第161話:母の日
ロゼを一発で食堂へと向かわせたユリーは『ちょっと玄関で待っていてくださいな』と言い残し、寮の中へと消えていったので、俺はそこで大人しく待っていると、化粧道具と椅子を持って帰ってきた。
「私が化粧で誤魔化してさしあげますから、ちょっとこの椅子に座ってくださいませ」
「やっぱ困った時はユリーだわ。こんなこと他の人に頼んだら、間違いなく仕事自体を止められるからな」
「ソウジ様が例の計画を開始してからまだ二日しか経っていませんのに、ここまで酷い顔をしておられれば普通の人は無理やりにでも止めますわよ。まったく、何をしたらこんなことになりますの?」
「まず会議で娼館の件が却下されたその日のうちに、二代目のところの兵隊50人と模擬戦をして合格ラインに達した奴らを選出。次にあの店を運営していた中であった問題や困ったことをどんどん挙げていってもらって、それの解決案と資料を自分の部屋で作ってたら夜中の三時過ぎ。そこから三時間だけ寝て……あとは寝てない気がする」
そんな俺の話が進めば進むほどユリーの顔が呆れたものへとなっていったのだが、それでも寝不足の顔を誤魔化すためにメイクの手を止めることなく黙々と続けていき、
「はい、できましたわよ」
「おー、明日からもくるからよろしく」
「言っておきますけど、結局はメイクで誤魔化しているだけであって、マジマジと見られれば誰だって分かってしまいますし、相手がミナさん達ともなれば簡単にお気付きになられると思います。ですからもしあの方達に何か注意をされたのであれば、絶対に言うことを聞くこと。それが今回私が協力する条件です」
「とか何とか言って、結局俺がお願いすれば協力してくれるくせに」
どんなに俺が無茶しようともそれに最後まで付き合ってくれるのはティアではなく実はユリーだったりする。というかティアは城内メンバーの中では一番俺の無茶に付き合ってくれる半面、健康面が関係してくると誰よりも強く止めにかかってくる……というか、アイツはそこら辺の見極めがかなり正確なせいで誤魔化しが一切通用しないのだ。
「はぁ、誰か一人はこういったことをして差し上げる人がいないと、余計に事態が悪化しかねませんからね。別に私がソウジ様に無理をしてほしくて手助けをしているわけではないんですから、そこのところ勘違いしないでくださいよ?」
「分かってるって。それより話は変わるんだけどさ、母親って息子から何を貰ったら嬉しいんだ? 正直、花なんて貰ってもすぐに枯れるし、だからと言って置物とかを貰っても邪魔だしでよく分かんないんだけど。あっ、別にユリーが俺の母親とかそういうことじゃなく、同じ女性として聞いてるだけだから、えーと……」
「ふふっ、それくらい分かっていますから大丈夫ですわよ。大方、義理のお母様達へのプレゼントに困っているといったところでしょう?」
そう、実は本日5月12日は母の日であり、日本の行事一覧的な本を俺がお小遣い稼ぎで発売してしまった手前、何か渡した方がいいかと思い、ネットでちょくちょく調べてはいたのだが……
当初渡そうと思っていたスイーツ系はあまり世間の母親からは評価がよくなかったり、逆に俺が微妙だと思っていた花や置物系が人気だったりといった感じで、もう完全に混乱状態に陥ってしまい、今日まで考えることを一旦放棄していたのだ。
ちなみに花を選択肢から外した理由はさっきも言った通りすぐに枯れるし、そのくせして手入れが面倒くさいから。置物系はうちの母親が毎年結婚記念日にそれを貰っては置くところに困ると言っていたのに対し、ケーキなどを貰うと結構機嫌がよくなるので、やっぱり食い物の方がウケがいいのかと思ったら全然違った。
ということを一通り説明すると、
「まあ確かにソウジ様が仰っていることも分かりますが、やはり日本で母の日といえばカーネーションというイメージが強いからということも影響しているのではないでしょうか? 逆にこの世界ではそのような文化がなかったこともあり、今日は皆さんお休みということで直接お店に行って決めると言っていましたし」
「となると尚更花は微妙だよな? んー、やっぱ金か?」
「ソウジ様の頭の中で何があったらお金になったのかは分かりませんが、もしお二人に何かプレゼントするのが初めてなのでしたら、敢えて置物を選択するというのも私はアリだと思いますわよ」
なるほど。確かに初めてだからこそ何か形が残るものをってのはアリかもしれないな。別に次からはそういうのをあげなければいいだけだし。
「んー、じゃあ母の日っぽさと部屋に飾れる物ってことでフラワリウムはどうだ? こういうやつな」
そう言いながらスマホで適当に見つけたフラワリウムの写真を見せると、
「あら、とても綺麗じゃないですか。入れ物も高級感がありますし、贈り物としてはいいんじゃありませんの?」
入れ物も高級感があるんじゃなく、本当に高いやつなんだよ、お嬢様。
「そういえば今日はユリーも休みだったよな。ってことはみんなと一緒に出掛けるのか?」
「いえ、私は特にプレゼントする相手もいませんので、リゼさん、ロゼさんの三人とお留守番ですわ。一応言っておきますけど、別にソウジ様のせいとかではありませんわよ」
「俺のことはどうでもいいんだよ。それよりもほら、お金やるからお前ら三人も一緒に行ってこい」
「お気持ちは嬉しいのですが、先ほども言った通り私達は渡す相手がいませんので、一緒に行ったところでその……」
「チッ、じゃあもう書類上三人の保護者は白崎宗司ってことにしてあるから、俺に何かプレゼントを買ってきてくれ。それでいいか?」
「母の日なのに男性にプレゼントをするという矛盾については目を瞑るとしても、そういうことでしたらちゃんと毎月お給料を貰っているのですし、お金は私達が自分で―――」
「あー、もう五月蠅い! 子供が一々親に気を使ってんじゃねえよ! 親がお小遣いをくれたならラッキーとか思いながら貰っとけ‼」
「ふふっ、先ほどから仰っていることがグチャグチャですわよ」
「うるさい、うるさい、うるさい‼」
なんて赤髪ツンデレのアニメキャラみたいなことを言いながら、フェイク・フェイザーでいつも俺が仕事をサボる時に使っている白髪の美少女になり、
「じゃあ後で書類の母親の欄に、この時の姿の名前である都子にしておくから、私に何か買ってきて!」
「ぷっははははは、それってもしかしなくてもソウジ様がお仕事をサボって外出される際にしている格好じゃないんですの? そんなお姿を私に見せてしまったら、今度から使えなくなってしまいますよ」
「………このことは誰にも言わないで。ね?」
「はいはい、分かりましたから。そろそろお戻りにならないとミナさん達が心配されてしまいますわよ」
そう言われて俺は懐中時計で時間を確認すると、朝ご飯まで結構ギリギリだったので、少し焦りながらも
「兎に角私に合わせたプレゼントを買ってきて! 分かった?」
「そんなに心配されませんでも、ありがたく皆さんとお出掛けさせていただきますから」
多少強引だったとはいえ何とかユリーを頷かせることに成功した俺は、急いで元の姿に戻り帰宅。朝食後は良さそうな店をピックアップしてからの絞り込み。
その後急いで銀座に向かい、細長い入れ物にピンクのカーネーションが入ったフラワリウムを二つと、実母の方の母さんが好きなチーズケーキ。それと一緒にお土産のケーキを人数分買いに行ったのだが、なんでか今日はあまり周りの目が気にならなかった。
ということで早速買ったばかりのプレゼントを渡しに行くため、まず最初に実家の方へと向かったのだが、どうも全員外に出ているらしく誰もいなかったので、それを冷蔵庫に入れた後L○NEでそのことを報告。からの姿を異世界Ver.に戻してから直接マリノの城のキッチンへと転移し、取り敢えずお土産のケーキを置きながら、
「えーと、今日はどこにいる……この魔力はミナとリアのだな」
「あれ、シーちゃんじゃないですか。今日はどうしたんですか?」
「リーナ姉か。母さん達が今何してるか分かるか?」
「レミア様とメイド長なら居間でミナ様とリアーヌ先輩とでお茶しながらお喋りしてますよ」
「それって母の日のプレゼントを渡しにきた感じだったか?」
「はい、確かミナ様が地球から取り寄せたお気に入りの茶葉を、リアーヌ先輩がそれに合うお菓子をという感じで、個人へというよりはお二人へのプレゼントとして、みたいな感じでしたよ」
仕事が忙しかったせいでそこら辺の調節が一切できてなかったから、もし被ってたらどうしようかと思ったけど、どうやら大丈夫そうだな。
そう思った俺は、フラワリウムを買う時に店員さんに勧められて最初は断ったものの、まあ初めての贈り物だしということで書いた手紙の中身を確認したり、紙袋に付箋を貼ってどっちがどっちか分かりやすくしてから、
「こっちをお母さんに、こっちを母さんに渡しといてくれ」
「えっ? あのこれって母の日のプレゼントですよね? だったら直接シーちゃんが渡した方がいいんじゃない? というか今日のシーちゃん、ちょっとお化粧して―――」
「そこに置いてあるケーキは全部俺が持ってきたお土産だからみんなで食べてくれ。ちゃんと人数分+α買ってきてるから喧嘩するなよ。それじゃ!」
これ以上突っ込まれると面倒くさくなることは確実なので、そうなる前にと早口でそう言った後、速攻で自分の部屋へと転移した。




