルに苦笑すれば、その隣に座っていたピンクと目が合ってにこっとお互いに微笑んだ。
いつ見ても可愛い。
癒される。
髪は肩に付くくらいで内巻きにしている。
耳の直ぐ上ぐらいにつけている花の髪飾りがポイントだ。
舌ったらずな話し方も堪らない。
えと・・・俺の彼女です。
「はーい!レッドさん!博士まだなんですか、このヤロー!」
「・・・・そうみたいだね」
「ちっ。役に立たねぇなっ」
にっこにっこしながら元気よく発言したのはブルー。
冗談っぽい言い方なのだが、棘を感じるのは気のせい・・・だと思いたい。
大きなリボンカチューシャをツインテールにした頭につけている。
いつ見てもボリューム満載のロリータ姿だ。
ブルーはすぐさま俺から興味を無くし、パープルとピンクに話しかけ始めた。
ため息を付いてふと視線を横にスライドさせるとブルーの隣に座っていたのはグリーン。
相変わらず影が薄い。
何故か手に豆腐を持っていて、ブルーをちらちらと気にしている。
グリーンはブルーが好きだ。
何でも昔、落し物を拾ってもらったのがきっかけらしい。
そんなことで?と思うかも知れないが、皆に存在を気づいてもらえないぐらい影の薄いグリーンには感激した出来事だったのだ。
そのまま円卓の円に沿って視線を動かすと・・・。
熱烈なキスを交わす2人。
ホワイトとブラックだ。
いつものことなので誰も驚かない。
ホワイトは前髪を長く伸ばし片目を隠している。
覗いているもう片方の目の下にホクロがあり、色っぽい。
ブラックは小さく、華奢で可愛らしい。
触角のようなアホ毛がぴょこんっと揺れている。
ホワイトに唾液を流し込まれて、とても苦しそうにもがいているが嫌そうではない。
あと、一応言っておく。
ブラックは男だ。もちろんホワイトも男。
2人は性別を超えて愛し合っている。・・・・濃密に。
「・・・ホワイト、ブラック。それ以上は止めてくれ。会議が終わってからだ」
「・・・じゃあ早く終わらせろ」
「い、いや!ごめん、レッド!その、ホワイトの奴がキスしないと後で酷い目にあわすっていうから・・・!!」
ホワイトがギンッとこちらを睨むのとは正反対にブラックは真っ赤になって言い訳をし出す。
キスを邪魔されたホワイトの機嫌は最悪で、女の子3人がぴきっと固まってしまった。
何とかしなければ。
「おい・・・」
「で・き・た・ぞー!!!!!!」
「わきょっっ!!!」
ばんっ!と机が鳴ると同時にブルーの変な奇声が聞こえて振り返ると、天然パーマ・白衣・顎鬚でにやにや笑っているふざけた男がブルーを腕に入れてその前に「今回のミッション!」とクレヨンで書いた画用紙を立てていた。
博士だ。
この悶えんジャーの創立者。
出資しているのは俺だが。
博士はいわゆる天才と言うやつでとても頭がいい・・のだが、天才となんとかは紙一重ってやつで。
楽しいこと、ふざけたことが大好きでよく人をからかって遊んでいる。
特にブルーがお気に入りらしく今もブルーの頭に顎を置き、ぐりぐりとしている。
ブルーは「やめろー!」と嬉しそうにしているので問題なさそうだが。
「博士、出来たんなら早く進めてください。もう既に色々崩壊しそうですから」
「なんだよ、レッド!冷たいなぁ!今日は週1回の会議の日だろぉ?もっと皆でわいわいがやがやして遊ぼうぜ!?」
「博士・・・」
「いや~俺さぁ、こんなにいいアイデア思いつくなんて天才!?って思ってさ!!な!ブルー!!」
「ハイっ!博士は天才ですっ!でもブルーには紙芝居が見えないんだぞ!!」
「紙芝居じゃなくてミッションを説明するやつな」
そんなことはどうでもいい。
さっさと進めてくれと思い「博士、いい加減にしてください!」と言う。
だがいくら言っても聞かない。ブルーにじゃれ付いて遊んでいる。
もう1度注意しようとしたそのとき。
「おい、顎鬚親父。さっさとしろ」
「パ、パープルちゃん、酷い!!俺、まだ親父じゃないもん!お兄さんだもん!!なっブルー!」
「はい!・・・・きょえ!」
突然バァン!!と机が鳴る。
足を組んだパープルが顔を下げて目だけを上に向け、博士を睨んだ。
「早くして」
「ごめんなさい」
博士が素直に謝る。
「パープルちゃん・・・可愛い!!」
「うるさい。死ね」
イエローがそんな凄みの効いたパープルにハートを飛ばすがばっさり切られる。
勢いで抱きつこうとしたため、パープルの右ストレートが綺麗にイエローの頬に入った。
いつものことなのだが、こうなるとイエローは不死鳥のごとくパープルに向かっていく。
また収集が付かなくなるぞ・・・と思い焦った、が。
「皆、仲良くね?」
今まで縫い物をしていたピンクがにっこりと首をかしげて皆に注意した。
・・・可愛い。
「えー、今回のミッションは・・・」
博士がすぐさま説明を開始する。
そのことに驚いて辺りを見ると、何故かほとんどのメンバーの顔が強張っていた。
・・・何故だ?
「どぅるるるるるるるるる・・・・じゃん!」と自分で効果音を付けた博士は紙を1枚捲った。
紙にはこう書かれていた。
「魔王に奪われた密書を奪還せよ!」・・・と。
皆口々に話し出す。
俺は「密書ってなんです?」と。
ピンクは「まぁ」と。
ブルーは「見えないんだぞ!!」と。
ホワイトは無視。
ブラックはそんなホワイトに「おい、ちゃんと見ろ!」と注意している。
・・・・あ、忘れそうになっていた。
グリーンは・・・・っと。
・・・博士に後ろからハグされたままのブルーを切なげに見つめている。
イエローは「パープルちゃんが行くなら行く」と。
そしてパープルは。
「魔王って・・・ライ様?ライ様がそんなもの奪うわけないでしょ。そんなことしないからね」
「パァ~プ~ルちゅわぁ~ん?いいのかなぁ??参加しなくてぇ?ライちゃんがどぉなっても・・・」
「ど、どう言う意味?」
「パープルちゃんが参加しなくても皆は強制参加だから。何たって密書だし。・・・いいのかなぁ?ライちゃんが怪我とかしちゃっても」
それならそんなミッション出すな!と言えばいいのだが、パープルは動揺して思考が回らないらしく、にやにやと笑う博士に「行く」と悔しそうに言う。
そうしているうちにホワイトがやっと博士を見る。
「俺は行かないからな」
「密書奪還できた人の言う事を1日だけ何でも聞くことにしよう」
「行く」
「!」
まるで王様ゲームのような決まりである。
しかしホワイトは気に入ったらしく、つやのある目でブラックを見た。
ブラックはびくぅぅ!と飛び上がり、冷や汗を書いた。
「お、俺参加しない!」と言ったのだが、物凄いおお声にかき消された。
「ま、まじで!?」
余りにその声がでか過ぎて、皆がその声の主・・・イエローに集中する。
「ってことは、パープルちゃんとデートしたり、パープルちゃんとちゅ、ちゅーしたり・・・も、もしかしてや、やっちゃったりとかも!?そ、そんな、まじかよ!?」
ばっと血走った目でパープルを見るイエロー。
その目がパープルの唇を見て下にスライドしていく。
つー・・・っと鼻血が流れた。
こぶしを握って俯き震えだしたパープルをピンクが苦笑して「頑張って」と応援している。
パープルはピンクに凭れ掛って疲れたように顔を伏せた。
「よしよし」と言ってパープルの頭を撫でるピンク。
・・・やっぱり可愛い。
抱きしめたい衝動に駆られるが、皆がいるし我慢しなくては。
気を逸らすため、皆をぐるりと見ると、ホワイトとブラックが既に居なくなっていた。
イエローは何やらぶつぶつと願望を呟きながら鼻血を流しているし、グリーンは頭からきのこが生えそうなくらい暗い。博士はブルーを擽って遊んでいる。
今日もぐだぐだだ。
こんな俺たちだが、とても仲がよく同じ家に住んでいる。
はじめまして!パープルです。
ほとんど99パーセント戦うつもり、ありません!!
そんな私達ですがどうぞよろしくおねがいします!!