第26話:二次会は嵐の予感――酒と孤児院と反抗期
「まずこれがビールで、こっちがチューハイ。俺は好きじゃないけど、これがウイスキーな。ワインはよく分からんから買ってない。好きなの選んで飲んでくれ」
「いや、全部知らない酒なんだけど……。説明くらいしろよ」
それもそうだ。チューハイはまだ説明できるけど、ビールとウイスキーってどう言えばいいんだ?
……俺も詳しく知らねえぞ。
「え~と、簡単に言うとビールは麦で作った酒、チューハイは果実酒っぽいやつ。それとウイスキーは穀物をゴチャゴチャして作ったアルコールがめっちゃ強い酒。これで分かったか?」
「いや、全然分からん」
「めんどくせーな。もう飲んでみろよ。ティアなんか説明聞かずに飲んでるし」
こいつ、俺がスマホで調べてる間にビール一本を一気飲みしやがった。
将来アル中で倒れそうで怖い。
「ぷは~~! このビールというのは苦みがあって独特な味じゃが、わらわは好きじゃな。喉を通る時の感じが堪らん!」
「見た目は12歳の幼女なのに、中身は完全にジジイだなお前」
「なんじゃと⁉ 誰がジジイじゃ! 百歩譲ってババアじゃろ!」
「悪い悪い。ほら、次はチューハイでも飲んでろ」
完全に俺が悪いけど、ちょっとうるさかったからストロング系チューハイを渡したのは内緒だ。
あれ一本で潰れる人もいるくらい強いんだよな……。
「ほらアベルも飲め。とりあえずビールからいってみ」
「おっ、おう……。――――もう一本‼」
……アル中候補がまた一人増えましたが、俺は一切悪くありません。
悪いのは自分を制御できないこの二人です。
「おいお前ら、一気飲みはやめろよ。最初は酔わなくても後から効いて、最悪死ぬからな! ……よし、俺は注意したからな! リアに怒られても俺のせいにするなよ!」
「何を訳の分からんことを……。それより何かつまみはないのかの? 酒だけじゃ物足りんぞ」
「お前さっきカレー二杯食っただろ……。まあいい、ちょっと待ってろ」
キッチンに行き、スーパーで買ったポテトサラダを皿に盛り、その上に砕いたコンソメポテチを散らし、タバスコをかけた即席つまみを作ってティアに渡す。
「んっ⁉ 美味い! もしやお主は料理を作る天才なのかの?」
「こんなもん誰でも作れるわ! さっきのカレーだってリアやエメさんが作った方が美味いだろ。俺は簡単な料理しかできないから、別の地球料理が食べたかったらあの二人に頼め。……ほらアベル、お前はこれでも食え」
「なんだこれ?」
「つまみに使ったポテチの残り。元は普通のお菓子だし、酒にも合うぞ」
パーティーサイズだから今日はこれ以上は出さない。
夜飯後に三人で食べるには多すぎるしな。
「なあ、ちょっと気になってたんだけどさ。アリス達って年齢の割に少し幼い感じがしないか?」
「そういえばお主には、あの者達が孤児院出身だと伝えていなかったのう。まあそれが原因かどうかは分からんが……。ちなみにこのテキーラ、香りはいいがアルコールが強いのう。だが癖になる」
「いや多分それも原因だな。俺らが調査した時も、孤児院にはほとんど金が回ってなかった。職員も足りてないし、食べ物も不足気味。むしろあそこまで健康に育ったのは奇跡だ」
つまり職員が少なければ子供一人ひとりに割ける時間は減る。
一般家庭より心の成長が遅くなるのも自然な話だ。
「で、孤児院は今どうなってる?」
「まだあるぞ。坊主がいない間に孤児院組と一緒にティアを連れて行ってきたし」
「なぜわらわが小童に連れて行ってもろうたことになっておるんじゃ!」
「あははは! 小童だってよアベル! ……ぶっははは、酔ってるから余計面白え!」
「小童はやめろティア!」
「わらわから見れば250歳など小童じゃろう。半獣人は人間に換算すれば25歳くらいじゃしな」
いつもアベルに「坊主」って呼ばれてる俺としてはスカッとする。
「じゃあなんで坊主のことは名前で呼んでるんだよ。こいつもお前から見たら子供だろ」
「わらわは立場をわきまえておるからのう。主を坊主呼ばわりする小童とは違う」
「なにが立場をわきまえておるだ。初っ端から俺にタメ口だったろ」
「なんじゃ、わらわに敬語を使って欲しかったのかの? 仕方ないのう。――これは大変失礼致しましたご主人様。今後は気を付けますので、どうかお許しくださいませ」
「ぶっふーー‼ 誰だお前! 気持ち悪いからすぐ戻せ!」
「ふう……やはり慣れん喋り方は疲れるのう」
「だったらもうやめろ。で、孤児院の続きは?」
「院長が坊主に直接お礼を言いたいそうだ。暇な時に行ってやれ」
「そうか。助けたのはティアだけど、この国の孤児院がどうなってるかは見ておきたいし……近いうちに行くか」
「それが良かろう。わらわが知る限り、この国に孤児院はあそこ一ヶ所だけじゃ。しかも職員が定期的に見回りをして、孤児を見つければ全員連れて帰っているらしい。だからこそ、職員不足といった問題も出てくるじゃろう」
「だから孤児を探しても見つからなかったのか……」
――俺もミナが面接をしている間、手をこまねいていたわけじゃない。できることは全部やっていた。
「問題といえば孤児院もそうだが、そこから引き取ったアリス達にも“反抗期”ってやつが来るかもしれねえ……。うちの姫様とリアーヌの時は、なかなか酷かったからな」
「ほう……ミナは何となく想像がつくが、リアーヌはどうだったんじゃ? あやつも確か同い年じゃろう」
「ああ、リアーヌの場合は“姫様の専属メイド”って意識が強かったから、表立った反抗期はなかった。ただ、思春期はちゃんとあったな。けどその立場が邪魔して、本当は恥ずかしさとか色々あったのに、それを隠して我慢してるのが――可愛かったんだよ」
「お前性格悪いな。……でも女の子のそういう時期に男が口出すのは逆効果なのか?」
「逆効果だ。姫様なんて俺や陛下が話しかけても無視か逆ギレ。特にリアーヌは八つ当たりできるのが俺だけだったから、しんどかったぞ」
「リアーヌはアベルに感謝すべきじゃな。そういう時期に八つ当たりできる相手がいない子は珍しくない」
「反抗期って突然誰かに当たりたくなるんだよな。……思春期は女性陣に任せるとして、アリス達の反抗期はどうするか」
「やはり適任はアベルじゃろう」
「やっぱそうか。さっきも父親と子供みたいだったし」
「なっ、なんでこっちを見るんだよ。俺は絶対ゴメンだぞ! また無視されたり、『うるせぇジジイ!』とか『気持ち悪いから近づかないでください!』とか言われるのは……分かってても結構堪えるんだからな」
――今ので、ミナとリアーヌの当時の様子が鮮明に想像できた。
「まあまあ、仕事だと思って耐えろ」
「酷い日があっても、わらわ達が今日みたいに付き合ってやるからな」
「勝手に決めるな! 二人でもキツかったのに、今度は五人とか無理だって!」
……反抗期ってほんと厄介だな。
俺も母親に『箸出して』って言われただけでキレた記憶あるし。
ドア蹴って壊したこともあったな。今思えばただのヤベー奴だ。
「なあ……今調べてたんだけど、アリス達が反抗期になったら、一番八つ当たりされるのって……アベルじゃなくてエメさんなんじゃないか?」
「「………確かに‼」」
――二次会の笑い声は、夜が更けても止まらなかった。




