第30話:異世界勇者の記録と、俺のベッドを巡る攻防戦
【報告書:現状および勇者召喚に関する調査】
① 国王や貴族が重税と横暴政治を敷いていたのは事実。
しかし、自分達の食糧を失うことを恐れ、農地の維持だけは怠らなかった。
そのため畑の状態は良好で、当面は食料難に陥る心配はないと見られる。
② 目立った敵国は存在せず、特筆すべき友好国もない。
現マリノ王国の監視を意識してか、この数百年で起きた問題はすべて自国内で処理されている。
(補足:マリノ王国の王族はハイヒューマンの一族であるため、在位期間の長さも安定に影響していると思われる)
③ この世界には「勇者召喚」という儀式が存在する。
過去の勇者は地球由来の技術をもたらしたと記録されており、その一部を以下に示す。
※括弧内は勇者の世界での名称。
・魔石を応用した暖房器具
・ガラス張りの建物(温室)
→ 暖房と併用することで冬でも夏野菜の栽培が可能。
→ 建設費は高いが、耐久強化魔法により数百年単位で使用可能。
・魔石を利用した灯り(照明器具)
→ 各家庭・街灯として広く普及。
・「井戸」の普及を試みたが、毒物や感染症リスクのため断念。
→ 汚染が発生すれば数日で国が滅びる恐れがある。
記録に残る勇者の出身地はすべて日本。
黒髪と黒い瞳を特徴とし、必ず苗字を持つ。
召喚された者は“特別な力”を一つだけ授かり、召喚国に勝利をもたらす存在とされる。
ただし勇者は元の世界へ戻れず、過去にも帰還成功例はない。
彼らが広めた文化や行事の一部だけが、今も人々の生活に残っている。
現在、生存が確認されている勇者は約十か月前に召喚された一人のみ。
さらに異世界から来たと証言するソウジ・シラサキを加えれば、異世界人は二人となる。
以上、この国の現状および勇者召喚に関する第一次報告とする。
続報が入り次第、追って報告予定。
――報告者:セレス
「ふ~ん、過去の勇者って意外と有能じゃん。おかげで俺がやろうとしてた仕事、いくつか減ったわ。マジ助かる」
ただ――今いる“勇者”が有能なのか、それとも召喚国の操り人形なのか。
そんなことを考えていると、勢いよくドアが開いた。
「やっと見つけた!」
「なんだよ朝から……ドアは静かに開けろよ、お姫様だろ」
「元はと言えば私を一人にしたソウジ様が悪いんです! あんなことをされたら勢いよく開けたくもなります!」
……朝からミナが怒っているのには、もちろん理由がある。
昨日、俺は毛布を頭から被ってリアに抱きついて寝たはずなのに、毛布は肩までずり落ち、しかも――セリアとキスしたことまでバレていたのだ。
おかげで目覚めた瞬間から修羅場モード。
『おはようございます、ソウジ様。早速ですが――私より先にセリアさんとキスをしたって、どういうことですか?』
『……ティア、お前が言ったな』
『お主が先に告白してきた女子を放って別の女子に手を出したのが悪かろうに。わらわのせいにするでない』
『お前が黙ってれば、もっといい目覚めを迎えられたんだよ』
『折角リアーヌに抱きついて気持ちよく寝ていたのに、起きたらいきなり修羅場だものね』
……そもそもの原因はセリア、お前だ。
『そういえば俺、リアに抱きついたまま寝たけど大丈夫だったか?』
『はい。お昼ご飯はティア様とこちらでいただきましたし、特に問題はありませんでしたよ』
『まあ、二人がリビングに来なかったのを不思議に思ったミナが毛布をずらしたんだけどね』
『そしたらソウジ様がリアーヌに抱きついて寝てるじゃないですか! というか、なんでまだリアーヌに抱きついてるんですか⁉ 抱きつくなら次は私にしてくださいよ!』
『ん~~、動くの面倒くさい……』
『どうやらこやつにハーレムは向いておらんようじゃな。これはお主達が積極的に動かねばならんパターンじゃな』
……出来るだけ平等に接しようとは思うけど、寝起きにこれはキツい。
いや、寝起きじゃなくてもキツいけど。
その証拠に――昨日セリアとはキスしたが、ミナとリアにはまだだし、正直バレなきゃ黙ってるつもりだった。
『んぅ~~ん、もうやだ……。三人とも好きだけどやだ。もう、あっちもこっちも分かんない!』
ハーレムは男の夢だとか言ったやつ、今すぐ出てこい。
コントロールできるのは歌舞伎町No.1ホストか、浮気の達人くらいだ。
……そんなやり取りがアリス達の帰宅まで続き、結局最後はミナとリアにもキスすることで収束した。
だがその夜――。
『ちゃんと私達にもキスしてくれたのは嬉しいですけど……なんで私だけ“ぎゅ~”されてないんですか?』
……なにそれ。普通の抱きしめじゃダメなの? 三人の中では“ぎゅ~”で統一されてんの?
『なんでって……タイミングとか、雰囲気的に?』
『しかもリアーヌに関しては、ほぼ一緒に寝たようなものじゃないですか! ズルいです! 今日はソウジ様のベッドで一緒に寝ます! “ぎゅ~”されながら寝ます!』
『いや寝てたのは俺だけだから“一緒”じゃないし。あとミナは王女なんだから軽々しく男と一緒に寝るな。リアも黙ってないで止めろ』
……幸いアリス達やセリアはもう寝ていたが、あの五人が起きていたら確実に大惨事だった。
『そうは言いましても、ご主人様は既に王女様とキスされてますし、今さら手を出したところで変わりはないのでは?』
『いやいやいや! まだ引き返せるだろ! キスだけならセーフだろ! 責任問題とか発生しないだろ! 正直、まだミナの親に挨拶なんて行きたくないんだよ‼』
本音を言えば、一生行きたくない。
だって相手の父親に「お前なんかに娘はやらん!」とか言われたら、俺は素直に「じゃあいいです」って帰る。
しかも相手は現国王。……無理ゲーだろ。
『ソウジ様がその気なら……その、いい……です、よ♡』
『良かったのうソウジ、今日でお主も童○卒業じゃぞ。当分は婚約に止めたいのであれば、避妊魔法をちゃんと使うんじゃぞ。どうせお主のことじゃから普通に使えるじゃろ』
『うるせぇ余計なお世話だ! 俺は絶対に手を出さないからな! 両親への挨拶が済んでないのに王女に手を出すとか自殺行為だろ!』
『ではソウジ様が私の両親と会って、婚約を認めてもらえればいいのですか?』
『う~ん? そういうことになるのか?』
『ご主人様のご両親はともかく、マリノ王国側がお認めになれば、それはもう半ば強制のようなものです。……いい、というより、そうならざるを得ないでしょうね。
もっともご主人様の場合は特殊な立場ですので、お嬢様に子供ができるまでは婚約、もし子供ができれば結婚――そういう形になるかと』
……絶対気をつけよう。
俺、まだ学生だし。この状況でそれはリスクが高すぎる。
少なくともあと数年は様子見だ。
『おやすみ、ミナ……。俺のベッドで寝るって願いの部分だけで我慢してくれ』
『えっ? あれ……なんだか急に眠――』
『まさか魔法で無理やり寝かせるとは……。明日なにを言われてもわらわは知らんぞ』
『しょうがないだろ、ミナは立場が立場なんだから。これがリアだったら押し切られてた可能性もあるが、ミナはダメだろ。……よっこら――いや、女の子にこの言葉は禁句だったな』
初めて“お姫様抱っこ”なんてしたけど……これ、ヤバい。
昨日セリアを抱き寄せた時にも思ったが、相手の体が自分に密着すると、ふわりと甘い匂いがして胸がざわつく。
しかも女の子の体って、本当に柔らかい。触れた場所すべてが安心感と危険信号を同時に叩きつけてくる感じで……正直マズい。
相手が自分を好きでもなんでもないなら冷静でいられる。
だが今、腕の中にいるのは――さっき自分から誘ってきた子だ。
昨日のセリアは真面目な話があったから理性を保てたけど、今日は違う。
明らかに誘われてる分だけ、抑えるハードルが桁違いに高い。
『つまり、私なら構わない……ということですか? ですがお嬢様より先というのは気が引けますし……う~ん、悩みますね』
『別に今日は誰にも手を出す気はないから悩む必要ない。ティア、ドア開けてくれ。……あと今日は自由にしていいぞ、リア』
流石に「リアも俺のベッドで寝ていいぞ」なんて自意識過剰なことは言えない。
そう伝えて俺は、自分の部屋へと入った。




