第49話:血に濡れた王を救う者 ―それでも、彼は人だった―
side:ミナ
「確かに普段のソウジ様は、私たちの前では子供っぽいことが多いですが、ベッドの上では――」
今日はやけに積極的なソウジ様に頬が緩みそうになるのを堪えつつ、マイカさんに“彼の新しい一面”を教えようとした、その瞬間――
ドォォォォォンッ‼
外から爆発音が響き渡りました。
なんですか今のは⁉ いろんな戦場やクエストを経験してきましたが、あんな音は初めてです!
「あっ、爆発かな?」
相変わらず冷静……いえ、肝が据わっていますね。だから私は彼女を秘書であり宰相に選んだのです。
「リアーヌ! 訓練場のアベルとティアさんに連絡! マイカさんはそのまま動かないで!」
私の指示と同時に、リアーヌは二人へ念話を開始。マイカさんは取り乱さず椅子で待機。あとはソウジ様に状況を――と思ったのですが。
「えっ、ソウジ様はどこですか?」
「あれ? さっきまで一緒にいたのに、どこ行ったんだろ?」
「お嬢様。アベルとティア様に連絡したところ、一度警備室で状況確認をしてから、こちらに向かわれるそうです。……何か?」
連絡に集中していたリアーヌも、空気の異変には気づいたようです。
「先ほどからソウジ様が見当たりません。リアーヌ、何か知りませんか?」
「お嬢様が指示を出された時点では、そこにお座りでしたが、その後は……」
となると、可能性は限られます。
「この部屋にいた全員が気づかなかったってことは、ソウジ君が転移魔法でどこかへ行ったのかも」
「今、向かう場所といえば……」
「爆発現場しかありません! 私たちも急いで――」
玄関へ駆けだす私の肩を、リアーヌが掴みました。
「ご主人様が心配なのは分かりますが、闇雲に探すより、まずはアベル達を待つのが得策です」
「……そうですね。では二人を待ちながら、城内の状況を確認しましょう」
居間。ここを集合場所に定め、私たちは念話やスマホで安否確認を進めます。
「エメ先輩は自室からこちらに向かっています」
「セレスさんは城周りを見回ってから来るって」
「こちらもセリアさんと連絡が取れました。子どもたちと一緒だったそうです。少し怯えた子もいるようですが、問題はないとのこと」
正直、セリアさんが一緒で助かりました。セリアさんは念話が使えますが、子どもたちはまだ魔法が不安定。今はエメさんが補助しているとか。
……やはり、子どもにも“スマホ”を、もう一度ソウジ様に相談すべきでしょうか。便利すぎるが故の懸念は分かりますが、緊急時の連絡手段は別です。
そんなことを考えているうちに、二人以外は全員合流。エメさんとマイカさんは子どもたちのケアへ、リアーヌはセレスさんからの報告を確認。私も合流しようとした時、アベルとティアさんから念話が――
(姫様、リアーヌ。今、いいか?)
(そんな心配そうな顔をするでない。あの様子なら大丈夫じゃろうて)
(あれで大丈夫って、師匠は鬼すぎるだろ)
ティアさんがそう言うということは、間違いなくソウジ様のこと。急いで確認しようとしたところ、リアーヌが先に――
(ご主人様に何かありましたか?)
(な~に、ただ片腕が斬り落とされただけじゃから安心せい)
(ちょっ⁉ どういうことですかそれは‼ 今ソウジ様はどこに!)
(あー‼ 兎に角、姫様とリアーヌは坊主が元国王共を監禁していた牢獄へ向かえ! 詳細は走りながら聞け!)
場所を聞いた瞬間、私たちは玄関を飛び出し、身体強化で全力疾走。
(それでティアさん、ご主人様の腕は……?)
(途中から警備室の監視映像を見ておった。牢獄の連中が全員脱獄してのう。その一人に隙を突かれ、斬られおったわ)
(その後は? ソウジ様は大丈夫なんですか⁉)
(安心せい。どうやら覚悟は決めたようじゃ。動きは素人丸出しじゃが……)
推測はひとつ。――今、ソウジ様は一人で、あの人たちを殺して回っている。
(今のソウジ様では、最悪“壊れてしまう”可能性があります。安心なんて――)
(それは分かっておる。じゃが“殺す”ことを選んだのはあやつ自身。なら、わらわ達にできるのは怪我と心のケア、そして――どこまでも一緒に付いていくことだけじゃ)
(そろそろ坊主の場所に着くはずだ! 外傷は左腕のみだが、精神的にはかなりヤバい! リアーヌは回復と鎮静を即詠唱できるよう構えとけ‼)
珍しく焦るアベルの指示に、こちらも珍しく苛立ちを混ぜて――
(言われなくてもやっています‼ それより今どうなっているのですか!)
(鬼ごっこ、かのう。鬼は鬼でも“殺人鬼”じゃが)
(それって、ソウジ様が一方的に……。心の方は本当に大丈夫なんですか!)
抵抗する相手と、無抵抗の相手。罪悪感の重さは違います。しかも、あの中には子どももいたはず。
今までの所業を考えれば、殺されても文句は言えないでしょう。けれど、それとこれとは別問題です。
(大丈夫じゃなくても“大丈夫”にするのが、リアーヌの仕事じゃろうて。最悪、わらわが記憶を書き換える。……それより今のあやつの前で、泣いたり怒ったりは絶対にするな。それで心に傷が残る方が厄介じゃ)
(ティア様は、このままご主人様を“ひとりの国王”へ育てるおつもりですか?)
(うむ。時機は今。何より――あやつの選択を、わらわ達が否定するのは論外じゃ)
……血と脂の混じる臭いが強くなってきました。たしか全部で53人。ということは、ソウジ様がいる場所は――
(お嬢様! あそこ、一人だけ立っています!)
(それが坊主だ! ゲロ吐いてやがるが、出血は止まってる。外傷は他にねぇ)
(恐らく左腕の切断で血管が完全に断たれ、魔力同士が反応して切断端を“仮接続”したのでしょう。ご主人様の膨大な魔力量に感謝ですね)
魔力は血流と共に循環し、破断面で互いに引き合う――と私は学びました。ソウジ様の世界でいう“磁石”に似ているのかもしれません。
知識を整理しつつ、無事を再確認していると、呼吸音が聞こえる距離まで近づいていました。
「おぇっ、うぶぇ……うっ、うぶぇぇ――、はぁ、はぁ、はぁ、誰か……おぇっ、はぁ、はぁ……」
酷く歪んだ横顔が見えた瞬間、泣きそうになる自分を押し込み、私は正面から――安心させるように抱きしめました。
同時に、リアーヌが背後から抱きとめ、回復魔法と鎮静魔法を重ね掛けします。
大丈夫です、ソウジ様。
――私たちは、ここにいます。




