第32話:初会議で国を動かし、婚約フラグを立ててしまった件
「あ~、仕事したくね~。まさか就活始める前に就職先が決まるとはな」
「この国の王様になろうって人のセリフとは思えないね」
「ソウジ様、愚痴はいいので会議を始めましょう」
今日の一発目の仕事は“会議”。
ちなみに専用の会議室は二つ――普段使い用の小部屋と、来客用の大部屋がある。
「で、今日の出席は俺とミナとマイカ……三人だけ?」
「そもそも人数が少ないんですから仕方ありません。それにリアーヌはメイドとしてのお仕事、アベルは騎士団の仕事がありますし」
「もう一人いるだろ、もう一人。あいつは?」
「あ~、ティアなら訓練場に向かってたよ。『この下駄とやらを履いたままでも全員余裕じゃ!』って言ってたけど」
……そういえば朝飯の時にも同じこと言ってたな。
俺の専属メイド、自由すぎだろ。怒られもしないとか、ホワイト企業にも程がある。
「もうあいつはいい、放っておこう……。で、昨日頼んでおいた金の件はどうなった?」
「それは私から。元々の国庫とソウジ様が集めた資金を合わせれば、かなりの額になります。ですので“全国民に一定額を渡す”こと自体は可能です。問題は一人当たりいくらにするか、そして個人経営の店に別枠で出すかどうかですね」
「ふむ……金勘定はまだ分からんから、額は二人で決めてくれ。俺は後で確認する。で、店の扱いはどう考える?」
「個人配布だけじゃなくて、店にもある程度渡した方がいいと思うな。そうしないと、お店を持つ人と持たない人で差が出ちゃうだろうし」
まあ、普通に考えればそうだよな。
売り上げで差が出るのは当然だとしても、最初の支援くらいは揃えた方がいい。
――ただ一つ問題がある。
「全店舗や畑を調査して適正額を振り分けるの……正直めんどくさい。ミナ、なんか楽な方法ない?」
「めんどくさいって……! まったく、国王のセリフとは思えませんね。でも確かに一からやっていたら膨大な時間がかかります。となると……あらかじめ配布額を決めてしまうのが妥当でしょう」
「なるほど。でも、それだと不公平感が出るよな」
「それなら、大まかに三段階くらいに金額を分ければいいんじゃないかな。その方が楽になると思うよ」
「ただ、それだと差額に不満を持つ人は必ず出ます。全員を納得させるのは……正直、不可能でしょう。まあ、無視するという手もありますが」
どこの世界にもクレーマーはいるんだな。
……まあ、電話もネットもないだけマシか。
「じゃあ金額を控えめにして、業種ごとに一律にするのはどうだ?」
「それだと、ちゃんと頑張ってるお店まで、あんまりやってないお店のせいで損しちゃうことになるよ」
「ですが元はこの国とソウジ様のお金。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはありません」
(……半分は俺が貴族の屋敷から強奪した金だけどな)
「そもそもの目的は、今まで重税で取られすぎてた分を少しでも国民に返して、生活に役立ててもらうことだ。別に特別ボーナスを配るわけじゃないしな。――今の予算だと、税金免除は何年くらいいけそうだ?」
「ざっと数年は余裕ですね。でも一から新しい国を作ったわけじゃありませんし……免除するとしても一年が妥当だと思います」
「そんな短くて大丈夫なのか?」
「先程も申しましたが、今回はゼロからじゃなくて、必要な店や畑はもう揃っています。それに国民一人ひとりへの配布とは別に、職場にも渡すことを考えれば……一年免除するだけでもかなり優しい措置ですよ」
「一般市民だった私からすれば、十分すぎるくらいだよ」
……王女と元市民が言うなら、そうなのか。俺にはさっぱりだ。
「まとめると――国民全員に同額配布。店舗や畑には業種ごとに差をつけて配布。そして税金免除は一年間。これで異論あるか?」
「異論はありません。ただ、実行するなら“国王宣言”の場で同時に発表されるのが最善かと」
「あ〜、確かにその方がソウジ君への印象は良くなるかも。それに私たちはソウジ君の目的や人柄は知ってるけど、ほとんどの人にとっては“いきなり現れて国を乗っ取った謎の男”だからね」
「一応考慮して、怪我人や病人をまとめて一か所に集め、ヒーリング・フィールドで治したんだが……恩恵を受けられなかった人も多い。だからまだ俺のことを良く思ってない奴らもいるかもしれない」
しかも、その場に居合わせた人数自体も限られてる。
噂は広まってても、所詮は噂だ。
「やはり、あの恩恵を受けられたのは一部に過ぎませんからね。ですので、一番手っ取り早いのは、全国民にソウジ様のお気持ちや考えを実際に体験してもらうことかと」
「となると、さっきのミナの案が有効ってことか。で、その“宣言”はみんなの前でやらないとダメなの?」
「当然です。そんな重要なことを張り紙や手紙で済ませるなんてあり得ません」
「……いっ、1年後くらいにやりませんか?」
「無理です。遅くとも来月末が限界です」
マジかよ。あと一か月ちょっとで来るなんて、すぐだろ。あー、嫌だ、マジで嫌だ。日本に逃げようかな……。
「間違っても日本に逃げようなんて考えないでくださいね」
「ははっ、まさか」
――完全に心読まれてない? とりあえず落ち着け俺。紅茶でも……。
「ねえ、どうせならソウジ君の宣言と一緒に、ミナとの婚約も発表しちゃえば? その方が信頼度も一気に上がると思うし」
「ぶふーーーーっ!」
「まあ、今後も私がこちらにいる以上は遅かれ早かれ発表しなければいけません。マリノ王国側が素直に頷いてくれれば、それも可能なのですが……」
――つまり、俺が一か月以内にミナの親に挨拶しに行くってことか?
絶っ対に嫌だ! 悪いけど、当分は行く気ないからな!
「なら、早めに実家に戻った方がいいんじゃない? ソウジ君に送ってもらうとはいえ、何が起こるか分からないし」
「そうですね。では、ちょうど話もまとまりましたし――明日行きましょうか」
「マジかよ!? 俺はいいけど……そんな急に帰って大丈夫なのか? 荷物を取りに行くだけとはいえ、王城に入るなら許可とか必要なんじゃないのか?」
「ただ自分の家に帰るだけですから、大丈夫ですよ。それに一番の目的は荷物をこちらに運ぶことですし。お父様達とは、少しお話しできればそれで十分です」
ふ~ん……。まあ俺は三人を送って、荷物を回収したら適当にブラついてればいいか。
少なくとも――明日はミナの親に会わずに済みそうだな。




