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世界最強の元一般人 ― 神に選ばれた落ちこぼれ、最強の“使い方”で異世界を掌握する ―  作者: ITIRiN
第5章:最強の帰還、はじまる“家族”の日常

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第53話:沈黙の二週間 ―王が学んだ“救えぬ現実”―

あれから二週間。

俺とティアは転移魔法で移動し、盗賊を見つけては殺す――それを淡々と繰り返していた。

まるで日課のように。

けれど、その間にもティアは“戦うこと”だけではない、多くのことを俺に教えてくれた。


* * *


ある日、盗賊に襲われている馬車を見つけた。

急いで駆けつけたが、助けられたのは男一人だけ。

家族で移動中に襲われ、男は妻子を守るため応戦していたらしい。相手は十人。分が悪い。

ティアの話では――俺が着いた時には、もう手遅れだった。


それでも、前よりはマシだと思った。

一人でも助けられた。それだけで意味がある――そう思いかけた、その時。


「なんでもっと早く来てくれなかったんだ‼

お前がもう少し早ければ、妻も息子も殺されずに済んだんだ‼

どうせ全員助けられないなら、最初から来るなよ‼」


男は俺の胸ぐらを掴み、怒りと涙で顔を歪めた。

そして、自嘲とも狂気ともつかない笑みを浮かべ――近くの短剣を、自分の胸に突き立てた。


「お前のせいで俺たちは死んだ……一生後悔して生きるんだな」


そう言い残し、彼は崩れ落ちた。


ティアは静かに言った。


『今回はお主が悪いわけではない。

悪いのは、一人で盗賊を退けられなかったこやつじゃ。

わらわ達はたまたま通りかかっただけ。感謝はされど、責められる筋合いはない。

じゃから今後、同じことを言われても気にするでないぞ』


――分かってた。理屈では、そうだ。

だが、心は簡単に割り切れない。


『転移をもう少し早くしていれば』

『出発を早めていれば』

『別ルートを選んでいれば――』


“もしも”を何度も反芻し、結局その日はティアに「もう帰るぞ」と言われた。

帰宅後は無理やり昼飯を食わされ、精神的にも胃にもきつかった。


* * *


別の日。遠くで炎の柱が上がっているのを発見し、転移すると――村が燃えていた。

燃え尽きる家々。黒く焦げた地面。生き残りはいない。

崩れた家屋の中に、焦げた小さな手足がいくつも……。

あの光景は、きっと一生忘れない。


ティアは静かに告げる。


『今のお主からは“犯人を見つけ出して殺す”という意志が見える。じゃが、それは絶対にしてはならん。

復讐は、達成しても喜びでも救いでもない。ただの“無”――いや、“絶望”じゃ。

復讐が生きる目的になれば、その先に何も残らん』


理屈は理解できた。

だが、俺だけは違うと信じたい気持ちがあった。

俺には“国を導く”という目的がある。

だから大丈夫だと、思いたかった。


『わらわはな、復讐に囚われて自ら命を絶った者を何人も見てきた。

例外はごく僅かじゃ。じゃから約束せい――復讐は、せぬとな』


『じゃあお前はどうする? もし城の誰かが殺されたら、復讐せずにいられるのか?』


ティアは少しだけ目を細めた。


『自分が“大切だ”と思う者がおるなら、そやつを全力で守り通すだけじゃ。

出来ぬなら、出来るようになるまで鍛えればよい。――現に、わらわはお主を守っておろう?』


その言葉に、少しだけ救われた。

俺が国民やセリアを守ろうとしたことは、間違いじゃない――そう思えた。


* * *


そして今。

俺たちは盗賊に襲われていた村を救い終えたところだった。


「ティア、一応全員にヒーリング・フィールドをかけたけど……大丈夫そうか?」


「うむ。上から見ておったが、怪我人は全員治った。

盗賊も、お主が全員きっちり始末した。問題ない」


「なら、村長か責任者っぽい人に“今まで集めた食料類”を渡して帰るか」


“今まで集めた食料や金銭類”は、助けられなかった人たちの持ち物だ。

ティアが「いずれ役に立つ」と言っていた――今思えば、このためだったのかもしれない。


……ん? 人の気配。数人がこちらへ近づく。


声をかけようとした瞬間――


「あんたのせいで私の娘が殺されたわ‼」

「俺の嫁は目の前で弄ばれて殺されたんだ‼ なんで平気な顔してられるんだ!」

「こいつは実際に味わってないから、俺たちの気持ちがわからねぇんだ‼」

「だったらお前にも同じ思いをさせてやるよ‼ 隣の女を引きずり出せ!」


その瞬間、俺の中で何かが切れた。

足元の砂を転移で抜き取り、やつらの首から下を砂に埋める。


「お前らがティアに何をしようとしたかは聞かない。

だが――自分の弱さを人のせいにすんな。

俺たちはこの村の警備兵でも救世主でもない。“助けてやった”だけでも感謝しろ。

文句を言う前にまず、“ありがとう”だろうが」


「ふざけないで‼ あんたが来るのが遅かったせいで家族が殺されたのよ!

もう……死んで、あの人たちのところに行きたいわ!」


一人の女が叫ぶ。

俺はその女だけを地面から出し、足元の短剣を拾って放り投げた。


「ほら。死にたきゃ勝手に死ねよ。……どうした? 怖いのか?」


「な、なんなのよあんた……!」


「二週間前にな。お前と同じことを言って、本当に死んだ男がいた。

お前もそいつみたいになりたいなら、止めはしない」


女の手が震える。短剣を握ったまま動けない。

更に煽りかけたその時、背から声が飛ぶ。


「何をしている、お前たち‼」


振り向くと、杖を持った老人――村長らしき人物が立っていた。


「ただこの役立たずに文句を言っているだけだ!」

「そうだ、村長! 邪魔すんなよ!」

「こんなやつ、ぶっ殺してしまえばいいのよ!」


「黙れ‼」


村長の一喝に、群衆は沈黙した。


「この方は村を救い、怪我人を癒やしてくださった恩人じゃぞ!

その方に向かって、なんという無礼を働いておるか!」


騒ぎは一瞬で収まった。

村長からの謝辞と、感謝の言葉、小さな贈り物。

だが、地面に埋められた連中の目は、最後まで冷たかった。


長居は面倒の種になる。

渡すものを手早く渡し、俺たちは静かに村を後にした。


* * *


「なあ、なんでこっち(日本の家)に戻ったんだ?」


「まあまあ、そう言うでない。今日はこっちで休んでから城に戻った方がよかろう?」


ティアの言葉どおり、俺たちは日本の家に戻っていた。


「……確かに、今すぐ帰る気にもなれなかったし、明日でいいか」


「分かればよいのじゃ……」


ティアは俺の背に寄りかかり、両腕を首に回して囁く。


「……それより、先ほどの女子への対応じゃが。どういう意図があったのじゃ?」


「下手に慰めるより、“自分じゃ死ねない”って気づかせた方がいい。

その方が、後で立ち直れる可能性が高い」


「ふむ。理屈としては正しい。じゃが――もし本当に死んでおったら、どうする?」


「全部を気にしてたらキリがねぇ。俺はこの世界の“全員の味方”でも救世主でもない。

それがあいつの選択なら、勝手に死ねばいい」


ティアは小さく息を吐き、静かに告げた。


「……一人の人間としては失格じゃが、王としては合格じゃな。

そしてお主はもう、“一国の王”じゃ」


少し間を置き、いつもの調子で笑う。


「よくここまで頑張ったのじゃ。王としてはまだ未熟じゃが、それもいずれ身につく。

――それと、さっきはわらわを守ってくれて嬉しかったぞ」


「守ったって……あれのことか? まあ、本人がそう言うなら、そうなんだろうな」


もしかすると、ティアを“守った”のは初めてかもしれない。

そう思うと、少しだけ悪くない気分になった。


……いつかは、城のみんなを。

そして――国民を、守れるような王になれるのだろうか。


ああ、ちなみに――さっきのティアの抱きつきは、ここ二週間の“確認ルーティン”だ。

俺の精神状態を測るためのものであって……決して、イチャつきではない。たぶん。


……誰に言い訳してんだ、俺。

それでも今は、ただこの静けさに身を委ねていた。

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