第57話:久々の我が家 ― 「ただいま」と言えた日
どうやら、俺がセリアを抱っこしたのと同時に、ティアが残りの子どもたちを家の中へ連れて行ってくれたらしい。――キスしてるところは見られずに済んだ。
「気が済んだなら、そろそろ中に入るぞ。普通に寒い」
「それなら私がこのまま抱きついててあげる。これで温かいでしょ?」
セリアがぎゅっと抱きついてくる。胸が押しつけられてるけど……スルー、スルー。
「別に私はいいのよ」
元から三人のことは好きだし、将来的には結婚するつもりだった。でも元国王共を殺した時に完全に気持ちが固まってしまい、色々と抑えが利かなくなってきているのも事実だ。
「……そのうちな」
「うふふ。初めて私を抱きしめた時や膝に座らせた時は、まだ手を出してくれなさそうだったのに……この二週間で何かあったのかしら?」
「あったかもしれないし、なかったかもしれないし」
「なによそれ。全然教える気ないじゃない」
そんなやり取りを誤魔化しながら歩き、久々の我が家に足を踏み入れる。玄関では、セレスさんが待っていた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「俺がいなかった間、何も問題ありませんでしたか?」
「はい。旦那様が張られた結界のお陰で王城への被害はゼロ、街も特に問題ございませんでした」
「こう見えてセレスは結構強いのよ。少なくともこの城の門兵よりは確かね」
そんなに強いの? いつもは孫と遊ぶお爺ちゃんみたいなのに。
「若い頃に比べれば大分衰えましたので、お嬢様が仰っているほどではありませんよ。ですので、今後は旦那様が私を守ってくださると助かります」
「いやいや。少なくとも今はセレスさんの方がまだ強いんですから、ちゃんと俺のことも守ってくださいよ。っていうか、それも執事の仕事でしょ⁉」
「決してそうとは限りません。その証拠に、旦那様の雰囲気が少し変わっておられますよ。それから私は執事であり、この城に住まわれる皆様の“爺や”でもありますので」
パパパ パッパッパ~♪ セレスさんは正式に俺たちのお爺ちゃんになった。
――などと頭の中でふざけながら居間へ向かうと、
「お、ちょっと雰囲気――纏ってるオーラが変わったじゃねぇか、坊主」
「そのために二週間も家を出ておったんじゃから当たり前じゃろ。……それでも全然足らんがの」
「これ以上、俺に何をさせる気だ。短い期間とはいえ、結構頑張ったぞ」
そう返す俺に、今一番会いたかったような、会いたくなかったような子たちが続けた。
「確かに今のソウジ様には“強者”と分かるほどのオーラが纏い始めましたが、“国王としてのオーラ”はまだまだです。それらをいつでもON/OFFできないようでは、全然駄目」
「とはいえ、それらを身につけるのは簡単ではありません。特に“国王のオーラ”は、それ相応の行動を積み重ね続ける必要がございますし、お嬢様が仰られたON/OFFは、もはや感覚の域。私どもが教えてどうこうできるものではありません」
「……そんなことよりさ、俺が頼んどいた件はどうなった?」
子どもたちがいないとはいえ、セリアを抱っこしたまま直球で聞くのもどうかと思い、少しぼかして尋ねると――
「その前に、何か言うことがあるんじゃないですか? ソウジ様」
「………突然いなくなって、すみませんでした」
「それよりも先に言うことがありますよね? ご主人様」
やっべー、久々に来ました“女の子による難問コーナー”!
さあ今回も、全く答えが分かりません。ということでまずは抱っこ中のセリアに小声で聞いてみましょう。
「(おい、何が正解なんだ?)」
「そういえば私も、まだ言ってもらってないわね」
なんだよ、そのヒントのようで使えないヒントは。
なら次――アベルに聞こう。前回と違って今回は念話が使えるから、楽に分かる……はず。
(今すぐ答えを教えろ、アベル)
(ん~、これは自分で気付かないと意味がないんじゃないか? じゃないと、また同じことを繰り返すぞ)
(使えねぇ部下だな、おい。例の訓練場は完成してるから覚悟しとけよ)
(待て待て! お前と師匠のテスト計画書、見たけどアレはやべぇだろ。“フィールドを山中に設定し、数日間サバイバル。時間・場所はランダム、モンスターや盗賊もランダム出現可能”って何だよ⁉)
そう。俺たちが作った訓練場は、フィールドも敵も仮想なのに“本物と一切変わらない”優れものだ。
どういう仕組みかって? そんなの俺も知らねえ。俺のチート魔法が色々アレして、そうなるんだろ……多分。
(寝てる時でも普通に襲われる可能性があるから気を付けろ。攻撃が当たっても死なないが、それ相応の痛みは設定する予定だ)
緊急時のための自動回復システムも完備。安心してご利用ください。なお、トラウマが残る可能性がありますが、当局は一切の責任を負いません。
(ヒント! ヒントやるから落ち着け、坊主!)
(どんだけ答え教えたくないんだよ)
(お前が一度も言ってないのが悪い。癖なのか?)
俺が一度も言ってない言葉? ……あるな、一つだけ。タイミングも、今しかない。
(癖っていうか、子どもの頃から言わずに生きてきた。だから慣れてなくて言いたくないんだ)
(分かったなら早く言え。じゃないと、抱っこされてるセリアは兎も角、あの二人はどんどん不機嫌になるぞ)
帰ってきて早々説教は勘弁。……大人しく言おう。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ソウジ様」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「おかえりなさい、ソウジ……ちゅ♡」
最後に返事をくれたセリアは、抱っこされているのをいいことにキスしてきた。それを見たミナとリアも近づいてきて――同じように、軽くキス。
色々我慢してる最中に、それはやめて欲しいんだけど。……あとセリア、さりげなく胸をぐにゅぐにゅ押しつけるな。というか、一旦降りてくれ。
「マイカとエメさんはどこだ? 俺に失望して、仕事を辞めたのか?」
「なわけなかろう。二人なら、そこにおるわい」
ティアが指差した先――キッチンへ行くと、二人はちょうど昼食の準備中。俺に気付くと手を止めて会釈した。
「お帰りなさいませ、旦那様。もう少しでお昼のご用意ができますので、少々お待ちくださいませ」
「おかえり、ソウジ君。今日はセリアちゃん達に代わって私が手伝ってるけど、味は保証するから安心してね」
「あ、はい。……よろしくお願いします」
別にセリア達みたいな反応を期待していたわけではないが、あまりにも普段通りで、少し拍子抜けして中途半端な返事になってしまった。
「この二人ったら、ソウジがいなくなった日もこんな感じだったのよ。私なんて心配で仕方なかったっていうのに」
「お嬢様。確かに、大切に思う方が危険な目に遭っていたり、長期間会えないとなればご心配も尤もです。ですが、そういう時こそ普段通りに行動する人が重要になるのですよ」
「予想外のことが起きた時、誰か一人でも普段通りでいてくれると、自然と周りも落ち着く――ってのは、有名な話だな。……マイカが普段通りなのも、同じ理由か?」
自分で聞くのもどうかと思ったが、気になるので聞いてみる。
「旦那さんの帰りを黙って待っててあげるのが“いい奥さん”の条件の一つだと、私は思うんだよね。もちろん、セリアちゃんみたいに心配するのも、その一つだとは思うけれど」
言ってることは素晴らしい。……で、マイカさんはいつ、誰の奥さんになったんでしょうか?




