第24話:ティアの告白と、俺の中の“恐怖”
アベルを見送った俺はリビングに戻り、全員分のカレーをよそい終えた。
「飲み物は好きなのを取ってくれ。ただし子供はジュースだけな。――じゃ、いただきます」
「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」
不思議なことに、昨日のミナ達と同じようにティア達も自然に挨拶をしてから食事を始めた。
「ティアは見た目は子供でも中身はババアだから酒はいいとして……十七歳って飲んでいいのか?」
「誰がババアじゃ‼」
「そんなことを言いながら普通に果実酒に手を伸ばすのはどうかと思うけど……。この世界では綺麗な水は貴重だから、普段からワインとかを飲むのが普通なんだよ。だから年齢制限とかはないんだ」
「はあっ、嘘だろ⁉ いや、水が貴重なのは分かるけど、普段からワインなんか飲んでたら毎日二日酔いだろ」
「まあ、貴族が飲むようなワインならそうじゃろうが、庶民が飲むワインは二搾り、三搾りのもので度数はせいぜい一〜二度くらい。そんなものジュースと変わらんじゃろ?」
言われてみればアルコール度数三%の“ほ○よい”ですらジュースみたいなもんだ。
一〜二%のワインなら完全にジュースだな。よっぽど酒が弱い人じゃない限り、酔う方が難しいだろ。
「でも、どこでもブドウが採れるわけじゃないよな。そういう地域ではどうしてるんだ?」
「その答えは、今ソウジ君が飲んでるものじゃん」
「ん? ……ああ、そうか。別にワインじゃなく果実酒でもいいのか。ブドウがなくても他の果物は採れるもんな」
「そういうことじゃ。ついでに言うと、ご飯が食べられる店のほとんどは酒場。逆にそうじゃない店は高級店といってもいいほどじゃな」
「でも酒場だからって食べ物がないわけじゃないよ。パスタもスープもあるし、お昼ご飯を食べに行ったりする人も多いんだ」
へぇ……仕事サボりたい時にでも行こうかな。
「それで? お主はわらわ達に何を聞きたいんじゃ?」
「……このカレーライス、美味いな。マイカは甘口だっけ?」
「あ、うん、そうだけれど……。これ作ったのソウジ君だよね?」
「あからさまに話を逸らそうとするでない。あとおかわりじゃ、次は甘口がよいぞ」
「お前は話を聞きたいのか、カレーを食いたいのかどっちなんだよ」
文句を言いつつも俺は席を立ち、代わりに立とうとしたエメさんを手で制してティアの皿を持ってキッチンへ向かった。
ちなみにエメさんはミナとリアーヌさんと談笑中。
セリア達はセレスさんと仲良く食事をしている。前者は女子会、後者は完全にお爺ちゃんと孫だな。
「ほら、甘口カレー。……ってかよく考えたらお前、俺の専属メイドじゃねーか。なんで主におかわり取りに行かせてんだよ」
「どーせお主はそういうの嫌いなんじゃろ? わらわの心遣いに感謝せい」
「チッ……なんか納得いかねえ」
「ところで、ソウジ君は何を知りたいの?」
ティアが余計なことを言ったせいで、マイカまで気にしだした。
まあ、一番聞かれたくないセリア達はセレスさんと盛り上がってるし、今のうちだな。
「聞きたいことはいくつかあるが……まずはティア。お前、強いのになんで拉致られてたんだ?」
「ふむ。それはじゃな、一週間ほど前―――」
話が長かったので要点をまとめるとこうだ。
・空を飛んでいたら、アリス・サラ・エレナ・リーザ・マイカの五人が連れ去られそうになっていた。
・助けるために潜り込んだら、行き先はボハニア王国の城だった。
・そこでは上層階級の連中が女子供を監禁し、虐待していた。
・ティアは人の記憶を改変する魔法で関係者の記憶を片っ端から改ざんし、被害者を逃がしていた。
・最後に残ったのがマイカ達で、翌日逃がす予定だったが、その前に俺たちが片をつけた。
「……随分と物騒な魔法を使えるんだな」
「な〜に、結局は使い方次第よ。それにあれは魔力を食うからのう。明日にはマイカ達を逃がすつもりだったが、お主がゴミ共を一掃してくれたわけじゃ」
「で、現場を見たのはティアだけか?」
初めて会った時、子供達に怯えの色はあまりなかった。
だから気になったのだが―――。
「安心せい。子供達もマイカも見とらん。セレスとエメに協力してもらって、わらわが記憶を弄っている間はあの二人が面倒を見ておったからのう」
「そうそう。ティアさんがいない間も二人がいてくれたから怖くなかったよ。私一人じゃ絶対無理だったし、本当に助かったよ」
「……それは二人に感謝だな。で、セリアとお前の関係は? 王女のくせに、あいつもお前らと同じでボロボロの服を着てただろ」
たかだか一週間とはいえ、子供達が同じ服で汚れてるのは分かる。
でもセリアは違うはずだ。本人の話だと、かなり大事に育てられていたんだからな。
「なんじゃ、もうセリアのことは聞いたのかの」
「まあな。本人から直接」
「そうか……なら話しても構わんの。セリアは自分の親や貴族共が嫌われておることは知っておったが、一般市民を強引に連れ去ってあれこれしていたことまでは知らなんだ。わらわが教えたら、凄く驚いておったぞ」
「おい、セリアにどこまで教えて、その後どうした?」
薄々でも知っていたならまだしも、まったく知らなかった子に教えることじゃない。
「そう怖い顔をするでない。わらわに子供を虐める趣味などない。ちゃんと記憶は書き換えておいたわ」
「……戻る可能性は?」
「わらわが死なん限りは戻らん。あとは魔法の使い手本人が解除するくらいじゃが、わらわはやらんから安心せい」
「当たり前だ。少しでもそんな素振り見せてみろ。その時は俺がセリアの記憶を上書きして、その後……」
「ソウジ君? そんなに強くスプーン握ったら危ないよ」
「っ……悪い。ティアも今のは忘れてくれ」
さっき、俺はティアに向かって「その時は殺すぞ」と言いかけた。
普段は軽いノリで「殺す」なんて言葉を癖で使ってしまうが、今回は冗談ではなく、たぶん本気だった。
自分が本気でティアを殺したいと思った――その事実にぞっとした。
もし本当にそんな場面が来たら、俺はティアという一人の人間を殺せるのか。
そんな恐ろしい想像が頭をよぎり、言葉を続けられなかった。
「まったく、ソウジは子供じゃのう。今のお主に、わらわを殺すなんて絶対できん」
「なんで馬鹿にしたような口調なのに、手を握ってんだ? しかも心まで読まれてるし」
「そりゃ、わらわが心を読む魔法を使っておるからじゃ。ちなみにこの魔法は相手に触れておらんと使えんから、そうそう乱用はできんがな」
俺の周りの女たちって何なの。
嘘を見抜くお姫様、戦闘力がバカ高いメイド、ハイスペック王女、記憶改ざんに心読みまで出来る吸血鬼。
……頼む、マイカだけは普通であってくれ。
「勝手に心を覗くな……って言いたいけど、ティアならもう何でもいいや」
「なんじゃ、随分と拍子抜けな反応じゃの。普通は距離を取って怖がるものなんじゃが」
「今さら何を言ってんだ。それを言うなら記憶操作の時に言えよ。……まあ、ミナがいる時点でどうせすぐバレるって分かってたから、俺も敢えて突っ込まなかったけどな」
それに――俺の心なんか読まれたところで困ることはない。
ただ一つだけ、はっきりしたことがある。
俺はもう、自分の力を“無関係なもの”として扱えなくなった。
さて、みんな食べ終わったみたいだし。
そろそろ“二次会”といきますか。




