第45話:国王の前で、俺は泣いた
あれから親父さんと別れ、目的地に着くまでの間――。
『ご主人様から手を離してください』だの、
『私もソウジ様と手を繋ぎます』だの、
まるで他国の城内を歩いているとは思えない態度で歩き続けた。
……あっ、俺以外は自分の国どころか“自分の家”だったわ。
つまり、他国の城内で騒いでたのは俺だけじゃねーか。
「はい到着♪ 失礼しま~す、ソウ君達を連れてきました~」
いやだから……軽っ! うちのティア並みに軽くない?
申し訳程度のノックをしたかと思えば、そのまま扉を開けて部屋に入っていくリアのお母さん。
俺達もそれに続くと、ソファーに座っていた陛下が立ち上がり――
「わざわざ来てもらって申し訳ない、シラサキ殿。まずは座って楽にしてくれ」
今日のメンツは、国王とその隣に見知らぬ女性。
さらにその後ろに知らない男性、そしてリアのお母さん。
前回より俺に対して友好的なのは分かるが……正直、前回より面倒くさそうでもある。
「では、失礼致します」
そう言って俺とミナは、この前と同じソファーに座った。
陛下とその隣の女性も、俺達が腰を下ろすのを確認してから座る。
「さて、まずはこれを返すよ。ありがとう」
……ああ、改造テレビのことね。
さあ、この後は何て言ってくるのか、楽しみですねえ。
「一応こちらでも事前にしっかり使えるかのチェックはしていたのですが、大丈夫だったでしょうか?」
「あっ、ああ。何の問題もなかった。
シラサキ殿の活躍は“映像”とやらと、“ギルドの報告”の両方で確認させてもらったよ」
「そうですか。それは良かったです」
………………。
ここで全員沈黙ですか。
本当はこういう空気は嫌なんだけど、有利なのはこっちだし、少し話を振ってみるか。
後ろのリアのお母さんと、陛下の隣の女性は“自分は関係ない”みたいな顔してる。
……お母さんの隣の男の人だけは、ずっと俺に注意を向けてるけど。
「取りあえず、初めましての方もいらっしゃるようなので改めて。
私はソウジ・シラサキ――日本では白崎宗司と申します。
立場としては、元ボハニア王国の“新国王(仮)”って感じですかね」
「ではこちらからも紹介しよう。
私の隣にいるのが妻、レミア・マリノ。
そして後ろにいる男がリアーヌの父、レオン。この国の宰相を務めてもらっている」
紹介に合わせて、二人は軽く頭を下げた。
……チッ。親父さんが“面白そう”って言ってた理由、これかよ。
帰りてぇ。
「陛下とリアーヌさんのお母様のことは存じておりましたが、
他のお二人はそれぞれ奥様と旦那様でしたか。
遅くなりましたが、ミナ様とリアーヌさんにはお世話になっております」
俺がそう言って頭を下げると、リアのお母さんが口を開いた。
「ソウ君ったら、交渉なんて全然慣れてないだろうに、陛下とこの人を脅そうとしててホント可愛いんだから。ねぇ、レミアちゃん?」
「そうね~。アンヌの言う通り、背伸びしてる感じがあって可愛らしいわね」
「いや、君達。実際に私とブノワは今まさにシラサキ殿に脅されてる最中だから、静かにしていてくれないかな。
すみませんシラサキ様。妻が何か失礼を致しませんでしたでしょうか?」
へぇ~。お母さんがあんなんだからリアは誰に似たんだと思ってたけど、
お父さんはちゃんと真面目なんだな。
「いえ、別に。
それに今日は“お詫びを貰いに来た”とかじゃなくて、ご挨拶に伺っただけですし。
そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
「お詫びを貰いに来たわけじゃないって言ってる時点で、もう脅しだろそれ」
アベルのこの一言が引き金になった。
今まで抑えていた緊張や疲労が一気に溢れ出し――
ついに我慢できなくなってしまった。
「……あ゛ぁーーー‼ 俺は本当に脅しに来たわけじゃなくて、挨拶に来ただけなの!
前回のことはちゃんと説明してくれて、こっちが納得できればそれでいいって思ってたの!
なのに何で変な駆け引きみたいな時間が始まるわけ⁉ もーーー、やだぁ‼」
「えっ⁉ おい、いきなり泣くなよ坊主!」
「大丈夫ですよ、ソウジ様。落ち着くまで私がこうしていてあげますからね」
ミナはそう言って俺を抱きしめ、背中をぽんぽん叩き始めた。
リアはアベルを叱り、向こうではリアとミナのお母さんが、両父親を叱っている。
ちゃんとは聞こえなかったけど……
どうやらリアは「余計な一言を言ったアベルを注意」、
両母親は「いい年して子供相手に大人げない」と言っていたようだ。
* * *
あれから十数分後――。
ようやく落ち着いた俺はミナに顔を拭いてもらい、
フェイク・フェイスもすでに切れているので、素のままで言った。
「もう面倒だから敬語とかなしでいくから……。で、前回の説明は?」
「ああ、私達に対してなら楽な喋り方で構わない。
ただし、他の王族や貴族相手の時は一応気を付けるんだぞ。
それで前回の件だが……」
そこから陛下とリアの父親による説明が始まった。
要約すると、こうだ。
最近まで行われていた戦争は、マリノ王国の隣国で起きたもの。
その国とは友好関係にあり、最初は優勢だった。
だが突如、魔法の杖を持った100人の兵と、一台の“鉄の馬車”によって戦況が一変。敗戦。国を乗っ取られる。
この出来事はミナ達が偵察中に起こったため、三人は何も知らなかった。
敗戦国の元国王は影武者を立て、自身と一部の貴族を連れてこの国へ避難。
現在は息を潜め、反撃の機会を伺っている。
そのため、この国は緊張状態が続いており、
本来なら慎重に動くべきところを、一部の貴族が独断で“安全確認”を名目に行動を起こしてしまった。
その結果、ミナ達三人でなんとか出来る程度の攻撃が、俺に向けて放たれた――とのこと。
「で、その影武者はまだ生きてるのか?
もし殺されてたら、本物の王様が国を取り返しても“自分達を見捨てた王”になるだろ」
「それは大丈夫だと思います。
狙いは不明ですが、向こうの国王(影武者)はそのまま国王を続けており、国民にも危害は加えていないようです」
「……ただの領土拡張か、あるいは世界征服でも狙ってんのか」
「私は後者だと思います。
各国の城には“異世界の勇者”を召喚するための魔法陣がありますし、
タイミングさえ合えば、すぐにでもそれを使える状態ですから」
つまり――
勇者を使って他国を征服し、魔法陣が使えるようになったら、
また新しい勇者を召喚して……を繰り返すつもりってわけか。
「一年、二年で世界征服する必要もないし、勇者も数人いれば十分……。
無謀な話でもないのか」
「そういうことだ。
ところでシラサキ殿、君は自分のことを日本人だと言っていたが――勇者召喚でこっちに来たのか?」
「いや、俺は別ルート。勇者云々は関係ない。あとは秘密」
「ふむ、世の中“知らない方がいいこと”もある。無理には聞かんさ」
「ふ~ん。国王様がそれでいいのか?」
俺の中では、国王って“情報命”の生き物だと思ってたんだが、
この人は全然そういう素振りを見せない。
「シラサキ殿が考えていることは何となく分かる。
だが私は、それ以上に君との“繋がり”を重視することにしたんだよ」
「いや、普通さっきまで自分達を脅してた相手にそれはないでしょ。
国王としてどうなの、それ」
「私がそう決めたのは、シラサキ殿が“本音”を吐き出した後だ。
どうやら、私の妻やアンヌは最初から気付いていたようだがな」
「どういうことだ?」
「その様子ですと、ご自分では気付いていないようですね……。
私の予想ですが、シラサキ様は何か魔法を使い、ご自身の人格か心の一部を弄っていたのでは?」
「手の内を明かすとミナ達に怒られるから言わないけど……まあ、大体当たり」
「そのせいで、私達には“本来のシラサキ様”が見えず、信頼してもいいのか判断できなかったのです」
「なるほど。
つまり、今の俺――魔法を解いた状態の俺なら、真意を読めるってことか。
ミナ達と初めて会った時も似たようなことあったし、まあ納得だな」
ミナとリアのお母さんが優秀なのか、
この二人の“人を見る目”が鈍いのか……多分、前者だな。
あの二人、ミナとリアの服がこの世界のものじゃないって一瞬で見抜いてたし。
その証拠に、隣国の話が終わってからずっと、女四人で“服の話”してる。
……あとアベル? 勝手にどっか行った。
どうせ服の自慢でもしてるんだろうけど。




