第2話:チート因子、強制インストール
この女の話が本当かどうかは分からない。
だが、神様の裏事情みたいなネタが妙に面白くて、つい聞き入ってしまっていた。
さて――そろそろ本題に戻るか。
「よし。なんで雷神じゃなくてアンタが来たのかは分かった。それで……なんの話だっけ?」
「ちょっと! 一番大事なところ忘れてるんじゃないの!?」
「えーと……マジで思い出せん」
「はぁ……もういいわ。そういうのは大抵あとから思い出すものよ」
「悪い悪い。それで、何の話だった?」
「アンタの願いを叶えるって話よ!」
「あー、そうだったな」
怪しさMAXだが、ひとまず話を合わせるしかない。
「じゃあ俺の願いを叶えるってことは、チート能力をくれて異世界で王様にでもしてくれるのか?」
「当たり前じゃない! そのために来たんだから!」
……どうする? このまま信じていいのか? 宗教勧誘の線も捨てきれんぞ。
「ということで、まずはチート能力を授けるわね」
「えっ、ちょっ待て! 何をする気だ!」
女――自称・天照は俺の抗議を無視し、掌に虹色の光を集め始めた。
「お、おい! なんだよその玉! どうする気だ!」
「決まってるじゃない。アンタの体に入れるのよ。動かないで」
「はああ!? お前、ショ○カーかよ! 改○人間にでもする気か!」
「……もしかして仮○ライダーになりたかったの? でもベルトは用意してないから無理ね。チート能力だけで我慢しなさい」
「そういう意味じゃねーよ! うわ、近づけんな!」
必死の抵抗もむなしく、虹色の玉は俺の胸に吸い込まれ――
「ぎゃああああ!! マジで体に入れやがった!」
「はい、おしまい。……さっきからうるさいわね。説明するから落ち着きなさい」
「落ち着けるか! 何したか早く言え!」
「だから落ち落ち着きなさいって!」
「無理に決まってんだろ!」
俺が叫び続けていると、自称・天照は再び掌を向け――今度は白い光が体を包んだ。
「……あれ? なんか落ち着く。これ、何した?」
「気持ちを鎮める神力よ」
さっきの虹色玉に、この光。……もう認めるしかないのかもしれん。
「はぁ……で、さっきの玉はなんなんだ?」
「あれはチート能力を授ける作業。簡単に言えば、“チート持ちになれる素”みたいなものね」
「ってことは、俺はラノベ主人公並みに最強ってことでいいのか?」
「何言ってんの。私は天照大神よ? 主人公補正なんかとは比べ物にならないチートに決まってるでしょ」
「マジかよ……なんでもアリなんだな?」
「ありあり、なんでもありよ」
「よっしゃあああ!! 最高だ!」
やっぱ神頼みってしとくもんだな。
「じゃ、説明を続けてもいい?」
「ああ! 早く!」
「なんか急に乗り気になったわね」
「いいから!」
今の俺はプレゼントをもらったのに「まだ開けるな」と言われている子供だ。待てるわけがない。
「……まあいいわ。それじゃ“基本”からいくわよ」
* * *
「この異世界の魔法には属性がある。火・水・風・光・闇・無――六属性ね」
「六……多いな」
「普通は一人一属性。ごく稀に四属性持ちがいる」
「へえ。じゃあ俺は?」
「……全属性持ち」
「は?」
「しかも魔力量は生まれつき決まってて有限。でもアンタは規格外に多い」
「待て待て、最初から盛りすぎだろ」
「次。魔法は本来、自分の属性しか使えない」
「ふむ」
「魔法はスポーツと同じ。練習必須。難しいほど、習得できない人も多い」
「現実的だな」
「でもアンタの場合――“イメージするだけ”で、どんな魔法でも使える」
「……マジでチートだな」
* * *
「……とまあ、ざっとこんなところね」
「俺がチートだってことは分かったけど、注意点は?」
「あるわよ。一つ、人の記憶はよっぽどの理由がない限り書き換えないこと。
二つ目は――絶対に蘇生魔法を使わないこと。これは神ですら禁じられてる」
「でも蘇生魔法はあるんだな?」
「あるわ。今のアンタなら簡単に使える。
でもね――死者は絶対に元には戻らない。ただ醜い化け物が生まれるだけ」
「なるほどな。まあ、こんだけのチート能力を持ってるんだから俺には関係ない話だな。蘇生魔法なんか一生使わねえよ」
「…………」
天照は何か小さくつぶやいたが、声が小さすぎて聞き取れなかった。




