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世界最強の元一般人 ― 落ちこぼれ天才、最強の『使い方』で人生逆転!  作者: ITIRiN
第2章:王になるという選択

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第6話:マリノ王国の姫 ― 面倒な縁の始まり ―

初めてドラゴンを倒してから数日。

異世界で生きていくか、元の生活に戻るか――俺は揺れていた。


刀で肉を裂いた感覚。絶叫。飛び散る血しぶき。

あの光景は今でも鮮明に思い出せる。


「普通の生活に戻るなら今しかない」――そう考えては打ち消す。


理由は単純だ。

叶うはずがないと思っていた夢が叶ったのに、ここで引くなんてもったいない。

だが、このまま力を使い続けて王にでもなれば、もう二度と元の生活には戻れない。


悩んだ末の答えはこうだ。

この間稼いだ金で、城に家具や調理器具、着替えを揃える。

つまり――俺は異世界での生活を続けることを選んだ。


* * *


白のYシャツに着替え、数日ぶりに異世界へ転移する。


「昼過ぎなのに寒っ。……この格好は無理があるな。コートは現地で買うか」


日本とこっちの世界の時間は完全に同期しているらしい。

あの駄女神……絶対そのへんも勝手に弄ったな。便利だから助かってるけど。


「今日は城の模様替えの予定だったけど、まずは散歩でもするか」


そう呟き、城以外は森しかない土地を歩いていると、洞窟が見えた。


「ん? 森だけかと思ってたけど洞窟もあるのか。どうせすぐ行き止まりだろうけど、覗いてみるか」


軽い気持ちで近づいた洞窟の入口には――


「…………」

「…………」

「…………」


武装した見知らぬ三人組。剣を構える男、杖を持つ女、レイピアを握る女。

しかも全員、俺に敵意むき出し。


(やば……どうする? 逃げても城が近い以上、また会うかもしれないし。話すしかないか)


「あ、あのー……ここで何を?」


「…………」

「…………」


返事なし。むしろ殺気が増した⁉ 特に男と杖の女、めっちゃ怖い。


「あのですね! 俺は危害を加えるつもりは――」


「……リアーヌ、アベル。武器を下ろしなさい。この方は嘘を言っていません」


「かしこまりました、お嬢様」

「はいよ」


(おい……“お嬢様”とか言うな。王族とか姫とか、絶対面倒だろ)


「まずはご無礼をお詫びします。本当に申し訳ございません」


真ん中の女が深々と頭を下げる。続いてメイド風の女性も頭を下げ、男は――


「悪かったな、坊主」


(坊主って……見た目そんな変わらんだろ)


「あっ、はい。別に気にしてませんから、顔を上げてください」


「ありがとうございます。――自己紹介がまだでしたね。私はミナ・マリノ。右の男性がアベル、左の女性がリアーヌです」


(マリノ……? 確か近くの国の名前……嫌な予感しかしない)


「姫様の紹介にもあったが、俺はアベル。半獣人で、今250歳。人間で言うと25歳だな」


頭には耳、背には尻尾。なるほど、見た目は人間でも半獣人ってやつか。

……寿命、人間の十倍かよ。


「私はリアーヌ。お嬢様のメイドを140年ほど務めています」


淡い水色の髪。どう見ても十代後半にしか見えないのに――


「140年⁉ いや、どう見ても16か17歳だろ」


「ははは。こいつ、人間換算で19歳だぞ。……あ、やべ」


リアーヌさんの視線が鋭く光り、アベルが慌てて口を閉じた。

年齢ネタはどこの世界でも地雷らしい。


「……私はハーフエルフですので、実年齢は380歳。人間換算で19歳、ということになります」


尖った耳を見せるリアーヌさん。なるほど、魔法が得意そうだ。


そして、一番喋ってほしくなかった真ん中の人が爆弾を投下する。


「ご存じかもしれませんが、私はハイヒューマン。年齢はリアーヌと同じく380歳。そして――マリノ王国国王の娘です」


(出たよ! 本物の王族、しかもお姫様! 絶対面倒な展開!)


「そ、そうですか……。最近こっちに来たばかりで、勉強不足で申し訳ないです」


「お気になさらず。私はただの娘であって、女王でも王妃でもありませんから」


……威張らない姫様か。周りの二人も否定しないし、思ったよりまともかもしれん。


「そのような方が、どうしてこんな場所に?」


「実は最近、『ボハニアに見慣れない服の男がいた』『その男がギルドマスターと親しげだった』という噂が流れてきまして。一応、私達が偵察に来たのです」


(……それ、完全に俺じゃん)


もちろん名乗る気はない。トラブル確定だし。


「……そういえば皆さん、お昼は? よければ俺が用意しますけど」


「おい坊主、何が目的だ?」


(まずい。……正直に言うしかないな)


「遠回しな聞き方はやめます。俺はボハニアの様子と、あなた方がここにいる理由が知りたいんです。それと――自己紹介が遅れました。白崎宗司です」


「お嬢様、いかがなさいますか? ソウジ様には――あえてお答えになられていないこと、完全にお気づきのようです」


少し沈黙の後、姫様は微笑んで言った。


「それでは――お言葉に甘えて、お願いしてもいいでしょうか?」


「ええ。少しお待ちを」


材料が揃っていたので、ホットケーキを焼くと――


「な、なんだこれ! めっちゃ美味いぞ!」

「本当ですね! こんなお料理があるなんて!」


「おい坊主! おかわり!」

「あっ、ソウジさん。私もお願いします」


(……うるさ。これ、俺の分残るのか?)

――さっきまで命の重さに悩んでいたはずなのに、

人と飯を囲むだけで、世界はこうも変わるらしい。

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