第44話:馬車で甘やかされ、城で修羅場!
マリノ王国の国王と自国の騎士団団長が旧友の仲――。
その響きがなんかカッコよかった。
だから俺もやってみたい、というだけの理由でアベルをうちの騎士団に再就職させたあと、親父さんが用意していた馬車に乗り、城へと向かい始めたのだが――
「………酔った」
「大丈夫ですかご主人様。もしあれでしたら、お城に着くまでお休みになられても大丈夫ですよ」
ちなみにリアの言う『お休み』とは、リアが使う回復魔法の一種で、俺を眠らせるというものだ。
いや、いくら回復魔法が利かないとはいえ、症状を軽くする方法の一つや二つくらいあるだろ。
……と思うが、どうやらリアにその気はないらしい。
それはなぜか? 理由は簡単だ。
あまりの気持ち悪さに俺は親父さんのことなど完全に無視し、隣に座っていたリアの膝の上に倒れ込んでいる。
つまり――リア的にはこの状態を維持したいがためにそう言っているのだ。
「この馬車は王族用の特別製ですので、一般的なものと比べてかなり衝撃は抑えられているはずなのですが……。
ソウジ様からしたら、これでも駄目だったみたいですね。……あと倒れるなら私の方に倒れてきてくださいよ」
俺の両隣にミナとリアが座っていてもまだ余裕があるほどだし、奥行きも十分な広さがある。
確かに“王族用”というのは本当なのだろう。
だが――これで衝撃が抑えられている? 嘘だろ。
さっきからずっと上下に揺れてるし、段差があった時なんか「ガタン」って音がするぐらいだぞ。
……もう我慢できん。魔法使おう。
「ん? 何かあったのか?」
親父さんは、馬車の振動と音が一切なくなったことに気付き、止まったのかと思ったらしい。
カーテンの隙間から外を覗いたあと、すぐこちらに顔を戻して――
「???」
「じゃあ俺は寝るから、リアよろしく」
そう言いながら収納ボックスから小さめの毛布を出し、頭から被ったのだが――
「はいはい、まだお城までは距離がありますし、お休みになるのはよろしいですが……。
ちゃんと説明してからにしてくださいね」
(……じゃないとこの毛布、引っぺがしますよ)
(じゃあミナの方に行くからいいわ)
(そんなこと言う人には回復魔法をかけてあげません)
(…………)
それは困る。いくらポーカーフェイス中とはいえ、酔った状態での話し合いは無理だ。
ということで渋々リアの腰に抱き着くのを一旦止め、毛布を目の下までおろし――
「俺が衝撃吸収の魔法を使いました。仕組みはよく分かりませんが……。
恐らく馬車が走るたびにタイヤへ伝わる衝撃を魔法で吸収して、それを外へ逃がしてるんでしょう。……これでいい?」
「はい、よく出来ました。あとは私達にお任せください」
リアの許可が下りたため、俺は体勢を元に戻し、目を瞑ると同時に心地よい眠気に襲われた。
* * *
「あーーー⁉ またソウジ様がリアーヌに抱き着いて寝てる!」
「………うるさい」
「おはようございますご主人様。早速ですが、お城に到着致しましたよ」
なるほど。リアが俺を起こそうとしたらミナが毛布を剥いだか何かして、さっきの大声に繋がったってわけか。
「親父さんは?」
「親父なら先に降りて待ってるぞ。俺も外で待ってるから早く来いよ」
そう言ってアベルも外に出て行ってしまったので、馬車の中には俺とミナ、リアの三人だけになり――
「ご主人様。身だしなみを整えますので、少しジッとしていてくださいね」
リアはそう言うものの、俺の格好は相変わらず白いシャツに黒いズボンという最低限の服装だ。
……ジャケットくらい着ようかな。
「今日はこれも着るから合わせてくんね」
「あら、ジャケットをお持ちだったのでしたら前回もお召しになればよろしかったのに」
「この前はミナの父親に会う気なんてなかったから、用意してなかったんだよ」
「なるほど。ポーラー・タイとかはありますか?」
ポーラー・タイってネクタイの紐バージョンだっけ。
これからは正装することも増えそうだし、今度買おうかな。
「持ってないから今日はカジュアル気味で頼む」
「では、ここをこうして……こうですかね。じゃあ最後に髪の毛も整えますね」
今日は馬車の中ということもあり、リアは膝立ちになった。
……そのおかげというかなんというか、俺の目の前、しかもかなり近い位置に胸がある状況になってしまった。
「…………」
取りあえず目を瞑ってやり過ごそうと思ったけど、
それはそれでリアの匂いや体温がいつも以上に感じられてヤバい。
そんなことを考えていたら、いきなり俺の頭がリアの胸元へと引き寄せられ――そのまま抱きしめられた。
……胸、柔らか。
「前回はご主人様が“何もするな”と仰いましたのであれでしたが、
今回は私達が全力でお守り致しますので、ご安心ください」
「なんで髪を整えてた流れからそうなるんですか⁉ さっきからリアーヌばっかりズルいです!」
「ふふっ、それでは先に降りて待っておりますので」
ちょ、待てー‼
色んな意味でさっきのは嬉しかったけど、このヤキモチ焼き中のお姫様の対処法を教えてから降りてけよ!
童○坊やの脳みそじゃキスくらいしか思いつかないぞ!
そんな俺の心の声も虚しく、リアは馬車から降りて行ってしまった。
「…………」
ほら~、ミナちゃんったら凄い膨れちゃってるじゃん。
なんか考えないとな……。よし、これでいこう。
「なんですか? 言っておきますけど、今の私は頭ぽんぽんだけじゃ満足しませんからね」
妹モードのミナでも、流石にこれじゃ満足しないのは分かってたっつうの。
でもこのままミナの頭を俺の方に引き寄せて……耳元でこう囁いてやったらどうかな?
「(ほら、さっさと国王のところに行ってミナとリアを貰いに行くぞ……。断られても貰ってくけど)」
このセリフのポイントは――前半は囁くように、そして最後の『断られても』のところは、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言ってやることだ。
こんなこと初めてやったからどうなるか賭けだったが、
ちゃんと効果はあったらしく、ミナは恥ずかしそうに下を向きながら小さな声で「はい……」とだけ言い、先に一人で降りて行ってしまった。
ポーカーフェイス中は、ある程度心の余裕が生まれるのは知ってたけど――
あんな恥ずかしいことでも普通に出来るんだな。
まあ、心の余裕っていっても限度があるわけで。
前回は途中から表面上は余裕そうでも、内心はガタガタだったけど……。
今日は大丈夫だろ。とか思いながら外に出ると――
「お待ちしておりました。シラサキ様」
一人のメイドがそう言って頭を下げると、他のメイドや執事っぽい人達も一斉に頭を下げ始めた。
「………俺は帰るけど、お前らはどうする?」
言ったそばから限界が来た俺は、三人にそう聞いた。
「着いたばっかりでそれはないだろ、坊主」
「まあ、ご主人様のお気持ちも分からなくはないですが……。
いったいこれはどういうことなんでしょうか、メイド長」
「ちょっと~、なんでそんな怖い顔してるのよリアーヌ。
あと、これは陛下の命令であって私が考えたわけじゃないわよ」
メイド長の喋り方、かるっ!
しかも見た目だけで言うとこの人……17歳くらいだよな。
「シラサキ様、申し訳ないのですが私が愛するのは夫一人だけですので。
代わりではないですが、私の娘などいかがでしょうか?」
「いやっ、別にそういうわけで見てたわけでは……。
それに本人がいないところで、そういうことを言うものでは……」
ちょっと待て。この人、誰かに似てないか?
……分かった! この人、リアに似て―――
「お母様に勧められなくとも、私は既にご主人様のものですのでご心配なさらず」
んぅ⁉ この人ってリアのお母さんなの⁉
「あら。別に陛下を疑っていたわけではないけれど、その話は本当だったのね。
これは私もレミアちゃん達に混ぜてもらおうかしら」
誰だよレミアちゃんって! 次から次に俺の知らないことばっか言うんじゃねえ!
「今日はこれまた勢揃いだな。坊主的には一気に挨拶できて丁度いいかもしれないけどな」
「ちょっと面白そうだな。俺も仕事サボってブノワのところに行こうかな」
「いや流石にそれは駄目だろ。ちなみにレオンの親父さんは?」
「あいつならブノワと一緒にいるはずだぞ」
こらこら君達まで知らない名前出すなよ!
しかもブノワってミナの父親じゃねえか。
何者だよ、そんな奴と一緒にいるとか!
「まさかいきなり息子が増えるなんて思わなかったけど、背伸びしてる感じがまだまだ子供っぽくて可愛いわね。
さっ、陛下が待ってるし行きましょう……ソウ君♪」
「えっ⁉ あっ、ちょ……」
「なんでご主人様とお母様が手を繋ぐんですか⁉」
リアに続き、ミナまで騒ぎ始める。
多分俺達を迎えるために集まっていたメイドや執事達は、よく分からないまま――温かく見送ってくれた。




