第28話:二日酔いの朝、お説教と“勇者召喚”の予兆
あー、吐いたらスッキリした。相変わらず吐くの下手でめっちゃ苦しかったけど。……サッサと片付けるか。魔法で。
気持ち悪さは残っていたが、少しでも楽なうちにとバケツの中身を処理。
うがいをしようとキッチンへ向かうと――
「うえ゛ーーーーん! お兄ちゃんが死んじゃうーーー!」
「ごめんなじゃいーー‼ うぢがソージ兄ぃの体を揺らじだがらーーー!」
「グスッ……サキ兄ぃ、死んじゃうです?」
「すっ、すいませんソウジ様。わたくし何か失礼を……?」
「ソウジは死んだりしないから大丈夫よ。ほら三人とも落ち着いて。それにエレナが怒られたわけじゃないのよ」
……なんだこのカオス空間。ゲロとポンコツ兵の対応で気づかなかったぞ。
「なんでみんな泣いてんの? あと、エレナ達は悪いことしてないからな?」
「ソウジがいきなり吐いたり怒鳴ったりするからでしょうが‼ もう私1人じゃ無理!」
――子供達を宥め、誤解を解き、やっと落ち着いたと思ったら次はセリアの説教。
結局うがいを終えて居間に戻れたのは40分後だった。内訳は、子供宥め15分、セリア説教25分。
「セリアの説教で頭痛悪化したぞ。二日酔い相手に大声はやめろよな」
「ほっほっほ。ですがお嬢様があのように取り乱されるとは……私も初めて見ました。それだけ今の生活が楽しいのでしょうね」
「それに遡れば、あの子たちを心配させるような振る舞いをしたご主人様に非があります。これを機に――二度と二日酔いになるまで飲まないでください」
……はいはい。ソファーに倒れよ。
「それより。うちの警備兵トップってアベルでいいのか?」
「今のところはそうですね。やはり先ほどの件ですか?」
「ああ。今回は指示を仰ぎに来ただけマシだが、本音を言えば自分達でなんとかして欲しかった。……セレスさんも、わざと動かなかったみたいだし」
セレスさんの他に警備兵にもトランシーバーは渡してある。
俺が怒鳴って動かない時点で、代わりに指示を出すことも出来たはず。だがこの人はしなかった。
「被害女性には申し訳ありませんが、私も気になりましたので……勝手なことをしてしまい申し訳ございません」
「いや、今回は感謝してます。……後でアベルに被害者対応マニュアルでも作らせるか」
「ところで、被害女性を病院に送ったのはよろしいですが、この国の病院はどうなっているのですか?」
「ん~? どうって、この国に病院は一つしかなかったからさ。昨日ついでに見に行って、一番偉い人に挨拶して……ついでに建物ごと新しくしてきた。だから今やこの世界一の病院って言ってもいいんじゃないか? なんたって医療設備は地球でもトップレベルだからな」
――なんで俺の管轄外である病院を新しくしたかって? それは病院だからだ。以上!
「ちなみに病院関係者は信用できるのですか?」
「それは私から。元は王族や貴族も利用するほどの場所。腕は確かですし、お金のない者には無償で治療も施しておられました。信頼は厚いですよ。ただし人数に限界がありましたが……」
「それに、新しく作った病院の確認と――挨拶という名の面接は、ミナに任せてある。だから大丈夫だろ」
……ただ、昨日の夜その話を廊下で伝えたら――『なに一人で勝手なことしてるんですか‼ 危ないでしょ!』って、めっちゃ怒られたけどな。
「……どうせお嬢様にも叱られたのでしょうから今回は何も言いません。が! 警備室の“監視システム”とは?」
「あー、そういえば警備兵以外にはまだ誰にも言ってなかったな。あれは昨日作ったシステムでさ。街のあちこちに“監視の目”みたいなやつを設置して、その目が映してる場所を警備室でモニター確認できるようにしてあるんだ。犯罪が起こりそうになったら自動でその場所が映って、魔法でその現場近くに即転移できるようにもしてある」
さらに死角なし・透明化&防御魔法付き・24時間録画。証拠映像? 一瞬で出せます。
「はぁ……それくらいならまだいいですけど、あんまりやり過ぎないでくださいね。ご主人様が注目されすぎると、また余計な心配をすることになりますから」
「はーい」
***
それからしばらくして、エメさんが部屋へ戻ってきた。
「これからお昼を作りますが、旦那様はどうなさいますか?」
「うーん、頭痛いんでいらないです。夜はお願いします」
「かしこまりました」
……吐き切ったら腹減った。でも頭痛いから動きたくない。
そんなことを思っていたらティアが帰宅。リアの隣に腰を下ろす。
「なんじゃ、まだ寝ておったのか?」
「おかげさまで、“絶不調”から“ただの不調”くらいには回復したよ」
「ティア様、少しの間、ご主人様をお任せしてもよろしいでしょうか?」
「おお、よいぞ。むしろ午前は面倒を押し付けてすまんのう」
「いえ、これも仕事ですから」
そう言ってリアはキッチンへ。
「リアーヌの看病、どうじゃった? 優しくしてもらえたかの?」
「逆だ逆。めちゃくちゃ怒ってたし、いつものリアじゃなくてマジで怖かったわ」
「あはははは、それは気の毒じゃな。じゃが今回はお主の自業自得じゃろ? 素直に反省せい」
「つーかなんでお前だけ全然酔ってなかったんだよ。酒、強すぎだろ」
こいつ、一番飲んでたくせにまったく酔ってる様子がなかったんだよな。
「わらわは吸血鬼じゃぞ。あれくらいの酒で酔うわけなかろう」
「へぇ~、やっぱ吸血鬼って人間と違うんだな。他には? 太陽の光に弱いとか、十字架が苦手とか?」
「何を言っておる。吸血鬼はほとんど人間と変わらぬ。ただ血を吸えば食事なしでも生きられるくらいじゃ」
「……つまんな」
「いや、わらわにそう言われても困るのじゃが……だいたい太陽の光が苦手じゃったら、外になど出ておらんわ」
「ごもっともで。……そういえばお前、訓練場で何してたんだ?」
別にリアと一緒にいた時間が悪かったとは言わないが、今日のリアは本気で怖かった。
理由が大したことなければ、ニンニク料理をぶち込んでやる。効くかは知らんけど。
「最初はアベル、その後は騎士団の実力を見ておった。いざという時に役に立たんのでは困るからのう。それに最近、怪しい噂も流れておるし……」
「で、実力はどうだった? ……あと“怪しい噂”のほうはいい。聞きたくないから」
「アベルは駄目、他はもっと駄目。よって全員明日から鍛え直しじゃ」
「そこまで酷いのか? まあ俺よりは強いんだろうけど」
「当たり前じゃ。お主はただ力を持っておるだけで技術力はゼロじゃからのう」
いやお前、俺が戦ってるとこなんて一度も見たことないだろ。……まあ当たってるけど。
「その力だけで一回、空飛ぶドラゴン倒したんだ。少しは褒めろ」
「それは褒めるというより呆れじゃな。お主、一体どれほどの力を持っておるんじゃ? ……勇者召喚ではなさそうじゃが」
なにサラッと勇者召喚とか言ってんだよ。これでさっきの“怪しい噂”に繋がったら最悪じゃねぇか。……聞かなかったことにしよう。
「ティアだから言うが――俺は、魔力が尽きない限りたぶん全部の魔法が使える。ミナ達の話じゃ、俺はまだ魔力の調節が下手なだけで、本当なら昨日も倒れずに余裕だったらしい。……あと、この力は俺の世界の神から貰った。勇者召喚とは無関係だ。だからこれ以上その話はするな」
「もしや……お主が住んでおった国は、“日本”という国かの?」
「それ以上勇者の話をするな‼ ――――ッ⁉」
……あっ、頭がああああああーーー‼




