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世界最強の元一般人 ― 神に選ばれた落ちこぼれ、最強の“使い方”で異世界を掌握する ―  作者: ITIRiN
第4章:奪う覚悟 ―最強が初めて守るもの―

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第36話:束の間の安らぎと、熱に隠された違和感

なんとか国王の足止めを振り切った俺は、ミナの「これ以上手の内を晒さないでください」という忠告を、見事にスルーした。


「では明後日にあらためてお邪魔します。今回はこれで失礼します」


「そんなことを言わず、せめて玄関までご一緒させてくれ」


「いえ、私達はここから帰りますので。お構いなく……では、お邪魔しました」


そう言って、俺は転移魔法で自分たちの城へ戻った。


* * *


「ん? ここは……俺の部屋とデザインは同じだが、誰かの部屋……だよな。なんでこんな所に転移したんだ、坊主」


アベルの疑問は華麗にスルー。張っていた魔法をすべて解いた瞬間――身体も心も限界を迎え、そのままベッドへ倒れ込んだ。


小さく三人に向けて。


「はぁ〜……疲れた。……もう寝かせて」


「おい、俺の質問を無視して寝るな! 結局ここは誰の部屋なんだよ!」


「俺の部屋。お願いだから黙って」


「ソウジ様は私達と違って初めての謁見でした。それに加え、今回はお父様との“脅し合い”……いえ、今後の交渉を優位に進めるための駆け引きもありました。力技とはいえ、お一人でやり切ったのです。休ませて差し上げましょう」


そうだ、もっと言ってやれ。そして静かに寝かせてくれ。


「いや陛下達は今も心労で死にそうになりながら動いてるだろうけどよ、こいつに疲れる要素なんてあったか? 後ろから見てた感じ、最初から最後まで余裕しかなかったぞ」


「そんなわけない。最初から最後まで、余裕なんて一ミリもなかった。……ただ“そう見せてただけ”だ」


「もし差し支えなければお教えください。ご主人様はどうやって平常心を保っておられたのですか?」


「んなの、坊主には圧倒的な力があるんだ。勝手に自信が湧いて、自然と平常心も――ってやつだろ」


なんか馬鹿が馬鹿なこと言ってる。俺を何だと思ってんだ。


「悪いが、俺はそんなに頼もしい人間じゃない。あのポーカーフェイスは“魔法”だ。内心はだいぶ動揺してたし、もう少し遅ければ、そのせいで魔法が使えなくなるところだった」


持続型の魔法は、一度発動すれば、術者が解除するか魔力が尽きるまで続く。

だが“動揺した状態で新しい魔法を使う”と、失敗することがある。

あの時、弓兵の矢を転移で飛ばせたのは……奇跡みたいなもんだ。


――ああいうのを“火事場の馬鹿力”って言うのかもしれない。


「ってことは、さっきのはほとんどハッタリか……。でも、魔法を使ってたとはいえ“一国の王”と“暗殺部隊”相手に、あの立ち回りは……褒めていいのか?」


「交渉としては無理筋もありましたが、“勉強なしの初見であの結果”なら、褒めるべきです」


「姫様が言うならそうだな。もう一つ疑問だ。あの部屋で坊主が魔法を使えたのは分かる。だが、なんで誰も気づかなかった? 暗殺部隊はもちろん、陛下だって普段ならすぐ勘づくはずだ」


頼む、もう寝かせてくれ。気が抜けたせいか、急に身体がだるい。


「恐らくですが、ソウジ様は“魔力探知を封じる類”の魔法を使っていたのでしょう。私のコートをディメンション・シェルフに仕舞った時点で、魔力の気配が消えていましたから」


「確かにそれなら辻褄は合うな。実際どうなんだ、坊主?」


アベルが何か言ってるが、頭がぼーっとして聞こえない。まあアベルだし、別にいいか。


「……少し失礼いたしますね、ご主人様」


リアが俺の額に手を当てる。


「んっ……冷たくて気持ちいい……」


「やはり、少し熱がありますね」


「えっ⁉ 風邪か何かですか?」


「いえ、先ほどまでの緊張から解放された反動で、一気に疲れが出たのでしょう。ご主人様は“疲れが溜まると熱を出しやすい体質”という可能性もございますが」


よく分かったな、リア。前半はどうか分からないが、後半は当たりだ。昔から“遊び疲れの翌日、高熱で学校欠席”は何度もあった。最近はなかったけど。


「貧弱な体だなぁ。これで戦闘になったらどうすんだ?」


「ですが、これは体力がないとか、そういうことではありません。

体質みたいなものですからね。

私達が無理をさせないように気をつければ大丈夫です。

……それに、最悪の場合はこうして――」


リアは額からすっと手を上げ、かざすように治癒の光を流し込む――が。


「あら? 私の治癒魔法が効いていない」


「そ、それって……まさか重い病気!? ど、どうしましょう……! とにかく病院に連れて行かないと!」


「落ち着け、ミナ。俺の体はちょっと特殊なだけだ。

普通の怪我ならリアの魔法で治るし、今回はたまたま効かなかっただけ。

だから心配いらない」


最近できた指のささくれは綺麗に治った。つまり“外傷は治るが病気は不可”という仕様っぽい。心当たりは二つ。ひとつはポンコツ女神の“若返りの代償”。もうひとつは――。


「そういえば、今のご主人様と同じ症状の方が一人いましたね」


「……あっ、お母様! ですが、あれは“成長を止める指輪”の副作用。成長を止めている間は一部の細胞が止まるせい――と聞きました。それに、あれはマリノ王国の王族と結婚した者にしか受け継がれません。ソウジ様が持っているとは……」


ハイヒューマンの王族は寿命が長い。結婚相手はどうしているのかと思っていたが、便利な道具があるわけだ。……俺はいらないけど。


「さて、本当なら今ここでご主人様に真相を伺いたいところですが……。

さらに熱が上がってきたようですし、今は無理をさせない方がいいですね。

まずは、ゆっくりお休みを――」


ごめん、リア。どのみち、もう限界――。


* * *


身体が熱い……けど、額が冷たくて気持ちいい。


「んっ、起きたのかの?」


「ん〜……ティア?」


「そうじゃぞ〜。お主の専属メイド、ティアじゃぞ〜」


「なんだその、ふざけた自己紹介は」


「熱で誰か分かっておらぬようじゃからの。別に、ふざけたつもりは“半分だけ”じゃ」


半分どころか、九分九厘ふざけてただろ。今の喋り方、赤ちゃんに話しかける母親みたいだったぞ。


「それで、なんでここにいるんだ?」


「なんでと言われても……わらわが一番暇じゃから?」


「なんで疑問形。お前は暇なんじゃなく、これが“本当の仕事”。つまり今は仕事中」


「今のお主は熱で弱っておるせいか、普通に喋る時もツッコミも声が小さくて良いのう。全然怒られてる気がせん」


別にいつも怒ってるつもりはないし、ティアも怒られたと思ってないだろ。


「そういえば、この冷え◯タは?」


「リアーヌが薬棚から出した。というか医療品の大半はお主が用意したものじゃろうに」


「あ〜、リアがいるから要らないかと思いつつ、一応揃えたんだった。まさか自分で使うとは」


「今後も使うのは、主にお主じゃろうの」


こいつ、俺が“何をしたか”どこまで気づいてる? 正直、これに関しては俺が怒られてもおかしくない。あまり触れないでほしい。


「ティア、腹減った」


「うむ。お主らが帰ってきたのがちょうど昼頃。そのまま寝たなら、腹が減って当然じゃな。待っておれ、今エメに何か作らせるからの」


「あくまで“自分では”やらないんだな」


「わらわが作るより、エメの方が味は確実じゃろ?」


「……確かに」


「分かったなら、おとなしく待っておれ」


そう言うとティアは、足をぷらぷらさせて椅子から降り、小さく伸びをひとつ。

「ふぅ」と息をついてから、のんびりと部屋を出ていった。

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