第62話:会議前のひととき
あれから一日が経ち、今日はマリノ王国・ギルド・そしてうちの三つが揃った会議が行われる為、それに向けての最終準備……を俺がするわけもなく、リビングでのんびりとリアが作ってくれたゼリーを食べながら、メンツが揃うのを待っているところである。
何故俺が市販のカップゼリーではなく手作りのゼリーを食べているのかというと、リアとエメさんに『自分達でも作れる物であれば出来るだけそっちを食べて欲しい』と言われたからである。
最初はメイドとして何か譲れないものでもあるのかと思ったが、どうやらそれだけではなく、俺が勝手におやつを食べすぎないよう管理する目的もあるらしい。
お陰でゼリーやプリンは一日一個までって言われたし。これじゃあ、いつもピンクの笏を持ち歩いてる自称やんごとなき雅なお子様と同レベルじゃねえか。
などと文句を言ってはいるが、市販の物より二人に作ってもらったやつの方が確実に美味しいので、約束はしっかり守っていたりする。
勝手に食べてるのがバレて、作ってもらえなくなったら嫌だし。
そんなことを一人で考えながらゼリーを食べていると、ティアがクロエを連れて部屋に入ってきた。
「ギルド代表はおばちゃんじゃなくクロエか。ちょっと予想外だったわ」
「わらわもさっき、たまたま玄関の前で会ってのう。お主と同じことを言うたわい」
「セリーヌさんに、『今後ソウちゃん達とは長い付き合いになるだろうし、勉強も兼ねて行っておいで』と言われまして……。やはり私では駄目だったでしょうか?」
最初この部屋に入ってきた時は、今日もクロエで少し遊ぼうかとも思ったが、流石に今回はかなり恐縮してるというか、怖がってるっぽいので止めとこ。
「別におばちゃんかクロエならどっちでもよかったし、そんなに怯えなくていいぞ」
そう言いながら俺は食べ終わったカップとスプーンをキッチンへ運び、戻ってくる。
クロエはリビングの椅子に座っていたので、目の前の椅子に座り――
「ほら、これはプリンっていうお菓子なんだけど食うか?」
「いっ、いえ。その、申し訳ないのですが今は緊張しすぎて食欲がないといいますか……」
「別にそんな緊張しなくてもいいのに。まあ無理に食えとは言わないけど」
……リアとエメさんの二人は今この場にいないことだし、ゼリーの次はプリンを――ということで、いっただき―――
「旦那様、ゼリーかプリンは一日一個までと約束致しましたよね?」
「ぎゃあああああ‼ いつ? いつからいたんですか⁉」
「先程、旦那様が食べ終わったカップ等をキッチンへと持って行かれた頃からです」
嘘だろ?
別に注意しながら歩いてたわけじゃないとはいえ、よそ見をしてたわけでもない。
っていうのに、何で気付かなかったんだ?
どうやら目の前に座っていたクロエも気付いていなかったらしく――
「えっ⁉ 私にはエメさんが、いきなり現れた様に見えたのですが……」
「エメならずっとお主が座っておる椅子の後ろにおったぞ。気配は完全に消しておったがのう」
俺の後ろに気配を消して回り込んできた元ボハニア王国の騎士団団長の気配ですら、ギリギリとはいえ感じ取れたのに、エメさんのは全然分からなかったぞ。
あの時の相手がもしエメさんだったら……確実に殺されてたな。
「ということで、このプリンは没収です。お土産用にゼリーとプリンを幾つかご用意致しますので、よろしければ後でお食べください」
「あ~、俺のプリンが」
「お主もまだまだじゃの~う。あ~む♪」
「……流石ティア様、全然気付きませんでした」
スッゲ!
いつの間にエメさんからプリンを掏ったんだあいつ。ティアに関しては俺の隣に座ってたはずなのに、全然分からなかったぞ。
「以前このお城にお邪魔した時も色々と驚かされることが多かったですが、まだあるとは思いませんでした」
「エメさんの名前を知ってる時点で何となく分かってたけど、家に来たことがあったのか?」
「はい、ソウジ様とティアさんがいなくなられた日から何度かセリーヌさんと一緒にお邪魔しています。丁度マリノ王国の方達もいたので、既に面識もありますよ」
後者はミナが呼んできたんだろうけど、前者の方はあの件について事情を聞きに来たって感じか。流石ギルドマスター、仕事が早いことで。
俺はクロエの話を聞いて、ギルドに対する関心と警戒心の両方を抱いていると――
「ミナ達が帰ってきたってことは、これで全員揃ったな……。さて、マリノ王国はどう動くつもりなのか」
「お主、いつの間に他の者の魔力を感じられるようになったんじゃ?」
「盗賊狩りをしてる途中からだな。まあ一々記憶するのも面倒だから、家に住んでる人の魔力しか覚えてないけど」
つまりエメさんは気配と一緒に魔力も消していたことになるのだが……マジでどうやったの?
などと考えているうちに、ここにいるメンバー以外全員の魔力、そして知らない魔力が四人分近づいてきて――
「ソウジ様、お父様達を連れてきましたが、今日はどのお部屋を使う予定ですか?」
「俺が考えていた人数なら、雰囲気を変えて和室でもいいかとか考えていたんだが……なんか二人多くないか?」
「お母さんに向かってその言い方は酷いんじゃない、ソウ君」
「まさかソウジが国王相手にそこまで強気だとは思わなかったけれど」
そう、二人というのは勿論ミナとリアの母親のことであり、いきなりツッコんで欲しくないことをツッコんできやがった。
「私の母はまだ実母の一人だけですよアンヌさん。それとレミア様に関しては言ってる意味がよく分からないのですが。この前そちらにお邪魔した時のことを仰っているのでしたら今更のような」
「ねえソウジ……昨日はミナが、今日はリアーヌが少し歩きにくそうにしながら家に帰ってきたのだけれど……なんでかしらねえ?」
「それに昨日はミナちゃんの髪の毛が結ばれていて、今日はリアーヌの髪が見たことのない紐で結ばれているのだけれど……誰が結んだのかな~」
ちなみに今日のリアの髪型は、ゆるふわ系三つ編み(ツインテール)であり、結んだのはもちろん俺である。
「………二人のことはなんて呼べばいいんだ? 言っておくがお母様とママは絶対に嫌だからな」
「そうね~、じゃあ私は普通にお母さん……ちょっと、なんで嫌そうな顔してるのよ」
「だってその呼び方嫌いなんだもん」
「じゃあ逆にソウ君は自分のお母さんのことをなんて呼んでるの?」
「母さん」
どうもこの呼び方を母親は気に食わないらしく、昔はよくお母さんに直せと五月蠅かったが、全部無視した。
「じゃあ私は母さんでいいよ。リアーヌみたいにお母様って呼ばれるより、そっちの方が普通のお母さんっぽくていいし」
「王族貴族の世界で生きていながら、普通の母親らしさを子供に求めるのはお母様くらいです」
「じゃあソウ君とリアーヌの間に出来た子供には、自分のことをなんて呼ばせるつもりなの? 私が言うのもなんだけど、この子も普通じゃないわよ」
あっ、自分でも普通じゃないっていう認識はあったんだ。
「ご主人様との子供ですか……」
「なに顔を赤くしてんだよ。前も言ったけど当分子供を作る気はないんだから、そんなこと後で考えろ」
「いえ、何と言いますか……昨日のご主人様を思い出してしまいまして」
はあ? 昨日の俺ってどの俺だよ……とか思っていると、ミナが服の裾をか弱い力で引っ張ってきて、少し顔を赤くしながら、
「わっ、私もリアーヌがしてもらったようなことをされてみたい……です」
ちなみに俺は経験が少ないながらも色々と事前に調べ、ミナとリアでやり方を変えている。
ミナは一緒に盛り上がるのが好きで、リアは甘やかされると弱い。
……それ以上は秘密だ。




