第54話:王の帰還 ―歩き出す日常―
昨日は外に出るのが面倒で、ずっとティアと家で過ごしていた。
特に何も起きなかったが、なぜか白崎ミナ様宛のデカい荷物がいくつも届いた。
……いや誰だよ、白崎ミナ様って。しかも“白崎”は漢字で書かれてるし。
「おい、準備できたか?」
「うむ、ばっちりじゃ。……二週間とはいえ、ずっとここで過ごしておったと思うと――少し寂しいのう」
「別に来たければいつでも連れてきてやるよ。あと一ヵ月ちょいすれば、俺はほぼ毎日こっちに来ることになるしな」
単位落としたくないからな。
来年度は、あっちの世界が平和でいてくれると助かる。卒業できないとか、最悪すぎる。
ちなみに今日は2月25日。
学校が始まるのは4月8日だ。
「連れてきてくれるのは嬉しいが、そろそろミナ達も呼んでやらんと拗ねられるぞ?」
「……連れてこようとは思ってるけど、目的がないとこっちに来ても面白くないだろ? 何かきっかけでもあればな」
「お主は相変わらず女子の気持ちが分かっとらんのう。
女子というのは、好きな者の部屋なら“来れるだけで嬉しい”ものじゃからな」
「……落ち着いたら考えておくよ」
そう言って、俺は転移した。
* * *
「言われた通り、入国審査が行われてる門の近くに来たけど――本当に歩いて帰るのか?」
「これからはお主がこの国の王になるのじゃ。
国民の前を歩き、顔を見せることも大事じゃぞ」
「……まあ確かに一理あるな。これからは近場なら転移も控えるか……」
そんな会話をしながら門の前まで来ると、門番が姿勢を正して大声を張り上げた。
「お帰りなさいませ、陛下! ティア様!」
「えっ? あっ、うん……。別にそんな畏まらなくてもよくない?」
「いえ、とんでもございません!」
「まあまあ。こやつが“いい”と言っておるのじゃ。
それにお主も、この二週間を見ておったのじゃろう?」
「はい。全て拝見いたしました」
なんの話だ。
「なら分かるじゃろう。こやつは身内同士での上下関係など気にせん。もっと緩く接してよいぞ」
「……まあ、なんかよく分かんないけど俺相手なら“友達感覚”でいいぞ。面倒だし」
そう言うと、門番はなぜかすごく嬉しそうに笑った。
「あ、ありがとうございます! また顔を見せてください!」
「おう、気が向いたらな」
俺たちはそのまま門をくぐった。
あ~……証明証とか持ってないから入れなかったらどうしようかと思ったけど、普通に通れてよかった。
と思っていたのも束の間。
今度は小学生くらいの子供たちが駆け寄ってきた。
「あ、あのっ! 僕、陛下の騎士になりたいんです! どうやったらなれますか⁉」
知らねぇよ。
てか、なんでいきなり俺なんかの騎士志望になるんだ。
二週間も経てば、俺の左腕がなくなった噂ぐらい広まってるだろうに。……取りあえず隣のメイドに聞こう。
「ティア、どうやったらなれんの?」
「う~む、そうじゃのう。お主はまだ子供じゃ。
まずは親の言うことをちゃんと聞くところからじゃな。
そうすれば、こやつの騎士になるために必要な“力”の一つが身につくはずじゃぞ」
……相変わらず、子供の扱いが上手いな。
今の一言で、あの子完全に納得したぞ。
「私は、ティア様みたいな陛下のメイドさんになりたいんですけど、どうすればいいですか?」
こいつのどこを見てそう思ったんだ。
普段から仕事はサボるし、主の頭をポンポン叩くメイドだぞ。
それでも憧れるって、どういう現象だよ。
「こやつのメイドになりたければ、まずは“誰かの面倒を見る”ことが大切じゃな。
弟か妹がおるなら、その者の世話を母君と一緒にしてみるとよいぞ」
その後も何人かと話し、ようやく歩き出せた。
だが、行く先々で声をかけられたり、激励されたりと――よく分からないまま注目を浴び続けた。
そんな状況のままギルドに着くと、さらに騒がしくなる。
「おっ、冷酷な王と、それを作りし伝説のロリメイドじゃねーか!」
「違ぇよ、左腕をなくした悲劇の王と、それを支えし吸血姫だろ!」
「はん、どっちでもねぇ。“勇者を超えし異世界の王”と“闇天使”が正解だぜ!」
なにそのダサい二つ名の応酬。
あと言い方的に二人目の吸血鬼の鬼は姫だろ。……もう無視だ無視。
「……あれ? おばちゃんがいない」
「お主が言う“おばちゃん”とやらが誰かは知らんが、いないなら他の者でよかろう。
どうしてもその者が良いなら、呼べばよいしの」
「それもそうか」
そう言って適当に空いていた受付へ行き、
高校生くらいの女の子に声をかけようとした瞬間――
「あわわわわわっ、ほっ、本物のソウジ様だぁぁ‼」
「この子大丈夫か? 俺の顔見た瞬間、芸能人にでも遭遇したみたいなテンションなんだが」
「それだけ、お主が良い意味で有名になっておるということじゃ。悪いことではなかろう」
いや、明らかに“過剰反応”だろ。
もし俺が元国王共を一人で皆殺しにした話が漏れてても、ここまでの反応にはならない。
しかもティアまで称賛されてる。……何か裏がありそうだな。
「あ、あの! ご用件は、なんでしょうか⁉」
「ん? ああ、悪い。ちょっと考え事してて。ギルドマスターって今いる?」
「は、はいっ。今は二階にいると思いますが……呼んできますか?」
「じゃあお願いします」
受付の子は慌てて階段を駆け上がり、
数分後――ギルマスのおばちゃんを連れて戻ってきた。
「久しぶりだね、ソウちゃん。……少し見た目が変わったんじゃないかい?」
「左腕のこと言ってるなら、スパッといかれたわ」
「あはは、そういう意味じゃないよ。……まあ、私が言うことじゃないか」
何言ってるんだこの人。腕のことを軽く流すとか、ある意味すげぇ。
「なんで受付にいなかったんだ?」
「ちょうどソウちゃんがいない間に職員が増えてね。
私が受付をやる必要がなくなったんだよ。この子もその一人さ」
「初めまして。ギルド受付のクロエと申します!」
ようやく動揺せずに喋れるようになったか。おばちゃんと話して落ち着いたのか?
「私のことは知ってるみたいですけど、改めて。白崎宗司――もしくはソウジ・シラサキです」
「わらわはこやつの専属メイド、ティアじゃ。よろしく頼むぞ、クロエ」
「どどどどど、どうしましょうセリーヌさん! 私、ソウジ様に自己紹介してもらっちゃいました‼ しかもさっきからずっと、敬語で話してくれてますよ‼」
「そういえば、私の時も最初は敬語だったね。今は普通に喋ってるけど」
「確かに最初は敬語だったな。二回目に会った時は、この国を乗っ取るタイミングだったから――勢いでタメ口になったけど」
まあ、今さら敬語に戻す気もない。
「それより聞きたいんだけど、おばちゃんはもう受付やらないの?」
「そうだねえ。ギルマスの仕事もあるし、人手も足りてるからね。
……そうだ、これからはクロエの窓口を使いな」
「んじゃあ、クロエさん。これからよろしくお願いします」
「あの別に敬語じゃなくて大丈夫ですよ。それに名前も呼び捨てで構いませんし」
さっきは一旦落ち着いたと思わせてからのもう一回慌て出して面白かったのに。
「お主、わざと敬語でからかっておったろう」
「だって“あわわわわ”とか“どどどどどーしましょう”とか、リアルで言う子初めて見たんだもん」
クロエの声で彼女の真似をしてやると、口をパクパクさせて硬直。
面白すぎる。
「はぁ……ソウちゃんが元気そうで安心したけど、クロエで遊ぶのはほどほどにしてやってくれよ」
「悪い悪い。んじゃ、買い取り頼むわ」
おばちゃんがクロエを連れて買取所へ向かったので、俺達も後に続いた。
この二週間で仕留めた盗賊の死体を全部出すと――
「これはまた、ずいぶん倒したねぇ。依頼に載ってる盗賊も何人かいそうだよ」
「そうですね。ざっと見ただけでも十人はいますね」
へぇ……さっきまであんなに慌ててたのに、死体には動じない。
さすがギルド職員、慣れてるな。
* * *
査定には時間がかかったが、ようやく終わったようだ。
「はい。これが今回の買い取り額と、依頼達成分の報酬だよ」
「おお~、思ってたより儲かったのう」
「盗賊が持ってた武器は鍛冶屋に売れば、さらに稼げると思いますよ」
……となると、しばらくクエストに出なくても大丈夫そうだ。
ちょっとゆっくりできるかもな。
「ちなみに、ソウちゃんはギルド登録しないのかい? うちとしてはぜひお願いしたいんだけどねぇ」
「最高でもBランクスタートってのが面倒だからパス」
「まあ、技術はともかく力だけならSランクを超えておるからのう。
こやつが登録したら、新ランクを作らねばならんぞ」
「う~ん、そうなると私達が面倒だね」
いや、ギルマスが“面倒”って言うなよ。
それ、仕事だろ。
そのあと少し話し合い、
“ギルド登録はしないが、緊急時には協力する”という形で話はまとまった。




