第4話:国を作る前に、金と現実を見る
駄女神が現れてから一日。俺は完成したばかりの城を探検していた。
「まあ、俺が作ったんだから当たり前だけど……イメージ通りだな。とはいえ城の間取りなんて知らないし、デザインのセンスもないから、ネットで見つけたやつを組み合わせただけなんだけど」
ただの丸パクリじゃない。ちゃんとこだわった場所もある。
その一つが和室だ。異世界転移主人公の城に和室は定番だろ? しかも和室の前だけは日本庭園つき。謁見の間や玉座はネットで拾ったデザインをそのまま採用した。
なんでそんな適当かって?
――そんな場所で仕事したくないからだ。というか俺ひとりじゃ到底こなせない。……いや待て、これってかなりマズいんじゃないか?
昨日までただの学生だった人間が、いきなり政治や駆け引きなんてできると思うか? 無理に決まってる。
国を作るなら国民が必要だ。農業をやる人、商売をやる人……様々な職が要る。
だが、こんな何もない土地に住みたい奴はいないだろう。伝手もコネもないし、ラノベ主人公みたいなご都合展開も期待できない。
仮に旨すぎる展開があったとしても、俺には知識がなさすぎる。
つまり――宰相や近衛兵などの協力者は必須。特に宰相は重要だ。君主の隣で仕事をする役職だから、傀儡化や乗っ取りも可能。信頼できる人間じゃないと致命的だ。
……てか、よく考えたら周囲に置く人間、全員そうじゃなきゃ駄目だな。
「……よし。一旦、国づくりはやめだ。それに何をするにも金がいるしな。当分は稼ぐことに集中しよう」
そう決めてメニューから地図を開く。
最寄りの国は東のボハニア。西は海の先に無人島、北はマリノ王国。今回はボハニア一択だ。
行き方は――飛行魔法もいいが、自分の身体能力を確かめたい。
よし、走ったり飛んだりしながら向かおう。
* * *
数分後。
軽く走ってみた感覚は――うん、あの駄女神にしてはちょうどいい強化具合だ。
軽く走っただけで地球一周とかするんじゃないかと思ったけど、そこまではなかった。
強さでいえば「特撮ヒーロー並み」くらいか。
そんなことを考えつつ走って一分ほどでボハニアに到着。
初めての「国」と呼ばれる場所だが、露店や店はある。だが空気が重い。暗い。……これは上層階級が好き放題やってるパターンだな。
その予感は十分も歩かずして確信に変わった。
すれ違う人々は皆おびえ、服もボロボロ。貧しい雰囲気が漂っていた。駄女神の説明を思い出す。
『この世界は中世ヨーロッパとほぼ同じよ。だから王が派手に権力振りかざすなんて日常茶飯事』
……うん、忘れよう。とりあえず今回の目的地――ギルドに着いたんだから。
* * *
ギルドの扉を開けると、外の重苦しい空気とは一転、中はやけに明るかった。
「……え、雰囲気違いすぎないか? 無意識に転移魔法でも使った?」
いや、さすがにそれはない。考えても仕方ない。さっさと受付に並ぶ。
窓口は三つ。右から、美少女、ふんわり系お姉さん、五十代くらいのおばちゃん。
もちろん俺が並ぶのは――おばちゃん一択だ。
(いや別に熟女好きってわけじゃないからな!)
そんな言い訳をしているうちに、順番が回ってきた。
「次の方、どうぞ」
「あ、はい」
近づくと、おばちゃんはにこやかに言った。
「ここで長く働いてるけど、初めて見る顔だね。違う国から来たのかい?」
「ええ、最近田舎から出てきたばかりで。ギルドのことを教えてもらえますか?」
「そうかい、何が知りたい?」
「まずは依頼の受け方を」
「そこから? よっぽどの田舎にいたんだね」
「あはは……山と畑しかないド田舎でしたから。ギルドは初めてなんです」
(さすがに“異世界から来ました”なんて言えねえしな)
* * *
――話を聞きながら、頭の中で整理する。
ギルドは各地に存在し、依頼を受けるには所属が必須。
受けられる依頼は自分のランクと同じか、それ以下のみ。
討伐依頼は指定部位を提出すれば報酬が出て、モンスター丸ごとの売却も可能。
登録時の実力でランクが決まり、最高でも最初はBランク。
昇格は実績次第で、最終判断はギルドが行う――そんな仕組みらしい。
ランク区分も把握した。
Sは一流で、ギルドからの特別依頼。
Aは超上級、Bは上級。
Cが中級、Dが初級……要するに、下積み前提ってわけだ。
* * *
「ここまでは分かったんですけど、モンスターの買取ってギルド登録しないと駄目ですか?」
最高でもBランクスタート。つまりそれ以上の依頼は受けられない。
効率よく稼ぐなら、直接売るのが一番だ。
「全然そんなことないよ。ランクは、冒険者に実力相応の依頼をこなしてもらって、少しずつ成長してほしいって考えから作られた制度だしね」
「なるほど。じゃあもう一つ。ギルドと各国の関係は?」
「……アンタ、ただの田舎者じゃないね?」
「いや、本当にただの田舎者ですよ。それで、どうなんですか?」
ここまでの話からすると、ギルドは一国と同等、下手すればそれ以上の権力を持っている。
なにせ膨大な冒険者という戦力を抱えているからだ。もしこの予測が正しいなら、外と中の空気の差も納得できる。
……そして、この推測が当たりなら、どんな国でも軽々しく手は出せないはずだ。
「……まあ、大方アンタの推察通りだろうさ。ギルドは一つの国と同等か、それ以上。そういう認識が一般的だよ」
「ありがとうございます。これからもお世話になると思うので、よろしくお願いします」
俺は丁寧に礼を言い、受付を後にした。




