第92話:余計なことを……
いつもなら朝の七時までには必ず起きるようにしているのだが、今日は起こしてくれる人がいたり、二度寝してしまったりしたので目覚ましをセットしていなかった俺は、自然と目が覚めた流れでスマホの時計を確認し、
「………もう11時過ぎか。本当はあのまま一緒に起きて例のゲームをするはずだったんだけど、流石に三人を相手するのは疲れた。というか眠すぎて、髪を結んでやった後の記憶がない」
そう、全ては昨日の帰宅後から始まった。
ナナにサインを書いてやった後はそのまま真っ直ぐ家へと帰り、お土産のお菓子をエメさんに渡した俺は自分の部屋へと戻って、コートをクローゼットに仕舞おうとした瞬間――
ノックもせずに部屋の扉が開いたかと思えば、ミナ・リア・セリアの三人がもの凄~く可愛らしい笑顔で入ってきて、
「ねえソウジ、私達……まだ貴方に一回もデートに連れてってもらったことがないのだけれど……今日は一体誰と、どこに行ってたのかしら?」
「一人でちょっとお散歩に―――」
「行ってたわけじゃありませんよね~、ソウジ様?」
チッ、だから帰れって言ったのに。無理やりにでも追い返さなかった俺も悪かったけど、普通空気を読んで自分から帰るだろ。なのに二人してついてきやがって。
「それに今朝まではマイカ様とティア様のお二人が身に着けていなかったはずのネックレスと帯飾りを着けてお帰りになったのですが、これはどういうことでしょうか?」
「さ、最初はその二人と一緒に歩いてたんだけど途中で別れたから……その時に自分で買ったんじゃないかな~」
この状況でこのセリフに無理があるのは分かっている。出来れば指輪の件は隠しておきたいし、三人より先にあの二人と出掛けてしまったのは本当に悪いと思っているので、どうにか誤魔化そうとしたのだが……ミナが可愛らしく首を傾げながら、これまた可愛らしい声で、
「ん?」
「ヒィッ‼ すいません嘘です。流れでとはいえ俺が買ってプレゼントしましたし、一緒にお昼ご飯も食べてきました。というか、あれをデートというのなら俺の人生初デートはあの二人に捧げたことになりますが許してください!」
「急に大きい声なんか出してどうし……あ~、なるほどね」
扉が閉まっていなかったせいで俺の向かい側の部屋を使っているマイカには声が少し聞こえていたらしく、この状況を作ってくれた原因の一人であるというのに軽~い感じで入ってきたかと思えば、今度はティアまでやってきて、
「男が女子と一緒に買い物をしおったり、外で食事を一緒にしおったらそれはもうデートじゃろうて。逆にそこまでしておいてデートではないと言いおる者は、ただの遊び目的か相手の財布目当てということになるぞ」
「どう考えても最初から遊び感覚だっただろ! 逆にあれのどこがデートだったんだよ!」
「えっ⁉ いきなり私とティアの手を握ってきたり、そのまま一緒に歩いたりもしたのに、あれは全部遊びだったの? 私、男の子と手を繋ぐなんて初めてだったのに……」
確かにあれは女の子に対する配慮が足らなかったと反省しているけれど、今言わなくてもいいだろ!
「それに……こやつにしては珍しく『確かにそのネックレスと帯飾りは俺好みだし、二人とも似合ってるからプレゼントしてやる』などと褒めてくれたしの。……相手がおぬし等であっても中々言葉に出して褒めようとせんことを考えると、あれは結構レアじゃな」
マジで空気読めよバカが! お前ら俺になんか恨みでもあんのか?
「そういえば……この服をソウジから貰った時以降、褒められた記憶がないわね。別に私は毎日メイド服ってわけでもなければ、夜なんかは貴方の為に可愛いパジャマだったりネグリジェだったりを着てあげてるのに何も言ってくれないし……。一回だけ二人きりの時にベビードールを着たら、すっごい否定してきたけど」
「元々俺が露出しすぎてる服が嫌いっていうのもあるけど、あれはないだろ。てかベビードールで喜ぶ男とか、それもうただ女の子の裸が見たいだけでしょ。やっぱある程度隠れてるからこそ見たくなるってもんだろ。というか、それを着る相手が好きな子なら尚更じゃね?」
「じゃあティアさんがいつも着ている着物はどうなんですか? これも結構丈が短いですよね」
「着る人にもよるけど、ティアに関しては着物に限ってはアリだな。まさかリアルでミニ浴衣……じゃなくて着物が似合う子がいるなんて思わなかったわ」
それを着てる奴は420歳のババアだけどな。
「そういえば私達のメイド服はリアーヌ達のと違ってスカート丈が短いけれど、これもソウジの趣味かしら?」
「いや、それはお前らくらいの年頃なら普通かな~と思って。逆にリアのメイド服はメチャクチャ俺の趣味が入ってたりする……というか俺が選んだ服の中で一番拘ったと言ってもいいくらいだな。まああの時はお互い他人同士だったことを考えるとただの変態になるけど、結果的には婚約者になったんだしセーフでしょ」
「あの時私の分と一緒にお嬢様の分もご用意されていましたが、あれはどういう基準でお選びになられたのですか?」
え~と、確かミナはお姫様ってことでロングスカートを選んだんだっけ。
「あれは完全にミスった。ロングスカートは結構似合ってたんだけど、やっぱりミナがお姫様ってこともあるせいでパーカーがダメだったな」
実は結構好きな組み合わせだったりするので少し期待していたりもしたのだが、オーラ的なものが邪魔をしたな、あれは。
「……それで、結局お主はどんな格好が一番好きなんじゃ? 自分の婚約者のうちロングスカートを履かせておる者が二人に対してミニスカが一人と、傍から見たら随分といいご身分じゃのう」
「分かってないな~、お前は。いいか、まずミナとリアの二人はオーラ的なもののせいでどうしてもミニスカを合わせるのが難しい。だが丈の短いネグリジェだとそのオーラと合わさって滅茶苦茶可愛くなる。んで、セリアの場合は普段からミニスカメイド服を着ていることから分かる通りそっちも普通に似合う。というかネグリジェを着ることによって可愛さが更にアップする。つまり俺の婚約者三人は普段から超絶可愛いし、その理由は一人一人が自分に合った服を着ているからなんだから、どっちも好きってことだろ!」
そう言うと何故か誰も喋らなくなってしまい、何かまた女心が分かってない云々で怒られるようなこと言っただろうかと心配になり始めた瞬間――
………ちょっと待て。俺は今、何て言った?
「だっ、そうじゃ。これで少しは怒りも収まったかの?」
「というかソウジ君が三人に怒られる前に、ちゃんとお土産を渡しておけばこんなことにならなかったと思うんだけど……。てっ、これに関しては私達がどうこう言うことじゃないし、そろそろ行こっか」
「別にこの後何をしてもよいが、ちゃんと夜ご飯の時間にはリビングに来るんじゃぞ」
そんな余計なことを言い残し二人は部屋を出ていった。しかも今度はご丁寧に扉を閉めてくれたし。
そして問題の残された三人はというと、先ほどまでの怒りはどこへやらと言わんばかりの上機嫌さである。……さっさとお土産を渡してこの部屋から脱出しよう。
そう考えた俺は収納ボックスからヘアゴムが入った袋を三つ取り出し、透視魔法で中身を確認しながら、
「え~と、このレイクブルーっていうのがミナので……これがブラックだからリアので……こっちのブラウンがセリアのだな。それ、デザイン的に二個着けると変になりそうだから一個ずつしか買わなかったんだよ。だから出来る髪型が少ないと思うけど、まあたまに使ってくれればいいよ」
今三人に渡したヘアゴムは同じデザインの物だが、他に色違いの物が二つあったりもした。けどそれを買ってしまうと誰か一人だけ余ってしまうので、一人一つずつということにした。まあティアとマイカに買ってやった物の値段と比べるとちょっとあれだが、この子達は一々そんなことで文句を言うような心狭いケチな女とは違うので大丈夫だろう。
その証拠に上機嫌さが更にアップしたどころか、今すぐ何かしてほしそうな顔をしているが……これに関しては全く分からん……。取り敢えず今日の分の仕事でもしよう。
「じゃっ、俺は仕事があるからこれ―――おい、馬鹿! そんなに引っ張ったらコケるコケる‼ どうわあぁぁぁ⁉」
朝から仕事もせずに外出しておいてなんだが、実は今日中に終わらせておきたいことがいくつかあったため内心少し焦りながら部屋を出ようとしたところ、俺が後ろを向いた瞬間にチョッキの裾やシャツの袖を三人に掴まれただけでなく、そのまま引っ張られてしまった。
その結果、なんか知らないけど大の字状態でベッドに押し倒されたっぽい。しかも右腕にはミナが、左腕にはリアが、そしてセリアに関しては俺の腹の上に乗っている為、完全に拘束されている状態になってしまった。
実は僕、あんまり複数人プレイは趣味じゃないんですけど……。




