第22話:ロリメイドの正体は、前国王の娘でした!?
先にキッチンへ行かせた子供たちのことを思い出しつつ、俺はアベルを連れて向かった。
「よ~し、今からみんなで夜ご飯。準備頼む。皿とスプーンとコップをリビングのテーブルに並べておいてくれ」
「ねえソウジ、みんなの座る場所は決めてあるのかしら?」
「あ~、そういえば決めてなかったな。俺は少し用事があるから、ミナたちで話し合って決めていい。ただ今日だけは、俺の隣をマイカとティアにしてくれ」
「あら? ミナとリアーヌがいながら、もう他の女に手を出すの?」
「なわけないだろ。だいたい俺はまだ誰にも手なんて出してない」
マイカとティアとはまだあまり話せていない。少し交流を深めておきたい――もちろん、気になることもある。
「ふ~ん。理由があるのは分かったけど、あの子たちをどうやって納得させるのかしら?」
「お兄ちゃんの隣は私です!」
「ちがう、ソージ兄はうちの隣なの!」
「いえいえ、ソウジ様の隣には私が座ります!」
「じゃあ私はサキ兄の膝のうえ~!」
――げっ、いつの間に修羅場!? 俺は子供の喧嘩を止められるほど器用じゃないぞ!
「セリア、これ何とかしてくれない?」
「そうねぇ……私を抱きしめてくれたら考えなくもないわよ」
「ああ? さっきやっただろ」
「あれは“高いたか~い”でしょ? 今度は“ぎゅ~”ってして欲しいの」
くっそ……分かりやすい表現が余計に腹立つ。
「そんなことしたら間違いなくセリアだけじゃ済まない。却下」
「あら、それならこの話はナシね」
こいつ本当に十四歳か? どっかの貴族の娘だって言われても信じるぞ。
「……分かったよ。すればいいんだろ、すれば。アベル、悪いけどあの子たちの気を――って、おい! なんで子供たちと楽しそうにしてんだよ!?」
「気付いてなかったの? あなたが私に助けを求めた時点で、アベルはもう仲裁に入っていったわよ」
「マジか……あいつ、子供の扱い上手すぎだろ」
「そうね。どこかの陛下とは比べ物にならないほどに」
「うるせぇ。……ん? てことはアベルに任せておけば、セリアに頼まなくて済むんじゃね?」
セリアは一瞬「しまった」という顔をしたが、すぐニヤリと笑う。
「言っちゃうのね、そういうこと。いいわよ別に。どうせソウジはアベルとどこかに行くんでしょ? その時にもう一度、席決めの話を持ち出すだけだから」
「お前……アベルの苦労を水の泡にする気か?」
「他人を利用するなんて、汚い王様だこと」
あ~もう! 本当いいキャラしてるな。嫌いじゃないぞ。ロリコンじゃないけど。
「……あら? ここはどこかしら? 見たことのないデザインの部屋ね」
「俺がいきなり転移魔法を使っても驚かないとは、肝が据わってるな」
「私は魔法が得意だから。ソウジが転移を使う気配くらい、あらかじめ分かってたのよ」
なるほど、セリアはリアーヌさんと同じタイプか。気になることは多いが、今は交渉を優先する。
「よっこいしょ……。ここは和室って言って、俺の国の伝統的な部屋だ。
床に敷いてあるのが畳、白いのが障子。そして障子を横にスライドさせると――日本庭園が見える。気に入ったか?」
「ええ。良い匂いがするし、落ち着く感じがするわ。それに庭園も綺麗……ただし! 女の子を持ち上げる時に“よっこいしょ”は無いんじゃないかしら?」
「悪かった悪かった。今度から気をつけるよ。だからその……胸を……な?」
「ん~? 私の胸がどうかしたのかしら?」
こいつ、自分の体形を分かりすぎてる。身長は百二十センチほどしかないのに、胸だけはやたらと大きい――いわゆるロリ巨乳ってやつだ。
「からかうなら下ろすぞ」
「それはダメ!」
「なら少し離れろ。セリアはまだ子供とはいえ女の子なんだから、気をつけろよ」
「失礼ね。この世界では十四歳なら結婚も子作りも珍しくないのよ? それに私は“ぎゅ~”ってお願いしたじゃない。むしろ、もっと強く抱きしめて欲しいくらい」
やっぱり十四歳でもそういうことは普通にあるのか。……じゃなきゃ、あの前国王がセリアたちを城に囲うはずない。
「ほら、これでいいか? でも覚えとけ。好きじゃない男に、こんなこと絶対するな」
「ふふっ。そんなこと言いながら抱きしめてくれるなんて……自分に自信があるのかしら?」
「なんだ? お前は誰にでも胸を押し付けるような子なのか?」
「そんなわけないでしょ。私が抱き着く男は、これまでも……そしてこれからもソウジだけよ」
絶対、何かある。この子。
本来ならここで深入りせず流すのが正解だろうが――どうせ面接の時点で、ミナが事情を全部聞き出しているはずだ。なら今は少し探ってみるか。
「『これまでも』は盛りすぎだろ。普通は父親に抱っこされたりするだろ」
「ないわよ。少なくとも、私の記憶には」
「………………」
「どうせミナやリアーヌ、アベル、ティア、セレス、それにエメは知ってることだから、ソウジにも教えてあげる。――私はね、あなたが乗っ取ったこの国の“前国王の一人娘”よ」
……はあああああ!? ミナ‼ そういう重要なことは先に言えっての!
「ミナたちを責めないで。これは私が“直接ソウジに伝える”って頼んだから」
「……なら何も言わない」
「ありがとう。……で、この話を聞いてどう? 私のこと、嫌いになった?」
「驚いたけど……嫌いにはならない。初めからセリアは貴族っぽいと思ってたしな」
何より選別魔法にもミナの面接にも引っかかってない時点で、悪い子じゃないのは分かってる。
「そう、ならいいわ」
「ずいぶんあっさりだな」
「だって今も“ぎゅ~”っとされてるんだもの。『嫌い』なんて言葉、信じられるわけないでしょ」
「……確かに。で、この世界でセリアの素性を知ってる人間は、どれくらいいる?」
これは冗談抜きで、セリアにとって一番大事なことだ。
この国の連中が正体を知ったら、間違いなく暴動が起きる。
おまけに他国から何を言われるか分かったもんじゃない。
『なんで前国王の娘が普通に暮らしてんだ?』――そうなれば、命を狙われることだって十分あり得る。
「幸か不幸か、あの男は私を滅多に外へ出さなかった。だから“前国王に娘がいる”ことは知られてても、私の顔を知ってるのはさっき言った六人と、なんとなく察してるマイカくらいね」
「外に出さなかった理由は?」
「前国王はきっとこう考えたのでしょう。
『一人目が男ではなく女か……だが利用価値はある。幼い頃から徹底的に教育を施し、完璧な淑女に仕立て上げればいい。この一人に全てを注ぎ込むべきだ』――と。
そうして大事に育てられたのが、この私。……あとは分かるでしょ?」
そこまでして育てた娘を外に出して人質にでも取られたら、たまったもんじゃない――か。
「前国王は、随分と考え抜いていたんだな。容姿は生まれつきだから運次第だが、身長以外は完璧に仕上がった。セリアにだけ集中することで、ひとりのハイスペック人間を確実に作り上げたわけか」
「そういうこと。だから私の素性を知る人は元々少なかったのに……“誰かさん”のおかげで、さらに減ったのよ。……それよりソウジは、私の身長に不満でもあるのかしら?」
「いや、そういう意味じゃない。ただ……これ以上伸びると抱っこがちょっと厳しくなるなって思っただけだ」
セリアと同年代のアリスたちを抱き上げようとすれば、もう正面からは無理でお姫様抱っこしかできない。
その点、まだ正面から抱えられるのはセリアとティアくらいだ。
「それは困るわ。……どうにかならないかしら?」
「………………」
――この国にとって最重要の“秘密”。
軽口の裏で、抱きしめる腕にだけ覚悟が乗った。




