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世界最強の元一般人 ― 神に選ばれた落ちこぼれ、最強の“使い方”で異世界を掌握する ―  作者: ITIRiN
第5章:最強の帰還、はじまる“家族”の日常

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第50話:決意の果てに残されたもの ―血と誓いの狭間で―

side:ミナ


私たちは、ソウジ様が血まみれでも構わず抱きしめた。

そのことに気づいたのか、彼は震える声でつぶやいた。


「ミナと……後ろから抱きしめてるのは、リアか?」


怯えが混じる声。その弱々しさに、胸が締めつけられる。

リアーヌはそんな彼に、静かに微笑んで語りかけた。


「まったく、どうしてこんな無茶をなさったのですか」


「何も考えずに一人で来たら、左腕を斬られちゃってさ……いろいろあって、こうなったわ」


「いろいろって、ソウジ様……。私たちはそこが一番知りたいのですが」


もしもの時は、私たちが手を汚す――そう言ってあった。

それなのに、あんなに“人を殺すこと”を怖がっていた方が、どうして自分一人で……。


気づけば、責めるような口調になっていた。

そんな私に、ソウジ様は掠れた声で答える。


「最初に元国王を斬った。ショックで吐いた。

それで、日本に逃げるか、助けを求めるか……色々考えた結果、

――王だろうが何だろうが、俺の家族と、好きな女の子たちを守るために、邪魔者は全員殺す――って答えになった」


静かで、苦しいほどまっすぐな声だった。

胸の奥が熱くなって、私は思わず笑ってしまう。


「も~う。普段は子どもっぽかったり、甘えん坊だったりするのに……たまにすごくカッコよくなるのは何なんですか? そんなのズルいですよ……」


いつもなら、すぐに頼ってくれるのに。

こういう時だけ一人で頑張るなんて――ほんと、ズルい人です。


「泣かれているご主人様、大人なご主人様、カッコいいご主人様……。一日に三つも見せてくださるとは、随分と気前がよろしいですね」


「一つ目と三つ目は狙ってやったわけじゃない。特に一つ目は忘れろ」


少しずつ、ソウジ様の声にいつもの調子が戻ってきた。

私たちは下手に口を挟まず、彼の心がまた揺れないよう、ただ静かに抱きしめ続ける。


やがてリアーヌが、穏やかに告げた。


「ふぅ……左腕の治療は終わりましたよ、ご主人様」


「ダメ元で聞くけど、俺の左腕ってもう、くっつかないよな?」


リアーヌは抱く腕に少しだけ力を込め、淡々と告げた。


「今のご主人様の左腕は“死体”と同じです。

死んだ人を生き返らせられないのと同じで、元に戻すのは不可能です」


その一言が、痛いほど現実を突きつける。

リアーヌでも、世界最高の治癒魔法士でも無理――つまり希望は、一ミリもないということ。


「そうか……。じゃあ、どこかに俺の腕が転がってるはずだから探しといてくれ。

いつもの腕時計がついてるはずだから、すぐ分かると思う」


……ダメ。

リアーヌだって平静を装っているだけ。

ここで私が泣いたら、きっと彼を余計に苦しませてしまう。


「そんなこと言われなくてもやります! ソウジ様は、もう少しご自分の体を大事にしてください!」


(お嬢様……)


リアーヌの心配そうな念話が届く。

分かってる、分かってるんです……。だから、そんな優しい声で呼ばないで。

今の私は、それだけで――泣いてしまうから。


「一応、そこらへんの死体は全部、魔法で時間を止めてまとめてある。

だから回収と保存を頼む。全員の確認と、セリアの偽装死に使えそうな遺体も選んでおいてくれ」


「ご主人様……?」


リアーヌの声が、わずかに焦りを帯びた。

その瞬間、私も気づく。――何かが、おかしい。


「んじゃ、あとはよろしく」


ソウジ様はそう言い残し、光の粒に包まれて――再び姿を消した。


「……ソウジ様? ソウジ様⁉」


「落ち着いてください、お嬢様。恐らく、ご主人様はどこかへ転移なさったのでしょう」


「落ち着く? こんな状況で落ち着いてなんていられませんよ! 今度ソウジ様に何かあったら、私、わたし……!」


感情があふれ、頭では止めようとしても言葉が止まらない。


「私、少し前にソウジ様と約束したんです。『絶対にソウジ様のことは守ります』って!

なのに私は、あの方を守れなかった。それどころか片腕を失って、一人で怯えて頑張って……うぐっ……わだじ、やぐぞぐじだのに……!」


涙が止まらない。

嗚咽混じりの言葉を、リアーヌがそっと抱きしめて受け止めてくれた。


「お嬢様のお気持ちは、痛いほど分かります。ですがティア様の言う通り、ご主人様の選択を否定することはできません。

あの方が自ら茨の道を進むと仰るなら、私たちは共に歩み、困っていれば手を差し伸べるだけです。

それに――こういう時に婚約者として、他の方たちとは違う慰め方をできるのは、私たちだけですよ」


確かに、あんなことや……そんなことをできるのは、私たちだけの特権。

そう思えば、ほんの少しだけ胸の痛みが和らいだ。


もちろん今回の件は、正直ショックです。

もう二度と同じことは起こってほしくありません。

でも――きっと、彼も同じ気持ちのはず。


そう思えるようになって、ようやく呼吸が整ってきた。

リアーヌにも、後でしっかり礼を言わなきゃ……と思ったその時――


(ミナにリアーヌよ、少しよいかの?)


(はい、私たちは大丈夫ですが……。今、ソウジ様がどこにいるのか知りませんか?)


(あやつなら、今わらわの隣におるぞ)


ティアさんの声。

その一言だけで、張り詰めていた空気が一気に緩む。

リアーヌも、安堵の息をついた。


(よかった……。それで、お二人は今どちらに?)


(今は盗賊どもを探して転移を繰り返しておる。というわけで、今日から二週間ほど修行をすることになった。しばらくは戻れんが、心配はいらん)


(ちょっ⁉ それってどういうことですか!)


(落ち着くのじゃ、ミナよ。それより、お主たちに頼みたいことがあるのじゃ……)


ティアさんからの頼みを聞いた私たちは、それを了承し――ひとまず、ソウジ様のことを彼女に任せることにした。


「ティア様が一緒ですし、あとはご主人様を信じて待ちましょう」


「はい……。ですが、離れ離れだった分は、絶対に埋め合わせしてもらいます」


何をしてもらうかは――ゆっくり考えるとして。

まずは、ソウジ様に頼まれた仕事を片づけなければ。

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