第29話:リアーヌの飴と鞭、そして勇者召喚の真実
「なぜご主人様は頭を抱えて、うずくまっておられるのでしょうか?」
「いきなり大声を出したから、二日酔いの頭に響いただけじゃろ」
……頭痛くて反論する気にもならねぇ。クソ、誰のせいだと思ってんだ。
「なるほど。ご主人様、恐れ入りますが一度お体を起こしていただけますか」
言われるままに体を起こすと、リアが俺の隣に腰を下ろしてきた。
「なにこれ、イジメ? “いつまで寝てるんですか”ってこと?」
「違います。ご主人様が“お昼は食べない”と仰ったので、無理やりにでも食べさせるためです。胃を空にしたままは良くありません」
「いや今は食いたくないんだよ。この世界にお粥とか無さそうだし。あってもパン粥とかでしょ? 俺パン嫌いなんだけど」
「そう仰ると思って果物を用意しました。はい、あ~んしてください」
……さっきまで怒ってたリアが、今度は妙に優しいんだけど。
「どうですか? 一般的な果物しか持ってきていないので、大丈夫かと」
……見た目も味もリンゴ。昨日の野菜も地球のと似てたし、食材はあんまり変わらないらしい。
「普通に美味い」
「それは良かったです。では次はこちらを。……はい、あ~ん」
「で、お主はどこに住んでおったんじゃ? やはり日本か?」
……イチゴもうまいな。てか、その話まだ続けるのか。
「……今昼食ってんだから邪魔するな」
「さっきまで“食わない”と言っておったのに。リアーヌも上手いことやりおる」
「ティア様~、それ以上余計なことは仰らなくて結構ですからね~」
「分かった、分かった。それで、どうなんじゃ?」
「あ~ん……これは知らんけど美味いな。……しつこいから言っとくけど、俺は日本人だ」
チッ、まだリアにすら黙ってたのに。
「そのことでしたか……。ですが日本人といえば黒髪に黒い瞳が特徴ですよね。今のご主人様とは全然違いますが。……あ~ん」
「そうじゃな。わらわも勇者召喚された者を何人か見たが、全員黒髪に黒い瞳じゃった。それに白髪でオッドアイなど、この世界でも珍しいぞ」
「元は黒髪と黒目だったんだよ。馬鹿のせいでこうなっただけだ」
……勇者、けっこう安売りされてんな。しかも全員日本人っぽいし。俺が異世界人って分かっても驚かれないわけだ。
「ですがご主人様の場合、勇者召喚には当てはまらないことが多いですよね。……はい、あ~ん」
「あ~ん……。ちなみにな、その特徴って具体的に?」
「まず勇者召喚には膨大な魔力が必要で、おおよそ百年に一度しか行えぬらしいのう。それに呼び出された者は必ず特別な力を一つだけ持って現れるとも言われておる。……リアーヌよ、わらわにも一口くれてたもう」
「さらに勇者召喚された方は二度と元の世界に帰れません。過去に帰る方法を探された勇者様もおられましたが、結局最後まで見つからず、この世界で亡くなられた記録もいくつかあります。……あと、これはご主人様の分ですから駄目です。ティア様はお昼まで我慢してください。はい、あ~ん」
――なるほどな。好きな時にこっちの世界と地球を行き来できる俺は、やっぱり異質ってわけか。
元の世界に帰れない理由……仮説は一つあるが、今は胸の内にしまっておこう。
「つまり、俺がいつでも元の世界に戻れるってバレたらマズいってことか。まあ一応、この城の連中にしか教えてないし、口止めもしてるから大丈夫だろ」
「そうですね。昨日もご主人様が服を買って戻られた際、お嬢様が“転移魔法で珍しい店に行った”と説明してごまかしておられましたし。……はい、これで最後です。あ~ん♪」
「まあ、それが露見すれば大ごとじゃろうな。普通の者なら、一国の王女や専属メイドにそんな秘密を明かすなど有り得んぞ」
「そこがご主人様の良いところであり、悪いところでもありますね」
「一応保険は掛けてたけど……危ない橋だったのは分かってる。次からはちゃんとリア達と相談するさ。……ふあぁ~」
「ふふ。もう少し詳しく伺いたかったのですが……眠くなってしまったようですね」
そもそも昨夜は遅くまで飲んで寝不足だし、今日はリアと話したり怒鳴ったり宥めたり説教されたりでヘトヘト。
おまけに、さっきまで冷たかったリアが急に優しくなったせいか……なんかもう、ちょっと甘えたくなってきた。
「ん? あらあら、今日のご主人様は甘えん坊さんですねぇ」
「お主、毛布を頭から被ってどうしたのじゃ? 別にリアーヌの膝枕など、今さら恥ずかしがることでもあるまいに」
「ふふ、このままお休みになられても構いませんよ」
「う~~ん」
毛布の中で俺がやってることを説明すると――
まず膝枕をしてもらった後、左肩を下にして横になり、顔がちょうどリアのお腹の前にくる位置にセット。
そこから両腕をリアの腰に回して軽く抱きしめ、顔をお腹に埋めれば完成。
つまり今の俺は、リアに膝枕されながら抱きついてる状態だ。
実はこれ、俺の癖だったりする。今まではリア達相手に膝枕されても我慢してたんだが……今日はもう無理。
ふあぁ~……。
***
ん~~ぅ……目は覚めたけど、まだ起きたくねぇ。
もう少しだけリアの体温と匂いを感じていたい。……声が聞こえるけど、無視でいいや。
「なんか今のソウジ君って、孤児院にいた一部の子達に似てるんだよねぇ」
「孤児院と言いますと……マイカさんがいた所ですよね。具体的に、どのあたりが似ているのですか?」
「うん。少し前から院長先生と一緒に子供達の面倒を見てたんだけど……アリスちゃん達よりも年上なのに、やたら甘えてくる子が何人かいたの。ホントたまにだけどね。それも全員、決まって抱きつきたがるんだよ」
「それはただのエロガキではないのかの? マイカは良い体をしておるし」
「う~ん、それはないと思うな。だってみんな私じゃなくて院長先生に抱きついてたし。……まあ私が下の子中心で見てたのもあるかもしれないけど」
「では、その子達に何か共通点は?」
……よくぞ聞いた、リア。ちょっと俺も気になってたところだ。
「そうだな……片親の子が多かったかな。何かしら不幸があって、うちに来たって子ばかりで」
「となると、その子達は自分の親に甘えたくても甘えられなかった可能性があるわね。恐らく、特に母親に甘えられなかった反動ってところじゃないかしら。私の場合、甘えたいなんて思ったことはなかったけれど……今ならその気持ちも少し分かるわ」
……おい、ここにセリアまでいるのかよ! いつの間に仲良くなったんだ!
「セリアさんは、一体ソウジ様とどういったご関係なのでしょうか? もうご自身のことはお話しになったのですか?」
「ええ、昨日のうちに全部ね。大体は予想通りだったけれど……早くあっちに連れて行かないと、私が“全部の初めて”を貰っちゃうわよ」
「なっ……昨日どこまでしたんですか⁉ ずるいです! 私なんてまだ抱きしめてもらったことすらないのに!」
「お嬢様、お気持ちは分かりますが……ご主人様がまだ寝ておられます。お静かに」
まあ半分は起きてるんだけどな。……それとセリア、これ以上余計なこと言うなよ。
「うぅ~、リアーヌだけソウジ様に抱きしめられててズルいです。私もその膝枕、してあげたいのに……」
「ミナ、少し落ち着け。後でこやつにキスでもすればよかろう。昨日のセリアのようにな」
……おい。昨日、俺の心を覗いたとき一緒に見やがったな?
あの時セリアの話をしてたから、可能性は十分あるぞ。
そういや毛布かぶってたはずなのに……なんで俺がリアに抱きついてるのバレてんだ?
……ふあぁ~……。やべ、また眠……。
―――――。




