第46話:この二人は、もう渡さない ―国も、運命も、俺が奪う―
「さて、先程シラサキ殿は“お詫びはいらない”と言っていたが、こちらとしてはそういうわけにもいかなくてな。
ハッキリ言えば、何か分かりやすい形でお詫びをしなければならんのだ」
お詫びねぇ。
別に金に困ってるわけでもないし、欲しいものといえば――。
「じゃあミナとリアを嫁に頂戴」
「……これは随分と高くつきましたね、陛下」
「何が“脅しに来たわけじゃない”だ。完全に脅してるじゃないか」
女の子の父親ってさ、普通『お前なんかに娘はやらん!』って怒鳴るもんじゃないの?
なのに二人とも怒るどころか、苦笑いしてる。
嬉しいような、複雑そうな――なんとも言えない顔で。
「その後にちゃんと“挨拶に来ただけ”って言っただろ。
俺の本来の目的はそっちだったのに、あんたらが勝手にビビって交渉モードに入ったんだろうが」
「いえ、それが普通だと思うのですが……」
「そもそもミナとリアの二人が、この国との関係があったから来ただけ。
それがなけりゃ二度と来てねぇし、関わる気もなかったよ」
「我が娘が君と仲良くなったことを喜ぶべきか、
それとも“とんでもない男を連れてきた”と嘆くべきか……」
まあ、正体も実力もハッキリしてない俺と仲良くできるなら天国、
敵に回したら地獄って感じだしな。
「それで、くれるの? それともくれるの?」
「選択肢がおかしいのは置いといて……。
この時期に二人揃ってシラサキ殿の所に行かれると、勘繰る者が出てくるのが問題だな」
「そうですね。素直に祝福する方もいるでしょうが、
“お詫びとして差し出された”なんて言い出す輩もいるかもしれません。
それに、ミナ様は王位継承権第一位。
しかも陛下の跡継ぎは今のところミナ様お一人だけですから、
納得しない貴族も多いかと」
ああ、そういえば一人娘って言ってたな。
悪いけど、俺にはセリアの件がある。婿入りは絶対にしない。
「言っとくけど、他の貴族の娘とかいらないからな。
お見合いも政略結婚も、する気ゼロだから」
「その言葉が嘘じゃないってのが厄介だな。
一時的なマイナスはあっても、君達の仲の良さはさっきの光景を見れば一目瞭然。
……最終的には圧倒的なプラスになるだろう」
「ですが、マイナスの時期はどうなさるおつもりです?
最悪、それが長引く可能性もありますよ」
「だが今後、シラサキ殿が他国の娘と結婚しない可能性もある。
そう考えれば、今回の話は好機だ。
それに――自分の娘が嫌がっているならともかく、そういうわけでもない」
「う~ん……。
あの二人が好意を寄せるほどの方ですから、
私達が知っている以上に魅力的なのでしょうし――」
……あーもう、イライラしてきた。
この二人の声だけ聞こえないようにしとこ。
一人ソファの肘掛けに頬杖をつきながら、
向かいで政治の話をしているであろう二人の口パク姿を眺めていると――
いきなり誰かが俺の頭を撫でてきた。
「あの人達が、自分の娘を政治の道具みたいに扱ってるのが気に入らないんでしょ?
でも、そんなあからさまにムスッとしないの」
振り向くと、ミナのお母さんだった。
「大体ソウジが国王になったら、こういう光景なんて山ほど見ることになるわよ。
納得できなくても、せめて我慢くらいは覚えなさい」
……まあ、最悪フェイク・フェイスでスルーできるけど、納得は一生しないだろうな。
「それに、私の夫はもちろん、陛下だって心から子供を政治の道具にしようなんて思ってない。
じゃなきゃ、こんな歳で独り身なわけないでしょ」
二人とも人間で言えば19歳くらい。
この世界の王貴族の結婚年齢を考えると、“売れ残り”扱いでもおかしくない。
……まあ、途中で成長が止まるんだから、普通の基準で測るのもどうかと思うけど。
「それだと、私達が婚期を逃したみたいに聞こえますのでお止めください、お母様」
「そうですよアンヌ。
別に私達が悪いわけじゃなくて、ただ“いい人”がいなかっただけなんですから」
「あなた達の言う“良い人”っていうのがソウジみたいな人のことなら、世界中探したっていなかったでしょうね。
まったく、この子、考え方が本当に独特なんだから」
……ミナ達、また余計なこと喋りやがったな。
「特に“一夫多妻”に対するソウ君の考え方は、なかなか面白かったわね。
あんな発想できる王族なんて、他にいないんじゃない?」
「……面倒くさいからハッキリ聞くけど、
俺がミナとリア、二人を貰っていいのか?」
「もし私達が“ダメ”って言ったら、ソウジはどうするのかしら?」
もう俺の中では、ミナとリアがいなくなる選択肢なんて存在しない。
だから一言だけ――
「貰ってく」
「じゃあ、私達に聞く必要なんてないじゃない。
ソウジには“誰かにダメと言われても貫ける強さ”も、
それを可能にする立場も力もあるんだから、一々許可なんて取らないの」
王妃がそう言うなら、もう問題ないな。
俺は立ち上がり、ミナとリアの手を握って――
「じゃあこの二人、貰ってくから。
この国の貴族と国民の説得はよろしく。
あと、俺の事情で悪いけど結婚はまだ無理だから、婚約って形で進めといて」
「ソウジ様が珍しく積極的で、私は嬉しいです♪」
「手を繋いでくださるのも良いですが、私的には腕を組みたいです。
その方が“ご主人様”を感じられますので♡」
普段は二人の方から来るからな。
たまには自分から動くのも悪くない――と思ったが、予想以上に喜んでるな。
「ついでにアベルも貰ってく。
代わりに玄関の扉をちょっと改造しておくから」
そう言って、俺は“どこでも○ドア”みたいな転移扉の仕組みを説明し、部屋を後にした。
ちなみにあれを使えるのは、俺・ミナ・リア・アベルの四人だけ。
勝手に家に来られたら困るしな。……逆は可能だけど。
それから俺達は、前回できなかった荷物の移動のためにミナの部屋へ。
「んじゃ、必要な物を一か所にまとめてくれ。
ベッドから小物まで、何でも持っていくぞ」
「いえ、ベッドはソウジ様に用意していただいた物の方が柔らかくて寝心地が良いですし――」
それから暇になった俺は、何をしようか考えた結果――
ミナのベッドでリアと並んで寝転がり、少しだけイチャイチャすることにした。
まずはリアに腕枕をして、お互いの顔が向き合うように体の向きを変える。
普段の俺ならこんなことしないけど、さっきの件もあってか、少し気分が高ぶっていた。
「んっ……いきなりどうしたんですか、ご主人様。
それもお嬢様のベッドで……」
「今までは立場とか考えて我慢してたけど、
さっき“貰ってく”って宣言したからな。……ちゅっ、ちゅ……」
軽くキスを繰り返しながらリアの髪を撫でると、彼女の体がびくっと反応した。
そのまま髪から腕、そして脇のあたりへと手を滑らせる。
……言っとくが、今日はこれ以上する気はない。
だから胸は触らず、少し長めのキスだけして――。
「ぁ、んっ……‼ ちゅ、んん……っ、そこ、んふ……。」
「ちゅっ、んむ、んみゅ……っ」
「ごひゅじんしゃま……、みゅね、んっ……ぎいぎい、んむ……、しゃわってくらさにゃいのは、ちゅっ……、すりゅいへす……」
別に狙ってやったわけじゃない。けど、胸のあたりに触れているせいか、リアの顔がどんどん蕩けていく。
切なさと快感、嬉しさが入り混じった――なんとも言えない色っぽい表情だった。
思わずもう少し続けようとしたその時。
「ちょっと、二人だけで何してるんですか⁉」
「なんだ、もう終わったのか?」
「“もう終わったのか”じゃないですよ! これは一体どういうことですか⁉」
どういうことって……まあ、雰囲気と気分の流れで、ついな。
「いや……つい? それに、リアが荷物まとめてる間はミナとするつもりだったし?」
……冷静になると、自分で言ってて最低な男みたいだ。
ちょっとテンション下がる。
「それなら許します。
正直、二人のあんな姿を見せられて、もう我慢できませんし……」
「ご主人様。私にしたこと以上のことをお嬢様にするのでしたら、
後でちゃんと私にもしてくださいね」
でも二人は今の説明で納得してるみたいだし――。
ここで俺が取るべき行動は、ミナにも同じことをしてやることだろう。
そう結論を出した俺は、リアのときと同じ体勢になった瞬間、
さっきまでの悩みなんてどこかへ吹き飛んでいた。
……男って、本当に単純な生き物だ。




