表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の元一般人 ― 神に選ばれた落ちこぼれ、最強の“使い方”で異世界を掌握する ―  作者: ITIRiN
第5章:最強の帰還、はじまる“家族”の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/64

第51話:止まった歯車、動かす覚悟 ―王としての再起―

俺とティアで話し合った結果――転移を繰り返し、盗賊らしき集団を見つけ次第、容赦なく潰す。方針はそれで決まった。


「さっきも言ったが、わらわはお主に攻撃が当たりそうになった時しか手を出さん。

つまり、目の前で襲われそうな者がいても助けられるのは“お主だけ”じゃ。生かすも殺すも、すべてはお主次第じゃぞ」


「ああ。そうしなきゃ意味がないのは分かってる。付いてきてもらう条件がそれなら、問題ない」


「それとな、わらわの言うことは絶対に聞く――これも忘れるでないぞ」


俺は一度だけ頷き、転移を開始した。


* * *


「ん? ちと止まれい」


数十回の転移を繰り返し、作業になりかけていた頃、ティアが前に腕を出して制した。


「どうしたんだよ」


「あそこにおるのは盗賊ではないかの? 遠くてハッキリ見えんが、馬車が横倒しじゃ。血溜まりもあるし、何人か倒れておる」


目を凝らすと、確かに――横倒しの馬車、黒ずんだ血、崩れた人影が見えた。


「あの状況で火を囲っておる者が数人。明らかにおかしい。ほぼ盗賊で確定じゃな。ここからなら、転移より走った方がよかろう」


――走って行け、の意味は分かっている。覚悟を決めてから行け、ということだ。


「なんじゃ、行かぬのか?」


言われなくても行く。行くに決まってる――


……本当に行くのか?

さっきは“殺さなければ殺される”状況だった。だが今は違う。まだ気づかれていない。逃げれば、命の危険も、あの“肉を裂く感触”も、返り血の生暖かさも、鉄と脂の臭いも、苦鳴も、殺気を帯びた目も、死に際の奇妙な動きも――何も背負わずに済む。


それなら、逃げるのが正解なんじゃないか?


ここは俺の国じゃない。殺されたのは俺の知り合いでもない。盗賊に恨みも用事も――ない。


「……おっ、あそこに倒れておる女子は、まだ生きておるようじゃな。じゃが、持って二分くらいかのう」


二分――。この場で回復をかけられるのは俺だけ。ここから回復魔法を使えば――いや、使えば殺される。今度こそ確実に。


思考より先に、身体が動いた。右手にムラマサ。鞘を引く勢いのまま投げ捨て、地を蹴る。


「――――――ッ‼」


さっきより余裕はある。叫べるはずなのに、声が出ない。右手が震える。


どうでもいい。走れ。走って、殺せ。二分? 一分で終わらせろ。


今度は忘れるな。魔法だ。斬ったらすぐ回復。回復の邪魔をされぬよう、確実に仕留めろ。


苦しむ声? 痛みによる叫び? ――知らん!

聞きたくないなら、聞く前に終わらせろ。

殺気に満ちた目? ――向けられる前に落とせ。

人間離れの動き? ――見たくなければ、一撃で綺麗に斬れ。


距離が縮まり、姿が鮮明になる。盗賊は五人。鎧は砂埃一つない新品同様だ。俺を視認し、各々が武器を構えた。


――落ち着け。

構えるまでに焦りはない。彼らは殺し慣れている。なら、こちらは速度で上を行く。制御できる限界まで上げ、横並びの首を一気に薙ぐ。


刀身に魔力を流し込み、さらに踏み込む。刃の高さを首に合わせ、右から左へ――走り抜ける。


豆腐だ。

妖刀は鎧ごと喉元を割き、五つの影が遅れて崩れた。血しぶきが風に溶け、金属音が遅れて落ちる。


次は――回復だ。まだ生きているのは誰だ?


落ち着け、焦るな。俺は回復魔法が下手だ。いちいち一人ずつ処理するより、でかい範囲魔法で全部包めばいい。そうだ――全員、範囲に入れろ。


空に展開する巨大な魔法陣。柔らかな光が地面へ降り注ぐ。


これで――起きない?

……傷は塞がったが、動かない。光が消えた。


「なんでだよ。なんで誰も起きないんだ‼ ……あ、傷は塞がったけど気絶してるだけか。なら取り敢えず安全なところに運べば――」


脈を確かめる。胸、首、手首。冷たい。硬直が始まっている。


「……みんな死んでる。体が冷たい。硬くなり始めてる。おい、ティア‼ これはどういうことだ⁉」


ティアは、スマホを片手に口だけを動かした。


「口パクじゃ分からん! ふざけんな‼」


「―――――」


「だから何を言ってるか――痛っ⁉」


振り向いた瞬間、さっき捨てたムラマサの鞘で頭をはたかれる。怒りで殴り返しそうになるが、ティアは鞘の先で地面に字を書く。


『お主、耳は聞こえておるのか?』


「はあ? 耳なら――」


『やはりか。少しすれば戻る。大人しくしとれい』


ティアは焚き火のそばに腰を下ろした。俺もムラマサを鞘に納め、近くの石に座る。


* * *


30分ほどで、焚き火の“パチパチ”が耳に戻った。


「あー、あー……よし、聞こえる。おいティア! さっきの件、説明しろ!」


「先ほどまで怯えておった者の口とは思えんのう。結論から言えば、『生きておる』というのは嘘じゃ。最初から全員死んでおった。お主がなかなか動かんかったから、ああ言っただけじゃ」


「おまえ……! 俺がどんな気持ちで向かったと思ってんだ! 人で遊ぶにしても時と場を選べよ――!」


「じゃがな。もし、わらわ達が気づかなんだだけで誰かがまだ生きておったら? お主がウジウジしておる間に死んでおったかもしれんぞ」


「…………」


「今回は運が悪く誰も助けられんかった。じゃが、次は分からん。『あと二分』しか持たぬ者がおるかもしれん。

お主が本当に“なんとかしたい”と思うなら――殺すことを戸惑っておる暇など、ない」


盗賊を見つけてから動くまでに掛かった時間は、五分。もし本当に「残り二分」の命があったなら、俺は見殺しにしたことになる。


自分が嫌でも、悪を殺して善を救うか。

自分が嫌だから、悪を見逃し善を死なせるか。

前者なら多くが救われ、後者なら俺一人が救われる。


「俺はさ――あの城にいる連中が幸せなら、それでいい。ぶっちゃけ国民なんて、どうでもいいとすら思ってる」


「一般市民だったお主からすれば、身近な者の幸福を最優先にしたくなる気持ちは分かる。じゃがな、あの国にはお主を慕う者もおるやもしれん。

その者たちを前にして、同じことを言えるかの?」


「……逆に聞くけどよ。あの爆発の件で“人を殺すのをビビって左腕を失った雑魚”に、そんな風に思ってくれる奴が本当にいると思うか?」


どんなに情報統制をしようとも噂は漏れる。いずれ広まる。期待してくれていた誰かがいたとしても、失望するだけだ。なら――


「言っておくが、お主にはもう“国王になる”道しか残っておらん。正確には、他の道はわらわが通さん」


「俺が前国王どもを皆殺しにしたから、か?」


「そうじゃ。どれほどの屑でも“歯車”は回っておった。じゃが、数時間前、お主がその歯車を止めた。――止めた者には、回す責任がある」


「でも、こんな雑魚を誰が王として認める? 反対される未来しか見えねぇ」


「だからこそ、今こうして修行に来たのじゃろう。――本当はお主の奥底で分かっておるのではないか?

責任を取らねばならぬ、と。皆に認められる王にならねばならぬ、と」


焚き火がはぜる。焦げた木の匂いに紛れて、鉄と脂の臭いがまだ喉の奥に居座る。左袖を抜ける風がやけに冷たい。――この左袖が、俺に責任を思い出させる。


逃げるのは簡単だ。

救える命から、目を逸らし続けることもできる。


だが――俺はもう、見ないという選択をしない。

見たなら、責任は必ず俺が負う。


覚悟は、もう決めた。

逃げるという選択肢を、頭の中に思い浮かべていた俺は、もういない。

あとは、倒れるまでやるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ