第27話:二日酔いの朝に響いた一報
………んっ、んんー……?
頭痛い、気持ち悪い。今ちょっとでも動いたら吐きそうだ。
てか、人が寝てるのにやたら明るい。誰だよ、カーテン開けたの。
……ああ、そういや昨日は居間で寝たんだった。
悪いのは自分だから文句は言えねぇな。そろそろ目だけでも開けるか。
「おはようございます、ご主人様。昨夜はアベルとティア様と三人で、随分盛り上がっていたようで」
「………その二人は今どこだ?」
「アベルは騎士団の仕事へ。ティア様は“こやつのことはリアーヌに任せる”と言い残して訓練場へ向かわれました」
ちょっ……今何時だ? ……って、もう朝の10時!?
「リアは、どこまで知ってんの?」
「そうですね~。三人で日付をまたいで飲み続け、挙句ご主人様が気持ち悪くなって酔った勢いでヒーリング・フィールドを使用。
その光が空に浮かび上がり、危うく街が騒ぎになるところだった――と、その程度です」
「それ、ぜんぶ知ってるってことじゃねーか‼ うっ……」
なぜ俺だけ二日酔いかというと……数時間前のこと。
気持ち悪くなった俺とアベルは『ヒーリング・フィールドで治そうぜ』となり、
唯一使える俺が勢いで発動したら――案の定バカでかい光が空を照らした。
で、なぜかアベルは完全回復。俺だけ効果なし。
ティア曰く『何らかの理由で自分自身にはヒールが効かんのじゃろう』らしい。……原因、ひとつしか思いつかんわ。
「リア、向かいのソファで見てるだけじゃなく、ちょっと助けてくんね?」
「今回は飲みすぎたご主人様が悪いので、絶対に嫌です。
朝まで寝かせておいたことを感謝してください。それから、戻すときはそこのバケツかお手洗いでお願いします」
あっ……駄目だ。完全に怒ってるやつだ。
今日は大人しく寝とくしかねぇな。
「はい……すみませんでした。……他のみんなは?」
「お嬢様とマイカ様はご依頼された仕事を。セレス様は自室で昨日の続き。
エメ先輩と子供達はお掃除を。……なのに、一番お偉い方が二日酔いで寝ているとは。正直どうかと思います」
「いやでも、俺のやる仕事は今んとこ無いし……結果変わってないってことで許して?」
ちなみに昨日頼んだ仕事は――
ミナ&マイカには、俺が集めた金の計算と配分案の仮決定。
セレスさんには、この国の現状報告書の作成。
一応PCや紙幣カウンター、それに操作知識は渡してあるから慣れれば早いはず……多分。
「そういうわけにはいきません。上に立つ者の姿勢は部下の士気に直結いたします。
幸い今回、城のみなさんの反応は“心配”“可愛がる”“微笑ましい”“面白がる”の四パターンに分かれましたから事なきを得ましたが」
めっちゃ良い人たちばっかじゃねーか。
……“面白がってた”のは間違いなくアベルとティアだな。
「ちなみにリアはどれだ?」
「私は……呆れ、ですね」
「そんな選択肢、なかったよね!? うっ……」
***
さっき大声を出したせいで自爆しかけたことを反省し、しばらく大人しくしていると――。
「あっ、お兄ちゃんが起きてます!」
「サキ兄ぃ、もう元気です?」
「うちも、うちもソージ兄ぃの顔見たいです!」
きみたち~、お願いだから俺の周りで走らないで。
大声出さないで。頭に響くし吐きそうなんだって。
「あら? もうお掃除は終わったのですか?」
「はい。今は先生のチェック待ちです。……ソウジ様、おはようございます」
ああ、“先生”ってエメさんのことか。
「おはよ。掃除ありがとな」
「いえ、これも仕事ですから。それにソウジ様のおかげで楽になりましたので、感謝するのはこちらです」
「でもエメが“旦那様は魔法で掃除場所を奪い、便利な道具で楽させすぎです!”って怒ってたけど」
そんなにか?
メイドの仕事を合計しても、まだ大変そうだと思ってたけど……。
これ以上、掃除場所を減らすのはやめておこう。
「ねえねえ、ソージ兄ぃ〜、うち動いたら喉乾いた〜。何か飲み物〜、昨日のジュース〜」
「や、やめろサラ。今俺の体を……うっ、揺らすな。マジで、はぁはぁ、吐くから……」
「こらこら、ダメよサラ。今ソウジは具合が悪いんだから」
よくやった、セリア。
さっきから俺の向かいで黙ってこの様子を見ている鬼畜メイドとは大違いだ。
「今、失礼なことを考えませんでしたか? ご主人様」
「はぁはぁ……とんでも、うっ……ない。ふぅ——。それと、飲み物は冷蔵庫に麦茶が入っているから、好きに飲んでいいぞ」
ああ、危なかった。今回は深呼吸でしのげたが、次はないな。
そこへセレスさんが入ってきて――。
「お休みのところ申し訳ございません、旦那様。警備兵の者から緊急の報告があるとのことですが、いかがなさいますか?」
……さっきリアに説教された直後にこれを言われると、嫌味にしか聞こえない。
まあ実際は俺の性格が歪んでるだけなんだろうけど。――話が話だ、取りあえず起き上がるか。
「その兵は?」
「城門で待たせています」
「じゃあ、ここに連れてきてください」
「かしこまりました」
セレスさんは一礼し、渡しておいたトランシーバーで指示を飛ばす。
……使いこなすの早すぎ。これスマホ渡したら“ハイテクじいちゃん”になるぞ。早めに渡そ。
「ご主人様、身支度を整えますので動かないでください」
「ついでにこの体調も整えて?」
「それは嫌です」
はい、却下。
***
それから少しして、セレスさんが俺の様子を確認するために、まず1人で部屋に入ってきた。
「旦那様、警備の者をお連れしましたが……ご体調は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「見た目はリアーヌのおかげでしっかりしていても、二日酔いで具合が悪そうな顔は変わらないわね」
「うるせえ。座ってるだけでも結構キツいんだよ。それと、しばらくアリス達のこと見ててくれ」
そんなやり取りをしていると、セレスさんがふっと嬉しそうな表情を浮かべ――すぐに真顔へ戻す。
「どうぞ、お入りください」
「はっ、失礼いたします。私は街の警備を担当している――」
「それで、報告は?」
「はっ。陛下の監視システムが反応。現場を確認したところ、女性を無理やり襲おうとした男を発見し即座に確保しました」
「犯人と被害者は?」
「犯人は牢に。被害女性は一時的にこちらで保護していますが……どういたしましょう?」
「馬鹿かお前は‼ 今すぐ病院に連れてけ! 早くしろ‼ ……おえぇ……はぁはぁ……」
「えっ、これは陛下を病院に――?」
なわけねえだろ! 漫才しに来たのか!?
「ご主人様は元気ですので病院に行く必要はありません。ご安心を」
「でも泣きながら吐いてますよ!?」
「はぁはぁ……いいから早く被害女性を病院に……おぇっ……連れて……」
「いいから早く被害女性を病院まで連れて行きなさい‼」
「はっ、はい‼ 至急被害女性を病院へお連れします!」
「ちょっと待て……連れてくのは女性警備兵だけにしろ……っおえぇ……」
確か、街の情報収集を専門にしている女性警備兵が何人かいたはずだ。
ミナの話では、普段は通常の警備をこなしつつ、気になることがあれば変装して潜入調査を行う――
いわばスパイのような役割も担っているらしい。しかも全員が相当な凄腕だと、ミナが太鼓判を押していた。
「りょっ、了解しました‼」




