第56話:結界の真相と、涙の再会
それから俺たちは武器屋へ寄り、盗賊から回収した武器や防具を売ったついでに義手のお礼も済ませ、次の目的地――警備室に来ていた。
ちなみに宝石類はすでに日本で売却済み。こちらもかなりの値がついたので懐はだいぶ温かい。というか、元の分も合わせれば余裕しかない。
「お疲れさまでーす」
「へっ、陛下⁉ それにティア様まで‼」
ひとりが大声を上げたせいで、仕事中の面々まで一斉に集まってきてしまった。
……なんか、邪魔してるみたいで申し訳ないから、そういうのはいいのに。
と、内心で肩をすくめていると、確かリーダーだった男が代表するように前へ出てきて頭を下げた。
「お二人とも、約二週間の間お疲れさまでした」
「おっ、おう。ありがと…う?」
年上相手でも部下には敬語を使わない――そう意識して返したのだが、途中で抵抗感が邪魔をして語尾が変になった。
「いくらこういうことに慣れておらんとはいえ、それはちと間抜け過ぎんかの?」
「そうは言っても、俺より年上の人に対して敬語を使わないのは慣れてないんだよ」
「別にお主の部下は最年長でも20代じゃし、こやつに関してはアベルとそう歳も変わらん。普通に話せばよかろうに」
そう、実のところ一部を除けば俺の部下は最年長でも20代後半だ。まあ、あのボハニアの状況で進んで働きたい者など少ないし、結局は若い人材が残る。
逆に二週間前に殺した連中は40代あたりが多かった。権力が絡むと歳も積み重なる、ってわけだ。
「………無理」
「これは上に立つ者としての教育が必要そうじゃのう。ミナあたりに頼むとするか」
「ふざけんな! やっとお前の修行から帰ってきたのに、次は『人との接し方』の勉強とかやってられるか!」
どうしたリーダー、そんな意外そうな顔をして……って、周りも同じ顔だな、これ。
「大方、盗賊を屠っとる時の悪魔のようなお主と、普段の子供みたいな態度の差に驚いとるのじゃろ」
「はあ? どんな動画を送ってたかは知らないけど、日常風景も一緒に流してたんだろ? ならそんなに驚くことないだろ」
「じゃが映像は映像。自分の目で見るまでは信じられん者がいてもおかしくはない」
「ティア様の仰る通りで、陛下の雰囲気の変わりようは半信半疑なところがありまして……。特に昨日の映像、被害女性に対してかなり冷たいお言葉をお掛けになっておられましたし」
リーダーは慌てて、「あの行為自体が間違っていないことは理解している」と付け加えた。自分の意見を言っただけなんだから、そんなに焦らなくてもいいのに。
ちなみにこのリーダーというのは、さっきから話しているこの男のことだ。――名前は覚えていない。
「それより、俺がお願いしてた件は終わってますか?」
「は、はい。二週間前の爆発事件の映像の件でしたら、すでに解析済みです」
「それじゃ、早速確認しますかね~」
空いていた端末を起動し、指定されたファイルを開く。ティアが近づいてきて首を傾げた。
「一体、何を頼んでおったんじゃ?」
「二週間前の爆発事件――つまり、この国を乗っ取る時に牢屋へぶち込んだ連中を殺した日の映像解析だ。……俺は牢の周囲に“特殊な結界”を張ってたのに、なぜか脱獄された」
「つまり、外から手が加えられたと? じゃが、お主の結界を壊すのは容易ではあるまい」
「いや、俺の予想が正しければ“結界は壊されていない”はずだ」
……やっぱりな。今回は俺の知識不足と油断が原因だ。そして、この解析映像から分かるのは――
「これは、ちとマズい相手が絡んどるかもしれんの。もし今、わらわが思い浮かべておる人物なら……」
「最悪、全面戦争だ。――ミナの親父に話を聞く必要がある」
解析は警備兵が行ったから、何か“良くないこと”が起きているのは察しているだろう。ただ、この映像だけで辿り着けるのは、せいぜい手口の異様さまでだ。
その証拠に、俺たちの会話を聞いていたリーダーは思っていた以上に事態が深刻だと悟ったらしく、声をひそめた。
「い、今陛下が仰られた『ミナの親父』というのは、もしかして……」
「マリノ王国現国王、ブノワ・マリノじゃな。明日にでも予定を空けさせ、明後日には話を聞きたいところじゃが……」
「無理やりでもこっちへ連れてきて話を聞く。――リーダー、このデータ、もらっていきますね」
「はい。それはもちろん構いませんが……その~」
まあ、“全面戦争”だの“他国の国王”だの聞けば不安にもなる。あんまり人に知らせたくないから、リーダー以外を仕事へ戻した判断は正解だった。
「今はまだ言えませんが、あとで報告書を渡します。そちらを読んでください」
「……はい、分かりました」
「なんじゃ、さっきまでビビっておったのに、随分とええ顔になったではないか」
「陛下が『待て』と仰るなら、私たちは黙って待つだけです。それに、こうして任せられるのは、陛下を信じているからこそ。――これが、私なりの主への忠誠の示し方です」
……そろそろ正式に、この国の王にならなきゃな。元国王たちを殺した者として、そして“多くの信頼を向けられている者”として。
* * *
警備室をあとにした俺たちは、最後の目的地――我が家でもある王城へ戻ってきた。正門から玄関までは距離があるので、まだ外だが。
「俺、歩いてこの家に帰るの、初めてだわ」
「さっきも言うたが、人と顔を合わせるのは大事なことじゃ。これからは面倒でも転移は控えよ」
「はいはい、分かってますよ」
敷地が馬鹿みたいに広いせいで、正門から玄関までが遠い。歩くと疲れそうだし、これからは飛んで移動しようかな――
「お主、今くだらぬことを考えとったじゃろ」
「決めつけはよくないな~。俺の体に触れてるならまだしも、そうじゃない状況で……ん? 玄関近くにいるのって――」
最後まで言い切る前に、そこにいたアリスたち五人が駆け出してくる。セリア以外の四人は、前後左右から俺へ抱きついた。
「お兄ちゃん、帰ってくるのが遅いです~」
「ソージ兄ぃ、お土産は? お土産ないの?」
アリスの言い分は分かる。けどサラちゃん、盗賊討伐の帰りにお土産はないと思うぞ。……お金なら結構あるけど。
「ねえねえサキ兄ぃ、お仕事はもう終わったです?」
仕事? まあ、確かに“仕事”といえば仕事なのか?
「ソウジ様。他国でのお仕事、お疲れさまでした」
相変わらずエレナは“大人っぽく”を目指してるけど、抱きつきながらそのセリフは微妙だ。まあ、子供はそれでいい。
……ってか、この子たちの言う“仕事”って何だ。誰かが適当に誤魔化したな?
四人が腰に抱きついたまま、そんなことを考えていると、ティアがセリアを抱えてふわりと目の前へ。
「ほれ、こやつを抱っこしてやれ。ミナやリアーヌは兎も角、こやつとは“左腕の件”以来、顔を合わせておらんじゃろ」
「そういえば、そうだな。あの時も、リアに治癒魔法を掛けてもらっただけで、まともに話してないけど」
ティアからセリアを受け取り、正面から抱き上げる。――次の瞬間、いきなり舌が口の中へ。
「んっ……ちゅ、んふ……ショウジ、ばひゃショウジ……」
「んんっ――⁉ ちょ、ま、んちゅ……おしゅひけ、シェリア……!」
顔は見えないけど、泣いてる……のか? 涙声だし、キスの味も全然違う。リアの時は“リアの味”だったが、セリアのそれは“セリアの味”に、ほんの少し涙のしょっぱさが混じってる。
自分で言ってて訳が分からんけど――あれだ、パン屋のダクトの匂い嗅ぐとパンの味がして、焼肉屋なら焼肉の味がしてくる、みたいな。
つまり、相手の匂いを吸い込みながら唾液を味わってるから――じゃなくて!
「ぷはっ……いきなり舌まで入れてくるなよ。びっくりするだろうが」
「だって……いきなり、あなたがいなくなったと思ったら……“あなたの左腕だけ”が戻ってきたのよ。私、すっごく心配したんだから」
涙目のまま、セリアは俺の左腕――つまり義手をぎゅっと握りしめた。
「悪かったって……。でもこの二週間で、戦闘の技術はまだまだでも“あの時みたいな失敗は二度としない”よう叩き込まれてきた。安心しろ」
「あれで“まだまだ”だなんて……ソウジはどこまで強くなるつもり? それはそれで、逆に安心できないわ」
ティア曰く、俺はルナのお陰で強いが、まだ動きが荒い。今の状態でミナたちと戦えば、10回中7回は負けるらしい。
……「10回中7回負け」って聞くと、素人にしては善戦に見えるかもしれない。だが俺には“ルナからもらった力”がある。その評価でこれ。――宝の持ち腐れってやつだ。
ちなみにミナ・リア・アベルの三人は、ひとりでもドラゴンを簡単に倒せるという実力で、いずれもSランク級。その三人が束になっても余裕のティアが相手なら、一度も被弾せずに乗り切れたら飛び跳ねて喜ぶレベル。
そもそも、あいつは使える魔法が三つしかないくせに、その三つが桁違い。加えて剣術まで備えてるんだから――まるでチートだよな。




