イエローGET大作戦!(1)
「で、出来ましたわ!!」
目の下に隈を作った妖艶なる美女、ドク。
ばん!と瓶を机に置くと同時に、大きな胸がぷるんと揺れる。
瓶の中にはショッキングピンクの液体。
とろりと揺れて、甘ったるい香りまでする。
どう考えても怪しい。
「ふふふふふ・・・」とドクが笑いだしたかと思うとそれは徐々に大きくなり、終に高笑いとなった。
「おーほっほっほっほっほ!!この色、この香り、全て完璧ですわっ!わたくし、終にやりましてよっ!!ふふふふふ!!笑いが止まりませんわぁ!これでイエロー様はわたくしのと・り・こ」
真っ赤な唇が弧を描き、瓶を愛おし気に撫でた。
「この、薬さえあれば」
妖艶なる魔女が、ここにいた。
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ピンクとブルーとパープルは今日もスイにプールを出してもらおうと城に来ていた。
ただし、余計なものが付いて来てしまっているが。
イエローだ。
パープルの周りに纏わり付いて今日も元気良くアタックしている。
「パープルちゃぁん!可愛い!!好きだっ!!」
「ああ、そう。私は嫌い」
「またまた~!でもそんな冷たいところが堪らない・・・やっぱ好きだっ!!」
「うるさい」
「あー・・・風に乗ってパープルちゃんの匂いがする・・・」
「・・・きもい」
「・・・パープルちゃん」
「?」
いつになく真剣な声を駆けられて訝しげにイエローを見上げる。
イエローは背がかなり高い。
見上げると首が痛くなるので無意識に目だけで見上げてしまうのだ。
自然、上目遣いになるわけで、いつもイエローを喜ばせてしまうのだが背が高すぎるためどうしようもない。
口を開けたまま顔を赤くして見下ろされ気分が悪くなったパープルはギッとイエローを睨んだ。
「・・・何、早く言いなさいよ。ああ、間違えたわ。とっとと帰れ、このサル」
「パープルちゃん・・・もうちょっとで見えそう・・・」
「は?何見て・・・・・!?」
イエローの視線を追うといつもよりパーカーのチャックが開いているのが目に入った。
胸元が丸見えである。
直ぐにチャックを上げてイエローの鳩尾をぶん殴った。
「・・・あーむかつく。何でそんなに背高いわけ?縮みなさいよ。いっつも見下ろされてすごくむかつくのよ。いっつもいっつもいっつもいっつもいつもいつもいつもいつも!!!」
「ぐはぁ・・・!パープルちゃん、待って!それマジで縮むって!!いたっ!!痛い痛い痛い!!やめてぇぇぇぇぇぇ!!!」
「・・・うぜぇ・・・」
「ぎゃぉぉぉぉぉぉお!!・・・っく、これも愛なんだよなっ!!任せろ!!俺が全て受け止めてやるっ!!」
「・・・・・」
「来い!」と腕を広げ目をキラキラさせて見上げてきたイエローに壮絶な寒気を覚えた。
蹴りをお見舞いするがそのまま足を取られ足に抱きつかれた。
「いやぁぁぁぁ!きもい!本当に気持ち悪い!!離せっ~!!」
「やべぇ・・・柔らかい・・・良い匂いもする・・・」
真っ青になって鳥肌になりながらイエローを殴りまくるがイエローもなかなかしつこい。
ピンクとブルーはいつものことなので放置していたのだが、突然ピンクは目の色を変えて小走りに視界に入った人に向かっていった。
ブルーが額に手をあて、見てみるとそこにいたのはスイ。
「お、スイちゃんだ」
「ブルー!!助けてよっ!!」
「パープルちゃぁぁぁん!!好きだぁぁぁあ!!」
パープルとイエローを放置してピンクとスイを眺めていたのだがどこか可笑しいことに気づいたブルーは首をかしげる。「おまっ!ちょ、今俺の視界に入るんじゃねぇ!!・・・ああ!!」「え~?どぉしてぇ?スイちゃん遊ぼ~?・・・スイちゃん?・・・ス、イ・・ちゃ・・・」と声が聞こえてそれからピンクが一気に青ざめたのが見えた。
すると何故かピンクがブルーに向かって猛然と駆けてきた。
その勢いのままブルーに抱きつき、追ってきたスイを指差した。
「スイちゃんがおかしい!!いつものスイちゃんじゃないっ!!」
言われてスイを見れば何故かスイはピンクを見つめて頬を染めていた。
そしてピンクに向かって一言。
「好きだ」
「「「・・・・・・」」」
「パープルちゃぁーんっ!!」
余りの衝撃にピンクとブルーとパープルはフリーズした。
唯一フリーズしなかったイエローが這い上がってきているがそれすら気にならないほどには衝撃的だった。
「ス、スイちゃ・・・どうしたの?熱でもあるの?!スイちゃんがあたしを好きなんて・・・!!そんなっ!!弄り甲斐のないっ!!」
「そうだぞっ!!そんな可愛らしく頬なんぞ染めおって・・・。さてはスイちゃんの偽者だな!?」
「スイちゃん・・・本当に大丈夫?スイちゃんがピンクを好きになるだなんて、死んでもありえないっていつも・・・・・ってこのサルの分際でどこ触ってんだ死ね!」
「ぐはぁっ!!も、もうちょっとだったのに・・・」
がくっとその場に倒れこんだイエローから抜け出したパープルは止めとばかりに踵落しをお見舞いして立ち上がった。
そうこうしているうちにもスイがピンクに向かってハートを飛ばしており、ピンクがブルーに泣きついている。
「えーん!こんなのスイちゃんじゃないよぉ!!いつものドSなスイちゃんが好きなのにぃ!!」
「ピンクさん、好きです。愛しています」
「いーやーっ!!!!!!何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえないー!!!」
「世界1可愛いです。俺のピンクさん」
「誰か私のドSスイちゃん返してぇぇぇぇぇ!!!」
こんなに取り乱したピンクを見るのは始めてかもしれない、とブルーとパープルはピンクをぽかんと見てしまう。
しかしその時。
甲高い高笑いが辺りに響いた。
「おーっほっほっほっほっほっほ!!!あの面倒くさがで無表情なスイにここまで効いたら完璧ですわぁ!!!うふ。薬のことでわたくしの右に出る者なんてこの世にはいませんわっ!!」
流れるような金髪をなびかせ現れた露出狂・・・もとい、ドク。
いつものように乳輪が見えてしまいそうなほどの布の面積の少ない服を身に纏い、自慢の巨乳をばいーん!とさらけ出していた。
ピンクはドクの言葉にいち早く反応した。
「あなたスイちゃんに何したの!?こんなのスイちゃんじゃないっ!!」
涙目、涙声である。
そんなピンクに向かって妖艶な笑みを向けたドクはふんっと鼻を鳴らした。
「まぁー!!誰かと思えば貧乳トリオではありませんことぉ?胸が可哀想なあなた方には教えて差し上げますわ!!だって可哀想ですものねっ!!おーっほっほっほっほ!!」
「「「・・・・」」」
3人の目が一瞬で座る。
絶対零度の中、ドクが勝ち誇ったような笑みで自慢げにショッキングピンクの液体が入った瓶を取り出した。
「これはつい先ほど完成したわたくし特性の惚れ薬ですわ!!ちょうどスイが通りかかったので実験させていただきましたわ」
「「「惚れ薬!?」」」
聞いてばっとスイを振り返ればなるほど、と納得する。
頬を染め、とろんとした瞳でピンクを見つめるスイ。
いつもならば無表情か不機嫌そうな顔か血管が浮き出るほどに切れ掛かった顔かのどれかのはずだ。
ピンクは自分を熱いまなざしで見てくるスイに悪寒を覚えながらドクに噛み付くように怒鳴った。
「実験ならこれでいいんでしょう!?早く元にもどして!!」
「無理よっ!!」
「何偉そうに言ってるのよ!早く解毒剤でもなんでも出して!」
「だから、無理よ!わたくし解毒剤なんて産まれてこの方作ったことすら無くてよ!!」
おーっほっほっほ、と高笑いしているドクに3人は愕然とした。
つまり、傍迷惑なものを作るだけ作って後は放置するとそう言うことなのだ。
解毒剤が無い、と言うことはスイは一生このままかも知れないのか。
しかし。
「ねぇ、牛」
「誰が牛よっ!?このうさぎ女!!」
「ありがと。私うさぎ好きなの」
にっこりと怒るドクに笑い返したのはパープル。
その手には血だらけのイエローを抱えていた。
「イ、イエロー様!?」
「ねぇ、ドク?こいつあげるから、それ頂戴?」
「ええ、どうぞ」
「じゃぁ、はい。・・・あ、返品不可だから」
イエローと引き換えに惚れ薬をすんなりと手に入れたパープルは踵を返しながらピンクとブルーを見た。
「博士に解毒剤作らせてくる!!」
「「おお!その手があったか!!」」
基地に戻っていくパープルにエールを送り、ピンクとブルーは後に残った、ピンクをひたすら見つめるスイと、まだ死んでいるイエローと、そのイエローをぎゅうぎゅう抱きしめているドクを見やった。
「あぁん!イエロー様ぁ!!お可哀想に・・・直ぐにドクが直して差し上げますわ!」
ドクが手をかざすとすーっとイエローの怪我が治っていく。
ドクは毒の力を使う。毒は時として薬にも成り得るのだ。
イエローの全身打撲が完治したその時、ドクは徐に胸の谷間を探りだした。
出てきたのは先ほどパープルに渡したのと同じ物。
惚れ薬。
「おーっほっほっほ!!こんなこともあろうかともう1本用意しておきましたの!ささ・・・イエロー様、お口を開けてくださいな」
瓶をイエローの口元に持って行き、飲ませようとした時、イエローが覚醒した。
「うおっ!?牛女!!?」
「きゃあ!!」
「「うぎゃぁ!!」」
反射的にドクの手を払いのけたイエローのせいで惚れ薬が宙を舞い、それが運悪くピンクとブルーに掛かった。
そして・・・。
「お前達、こんなところで何をしている。仕事しろ」
「あ・・・ライ様」
「ドク・・・お前またそのような格好で・・・・・ん?」
スイとイエローに跨ったドクを呆れたように見たのはライ。
そしていつものようにドクの裸同然の格好に注意しながら視界に入ったピンクとブルーに目を留めて眉根を寄せた。
「・・・何の用だ?特に用事が無いならそこの黄色いのを連れて帰ってくれないか。邪魔だ」
「「・・・あ」」
「悪いがお前達の相手をしているほど暇では・・・・な、なんだ」
とっとと追い払おうとしたのだが、ピンクとブルーのキラキラと輝く目を見て嫌な予感がした。
「べ、別にあなたなんか好きじゃないんだからねっ!」
むっとしながらライの右腕にするりと腕を回したのはピンク。
頬が淡く染まっていた。
「ラ、ライさん・・・す、すすす好き・・・うぎゃぁ~!言っちゃった!!恥ずかしい~」
真っ赤になりながら控え目にライの左腕の着物をきゅっと掴んだのはブルー。
ふるふると震えている。
「何の冗談だ。離しなさい」
振りほどこうとするがピンクとブルーは離れない。
ますますしがみ付いて来るばかりだ。
ライは眉間に皺をびっしりと寄せて辺りを見渡し、転がり落ちていた薬の瓶を発見して顔を引きつらせた。
そしてドクを振り返り腹の底から震えるような低音を出す。・・・その目は完璧に座っている。
「・・・ドク」
「は、はいぃ!!」
怒りが頂点に達しているのか、ライの身体からパチッパチッ・・・と雷が漏れ出していた。
小言は言うが滅多に本気で怒ったりしないライの不機嫌を感じ、ドクは思わずその場に正座する。
「どういうことか、説明してもらおうか」
「・・・は、はい・・・」
ドスの聞いた声に震え上がる。整った顔が怒りに歪む。
ピンクとブルーを両側に侍らせたライは誰がどう見ても魔王にしか見えなかった。