第3話:異世界初日、駄女神がまたやらかした
「どう? 私があげたチート能力について理解できたかしら?」
「ああ、説明された分は全部理解した」
「なら安心ね。理解してれば何とかなるわ」
「つまり、分からないことがあっても自分で考えろと」
「そういうこと~。全部教えてたらキリがないし。どうしても困ったら私に聞きなさい」
「いや、聞けって言われても、どうやって聞くんだよ?」
異世界でスマホなんて使えるわけないし、こいつが同行するとも思えない。
正月に職務放棄してた神だぞ。
「あ~、アンタ限定で異世界でもスマホは使えるようにしておいたから大丈夫。生活インフラも全部ね」
「仕組みは?」
「……神の悪戯的な?」
「説明するのが面倒ってことか」
「正解。だからこれ以上聞くのは禁止」
「別に仕組みなんか興味ない。それより異世界の情報を教えてくれ」
便利さの理屈はどうでもいい。今知りたいのは異世界そのものだ。
「はいはい。じゃあ次はお金と言葉について」
「ラノベだと全然違うパターンが多いけど、実際は?」
「もちろん違ってたわよ」
「過去形?」
「私が日本と同じにしといたから」
「じゃあ、今の財布の中身も使えるのか?」
「そゆこと~。その調整に手間取ってたのよ」
なるほど。だから一月の終わり近くに現れたのか。
……まあ、神が来てる時点でおかしいんだが。
「細かい続きは向こうで話すわね」
そう言った直後――
景色は一瞬で自宅リビングから見知らぬ森へと変わった。
「はあ!? ここどこだよ!」
「異世界よ。アンタがずっと望んでたでしょ?」
「おお……これが異世界か。日本の森とあんま変わらんけど」
「森なんてどこも一緒でしょ。それより続きを話すわよ」
* * *
「まずね、アンタ専用の土地はもう用意してあるわ。広さは……まあ、某テーマパーク級ってとこね。シーくらい」
「待て待て待て。いきなり規模がおかしい」
「今は無人だから安心しなさい。王様やりたいなら、まず城を建てるところからよ」
「いや普通、街とか村とかじゃないのか!?」
「細かいことは後! それと、日本と異世界は転移魔法で行き来できるようにもしてあるから」
「……今、さらっととんでもないこと言わなかったか?」
* * *
「一通り説明したし、私は帰るわ」
「待て! 建築だけは材料無限にしてくれ!」
「建築限定ならいいかな。お詫びも兼ねて」
「お詫び? なんだそれ」
「実はね……ついでだしってことで、アンタを高校二年生くらいまで若返らせようとしたんだけど」
「おい! そこで黙るな!」
慌ててスマホの内カメを開いた瞬間――
「人間を若返らせるのは蘇生魔法の簡易版みたいで、髪と目の色が変わっちゃいました~。てへぺろ☆」
「てへぺろ☆じゃねえよ! 神なら把握しとけ!」
髪は黒から白へ、左目は青、右目は赤に。
色素変化だけならまだいい。問題は臓器への影響だ。
「おい、確か目が赤い人って、眼底部の血管の色が透けてるから赤くなるんじゃなかったか?」
「へ~、物知りね」
「感心してほしくて言ったんじゃねえ! 内臓まで影響あったらどうすんだよ!」
「安心しなさい。ちゃんと確認したけど異常なし」
「仮にそうでも、この見た目で日本は出歩けねえぞ」
「その時はフェイク・フェイザー(姿を変える魔法)を使えばいいじゃない」
(※日本に魔力はないから無理だけど、後で調整しとこ……)
「ん? 今なんか言ったか?」
「別に。で、他に質問は?」
「最後にひとつ。俺、普段は実家暮らしだけど、不在中は?」
「関係者の記憶をちょっと弄って、“白崎宗司は一人暮らししてる”ことにしてあるから安心して」
俺のスマホに、知らない部屋の住所まで送られてきた。……連絡先教えてねえのに。
「なあ……簡単に記憶書き換えていいのか? 言ってることとやってること全然違うじゃん」
「あーあー聞こえなーい」
そう言い残し、駄女神は姿を消した。
完全に逃げやがったな。……よし、忘れて城を建てるか。
* * *
頭の中で「メニュー画面」と思い浮かべると――
「うおっ! 本当に空中に出た!」
空中に画面が現れ、『建築』を押すと建物一覧がずらり。
「一般住宅から城まで……遊園地? ……気になるけど、まずは城だな」
要望を入力すると――
『承りました。完成まで一日ほどかかります』
……なんとも建築業界泣かせの機能だが、楽できるなら文句はない。
さて、もう一つやりたいことを試すか。
頭の中で魔法を思い浮かべると――
「おお、本当に発動した!」
イメージ通りに魔法が使える。応用も効くらしい。
やりたいことはすぐに終わった。
* * *
最後にフェイク・フェイザーで見た目を戻し、用意された一人暮らしの家へ転移した。
……地球に魔力があるのはおかしくね?
今度会ったら問い詰めよう。




