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世界最強の元一般人 ― 神に選ばれた落ちこぼれ、最強の“使い方”で異世界を掌握する ―  作者: ITIRiN
第5章:最強の帰還、はじまる“家族”の日常

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第48話:血に濡れた覚悟 ―それでも俺は、人でいたかった―

やることは決まっている。

だが、落ちている刀を拾う時間を、悠長に待ってくれる相手じゃない。

なら――自分から呼ぶ。


「来い、ムラマサ」


「仲間を呼ぶには、少し遅かったんじゃないか――」


名を呼んだ瞬間、抜かれた刀が空を裂き、俺の右手に収まった。

その勢いのまま、一番近い元国王の首を叩き斬る。


そこまでは、よかった。

だが――胃が裏返り、思考が自分を締め上げる。


「うぇっ……おぇぇ……はぁ、はぁ、はぁ……」


今、俺は何をした?

目の前の男の首を、切り落とした。


どんな感触だった?

最初はスッと刃が入る。途中で強い抵抗。だが一瞬で千切れ、視界から“顔”が消える。


今、どんな匂いがする?

血と脂。温い鉄の匂いが、鼻腔に焼き付く。


そりゃそうだ。返り血で、顔も体もべっとりだ。

皮膚の上に、生ぬるい膜が張り付いている。


見れば、この場にいるのは――およそ50人。

大人も子どもも、男も女も、区別なく。……さあ、次は誰を殺す?


――――――。


これ以上、殺したくないなら日本に帰るしかない。

ミナも、リアも、セリアも、城のみんなも――全部置いて。


――――――。


「おいおい、ひとり殺しただけでゲロってやがる。こんな奴、余裕で――!」


刃が先に動いた。そいつも、一刀で首が跳ねた。


「アホだなァ。雑魚相手に油断すっから――いっせーのーで行くぞ!」


叫びと同時に、周囲が一斉に突っ込んでくる。

戦闘素人の俺に集団戦の定石なんか分からない。

避けて、斬って、また避けて――ただ無我夢中で振り抜く。


一人は血柱を上げて倒れ、もう一人は意味のない声を残して絶命する。

そして、もう一人は――


「うわぁぁぁぁぁっ! 来るな、来るな、来るな!」


「……」


「こ、殺すなら俺じゃなく、こいつを殺せ!」


腰を抜かした女を無理やり立たせ、盾にする。

その瞬間、迷いなく刃を突き入れ、串刺しのまま横へ払った。


無意識に魔力を流し込みすぎていたのだろう。

最初の一太刀とは、比べものにならないほど――容易く、斬れた。


そこからは、結界の中で逃げ惑う連中を片端から屠るだけだ。

許しを請われても、「子どもだけは」と懇願されても、

泣き叫ぶ声を背に、最後の一人が倒れるまで止まらなかった。


* * *


生存者の気配は――ない。

視界に広がるのは、死体の山と血の海。

拙い剣筋で、綺麗な死体も、ぐちゃぐちゃの死体も混ざり合う。

その光景に、再び吐き気が込み上げた。


「おぇっ……うぶぇ……うっ、うぶぇぇ……はぁ、はぁ……誰か……おぇっ……」


吐き続けるうちに、少しずつ頭が冷えていく。

気づけば周りには死体しかいない。

その“静けさ”が、今さらになって恐怖を連れてきた――と、その時。


前と後ろから、誰かに抱きしめられた。


「ミナ……。後ろは、リアか?」


「まったく、どうしてこんな無茶をなさるのです」


リアは叱る代わりに、やさしい声をくれた。


「何も考えず一人で来たら左腕を斬られてさ。……色々あって、こうなった」


「色々、が一番知りたいのですが」


「最初に元国王を斬った。ショックで吐いた。

それで、日本に逃げるか、助けを求めるか……色々考えた結果、

――王だろうが何だろうが、俺の家族と、好きな女の子たちを守るために、邪魔者は全員殺す――って答えになった」


遅かれ早かれ、片をつけなければ被害は出る。

本能で分かっていたから、怯えて吐いている間に殺されずに済んだのだろう。


不思議と、自分が殺されるかもしれない恐怖は――一切、なかった。


「も~う。普段は子どもっぽかったり甘えん坊だったりするのに……たまにすごくカッコよくなるの、ズルいですよ」


「泣くご主人様。大人のご主人様。格好いいご主人様。

一日に三つも見せてくださるとは、随分と太っ腹ですね」


「一つ目と三つ目は狙ってない。特に一つ目は忘れろ」


リアの“大人”は――今朝のベッドのことだ。

あれは、狙ってやった。そう思われていないなら逆にショックだ。


二人に抱きしめられて、呼吸が整う。

頭の中で次の段取りを組みながら、ようやく落ち着きを取り戻す。


「ふぅ。左腕の処置は終わりましたよ、ご主人様」


「ダメ元で聞くけど、俺の左腕って……もう、くっつかないよな?」


リアは抱く腕に、ほんの少しだけ力を込めた。


「今の左腕は“死体”と同じです。

死んだ人を生き返らせられないのと同じで、元には戻りません」


「そうか……。じゃあ、どこかに転がってるはずの俺の腕、探しといてくれ。

腕時計が付いてる。すぐ分かる」


「言われなくてもやります! ソウジ様は、もっとご自分を大事にしてください!」


さっきまで平静だったミナの声が、涙を堪える色に変わる。


「この辺の死体は全部、時間を止めてまとめてある。

回収と保存、それから全員の照合。……セリアの偽装死に使えそうな遺体も選んでおいてくれ」


「ご主人様?」


「じゃ、あとは頼む」


リアが何かを察した気配を背に、問い詰められる前に俺は警備室へ転移した。


* * *


用件をひとつ片づけ、城門近くへ転移。ティアを念話で呼ぶ。


「まさかお主が、両足どころか全身をこの世界に突っ込むとはのう」


「この状況で一言目がそれかよ。少しは心配しろ」


「少し前にも言ったが、無茶ができるのは今だけじゃ。……まさか本当に片腕を無くすとは思わなんだがの」


ティアは笑った。だが、不思議と嫌じゃない笑いだ。


「残念だが、お前の出番はなかったな」


「ちゃんと見ておったぞ。まったく、酷い動きじゃったのう」


「えっ⁉ いつから?」


「国王を斬って吐いておるところからじゃ」


……最初から、か。


「だったら助け――るわけないか。どうせ、お前は本当に危なくなるまで動かない」


「今回はお主の気持ちを確かめたかったから、特別じゃ。

――それより、血まみれの服を何とかせい」


相変わらず、護衛らしくない専属メイドだ。

まあ、そういうところも嫌いじゃない。


血に濡れた服と肌だけ、時間を巻き戻す。

風にはためく左袖を見やりながら、俺は静かに――これからを考え始めた。

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