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世界最強の元一般人 ― 落ちこぼれ天才、最強の『使い方』で人生逆転!  作者: ITIRiN
第2章:王になるという選択

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第8話:鍋と王冠と、俺の覚悟

俺がリアーヌさんの髪を乾かし終えて少しすると、風呂からアベルが帰ってきた。

……なんでこいつが一番遅いんだ。普通は女の子の方が長いだろ。


「いや~、坊主の世界のシャンプーとリンスってやつ、すげぇな。ドライヤーとかいうので乾かしたら、耳と尻尾が今までにないくらいサラサラになったぜ」


なるほど。だから時間が掛かったのか。

……にしても自分で乾かしてくれてよかった。男の髪どころか、ケモ耳や尻尾まで乾かすとか絶対ごめんだね。


っと、このままだと「地球スゲー話」で夜飯が遠のく。


「おい、全員揃ったなら夜飯にするぞ。椅子に座れ」


「夜飯! 昼間のホットケーキも美味かったけど、次は何だ?」


「今思えば、あのホットケーキというのもソウジさんの世界の食べ物だったのですか?」


「いいから早く座れ。それと、俺が作れる料理は地球の物だけだ」


二人は素直に座ったが、リアーヌさんだけ立ったまま。


「ん? リアーヌさんも座れよ」


「いえ、メイドは皆様とは別に食事を――」


「ああ゛? んな決まり知らん。この家のルールは俺だ。一緒に食え」


「……ふふ。ソウジ様って、意外と強引なんですね」


言われてみれば確かにそうかも。……俺、こんなキャラだったか?


* * *


鍋を持って戻ると、リアーヌさんはお姫様と話しながら隣に座っていた。俺は人数分を取り分けつつ耳を傾ける。


「もう~、なんで私が言っても一緒に食べてくれないのに、ソウジさんが言うと素直なんですか?」


「お城では旦那様や奥様もいらっしゃいますし……二人の時はご一緒させて頂いてますので」


「う~ん。納得できるような、できないような」


「いや、あの城の連中はみんな一緒に食うだろ。俺もよく混ざってたし」


三人は俺に気づかず盛り上がっていた。……王族関係者のくせに、自由すぎだろ。


「おーい。準備できたぞ」


「ん? おおー! なんだこれ、美味そう!」


「はっ⁉ ソウジ様に全部やらせてしまい……本来なら私が――」


「俺はご主人様でも何でもない。気にすんな」


(まあ、もし本当に誰かの主になったとしても、任せっきりにはしないけどな。ゲーム中以外は)


「ん? なんで三人とも食わないんだ? しかも揃って手を合わせて」


「ソウジさんの世界では『いただきます』と言うのでしょう?」


……ああ、知識共有魔法で覚えたのか。小学校の給食以来だが、たまには悪くない。


「じゃあ、いただきます」


「「「いただきます」」」


食べ始めた三人の反応は――


「うまっ‼」

「見た目は野菜スープに似ていますが、味が全然違いますね」


「時間がなかったから鍋にしたけど、気に入ってもらえたなら何よりだ」


「えっ、この鍋というお料理はそんなに簡単なのですか?」


鍋はすぐに空になり、リアーヌさんが紅茶を淹れてくれた。……自分で淹れるより何倍も美味い。さすがプロのメイド。


* * *


「それで三人は、どうやってマリノ王国に帰るつもりだ? 知ってる限り、ボハニアを通るか海を渡るしかないが」


「そうなんだよな~。……そういえば坊主、お前どうやって洞窟に現れたんだ?」


「ああ、普通に転移魔法」


「はあ⁉ 転移魔法って、大量の魔力を消費するやつだろ! 噂でしか聞いたことねえぞ」


面倒だから駄女神のことはスルー。


「で、どうやって帰るんだ? 俺の転移魔法は行きたい場所をイメージできないと無理だぞ」


「ちなみにソウジさんは他にどんな魔法が?」


「……多分、魔力が尽きない限りなんでも」


「ははっ、神かよ……って、マジ?」


アベルはお姫様の表情を見て、嘘を見抜く能力を使ったと察したようだ。顔が引き攣っている。


「これは私達、凄い人と出会ってしまったようですね」


「お嬢様がそう仰るなら本当なのでしょう」


「信じてもらえたようで何よりだ。……正直に言うと、王族関係者のお前らに悪用されるのが怖くて、一度は見捨てたんだ」


俺がそう言うと、お姫様はジッと見つめ――


「ソウジさん。あなた、王様になる気はありませんか?」


王様、ねぇ。なれるならなりたいけど……


「簡単になれるもんじゃないだろ。ボハニアを乗っ取るか?」


「大体正解です。さすがソウジさん」


「“大体”ってことは……マリノ王国も絡んでるのか?」


「隣国があんな状態では、緊張は続きます。他国も同じ。だからこそ……」


要は、俺をボハニアの新しい王に据えたいってことか。

心を読む魔法を使えば一発だが、それじゃ信じる意味がない。なら方法は一つ。


「何が目的かは知らんが、俺には相手の心を読むこともできる。……ただ、この方法は出来る限り使いたくない。だから今回はお姫様を信じることにする。そのうえで、乗っ取りの件には協力するが――条件が一つある。今すぐお姫様の能力を俺に使って本当かどうか確認しろ」


「……ふふ。確認しました」


「そうか。で、作戦は?」


「まずボハニアの腐った上層をまとめて転移させる。そして国民の前でソウジさんが処刑すれば完璧です。あとは私達で」


……処刑、か。

ドラゴンですら迷った俺に、人を殺すなんて――無理だ。考えただけで体が震える。


「だい――ぶ――かソウ――様‼」

「――さん‼ ソ――さ―」

「おいぼ――ず?」


声が聞こえるのに、上手く届かない。眩暈もしてきた。

……この世界じゃ、王になれば人を殺す未来は避けられない。


ははっ。望んだ王様になれるってのに、震えて気絶しそうとか。

……いや、なんだこれ。震えが止まった? 温かい……包まれてる感じだ。


誰かの腕が、確かに俺を支えていた。

それが“救い”なのか、それとも“逃げ場を塞ぐ鎖”なのか――

考える前に、意識がゆっくりと遠のいていく。


落ち着く……眠く……なって……。

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