第135話:失っても、変わらない
心の中では好き勝手言わせてもらったものの、だからといって何かしら行動に移すなんてことを人としては勿論、上に立つ者としてもやるわけにはいかないので、今回のことは忘れようとした瞬間、突然自分達の周りにサイレンス・フィールド(消音結解)が張られ――
「あやつはクビじゃな」
「はい、クビですね」
「あんまりこういうことは言いたくないんだけど、ちょっとさっきのは私も生理的に無理かなー」
こらこらこらこら、一般の出でまだ自分の立ち位置に慣れてないマイカは兎も角、リアルお姫様と騎士団の戦術顧問がそういうこと言っちゃ駄目でしょ。……確かに自分が逆の立場だったら同じことを思っただろうけど。
「アイツが何かしたならまだしも、あれだけでクビは駄目に決まってんだろ。もしそれで何かされたってんなら、俺が何とかするから少しくらい我慢しろ」
「ですが先ほどの方はソウジ様がティアさんに対してあのような行動を取った本当の理由に気付いていないどころか、自分の方が女性の扱いが上だな……みたいな態度だったのが気に喰いません。実際はただの独りよがり野郎のくせに」
少々お口が悪くなっておりますよ、お姫様。……出来るだけうちの城に住んでる人達は全員一般人と同じような生活を送れるように心掛けているとはいえ、これは流石にお母さんに怒られるかもしれねえな。
まあ今回は状況が状況なだけにって感じだから大丈夫だとは思うけど。
「だいたいどうやったらあのような独りよがり勘違い男にわらわ達の心がなびくことになるんじゃ? たとえ相手が誰じゃろうとソウジが今のままでいる以上、そんなこと絶対にあり得んぞ」
それはあなたが今言った独りよがり勘違い男だからこその考えだと思いますよ。つか一応ここって戦場なのに、まるで高校生のお昼休みの教室みたいな空気になってるし。
「最初のティアさんにしていたあ~んもですが、少しでも私達と相手の方が嫌な思いをしないで済むよう心掛けながら喋るなんて昔のソウジ様からは想像できないほどの成長ぶりですからね。特に前者に関しては誰かが何かを教えたわけではありませんし」
「それに私が作ったお弁当のおかずからじゃなくて、ティアの分から取って……だもんね。別に絶対に嫌だってわけではないけど、やっぱり今回はソウジ君の為に私が作ったお料理なんだからそれをその人に全部食べてもらいたいっていう気持ちはあるし、いくら好きな人からのあ~んでも流石にそれをやられちゃうと微妙だよね~。しかもお互い近くにいて事情も知ってるとなると尚更」
まあ間違いなく昔の俺なら、女の子のご機嫌を取るのにギリギリあ~んを思いついたとしても、マイカが作ってくれた弁当のおかずから~ってのをやってただろうな。
「他の男性がどうかは分かりませんが、ここまで好きな人の為に努力し続ける方は中々いないんじゃないでしょうか?」
それに関してはちょっと重く思われてるんじゃないかって不安になったりもしてたんだけど、他の二人もミナと同じで悪く思ってるわけではないみたいだし、一先ず安心だな。
そう考えながら、空になった弁当箱をランチョンマットで受け取った時と同じ形に包み直し、何となく後ろに両手をつくと……隣に座っていたマイカが自分の右手で俺の左手を握ってきたかと思えば、そのまま何事もなかったかのような感じで
「まあでも私達が好きになったソウジ君は一番最初に会った時の状態のソウジ君なわけだから、自分から動こうとしなかったならしなかったで、勝手に私達色に染めるだけだったし、今後も何か気になることがあればそうするだけなんだけどね♪」
「それに私達はソウジ様の何か良いところ一つを知って好きになったのではなく、複数の良いところに惹かれて好きになったのですから、それが一つや二つなくなったところで気持ちが変わることなんて絶対にあり得ません。例えそれがどれだけ大きいものだったとしてもです」
「こやつの場合、ある日突然何かを失ったとしても周りの者達で支えてやればよいだけじゃし、さっきお主らに聞かせてやった録音にもあったように、ソウジ・シラサキはどんな困難であっても自分の大切な者のためならどこまでも頑張る男じゃからのう」
まあでも裏を返せば、その大切な人達が自分の周りから全員いなくなれば……いなくなったのなら俺は少なくとも百単位の人達全員に嫌われたか、死んだことになるな。
どっちにしても何があったらそんなことになるんだ?
* * *
その後も戦場だというのにまるで高校の教室で行われているような会話が続いており、それに入りづらいせいでマイカと手を繋いでいる以外することがなくなった俺は、一応パラレルを使って三人の会話を聞きながらお弁当のお礼と感想をスマホで送った後、聞いているフリをしながら頬杖をついてぼーっとしていると
「ちょっとよろしいでしょうか、ご主人様」
そんなリアの声が自分の後ろから聞こえてきたので振り返ってみると
「……別に大丈夫だけど、リアは兎も角なんでエレーナまでここにいるんだよ」
「それはこっちのセリフですよ。なんでただのジュエリーショップの一店員である私が、戦場のど真ん中にご注文の品をお届けに上がらなきゃいけないんですか⁉ しかもこっちは最悪死ぬ覚悟までしてきたっていうのに、実際来てみれば皆さん賑やかにお昼ご飯を食べてるどころかソウジ様に関してはマイカちゃんと手まで繋いでるじゃないですか」
ジュエリーショップの一店員が余計なこと言ってんじゃねえ。お前のその余計な一言を聞いたことによってミナの体が一瞬ピクッと動いたぞ。流石に一度お母さんに怒られたせいか前回みたいに騒いだりはしなかったけど。
「それで、自称命懸けでここまで来たエレーナは一体何を届けにここまで来たんだ?」
「……これをどうぞ」
そう言いながら四角い小さな箱を俺に向かって差し出してきたのでそれを開けてみると……中には真ん中にいい感じの透明度で六角形の赤い石がはめ込まれた指輪が入っていた。
「それはソウジ様の婚約者である私達からのプレゼントといいますか、一応婚約指輪の意味も込めての物になりますので……よければつけてみてください」
「左手は義手だし、そもそもこれは婚約指輪なんだから……右手の」
「「「「薬指((です))(だよ)(なのじゃ)!」」」」
だそうなので、若干大きめなサイズの指輪を右手の薬指へと滑り込ませると……指との隙間を埋めるかのようにゆっくりと輪の部分が狭まっていき
「つけ心地とか大丈夫ですか? もし気になることがあれば言ってくださいね。可能であればこの場で調節しちゃうので」
「特に指輪がキツいわけでもなければ……手を振っても全然ズレてる感じがしないから大丈夫そうだな。それより気になるのはこの石を見る角度? が違うと色が変わるのはなんなんだ?」
「それは少し前にルナさんにお願いして頂いたものなんですが、その魔石を所持してる人物は魔力さえあれば全属性の魔法を使えるというものらしくてですね、先ほどソウジ様が仰った通り見る角度によって全六通りの色に変わります」
そんなことを言われたら確かめたくもなるということで自分の右手を動かしながら確かめた結果、全ていい感じの透明度を保ったままの状態で
赤・水色・黄緑・黄色・紫・無色の六色を確認することができた。
「一応私達もその魔石を指輪にはめ込む前と後で確認のためにちょっと効果を確かめさせてもらったんですが、本当に誰でも全属性使えるようになっちゃうんだから驚きですよ。一体そのルナさんという方は何者なんですか? 普通に考えてこんなことあり得ませんよ」
「世の中知らない方が幸せでいられることもあるんですよ、エレーナ様」
出た、リア特有の脅し術。通常ミナやティアのようにオーラを出しながら相手を脅すのに対し、リアの場合は普段と何も変わっていないというのに何故か自分が脅されていると瞬時に理解させられるから怖い。
さっきのだって雰囲気的には『あんまりおいたが過ぎるのはよろしくありませんよ』みたいな感じだったのに、言われた張本人は『もうこの件に関しては絶対に聞かないでおこう』みたいな顔してるもん。
「そ、それじゃあ最後の確認なんですが……ちょっと指輪を外してもらってもいいですか?」
「ああ、分かっ……」
あれ? 抜けない。いやでもつけてる感触としては特別キツいわけではないどころか丁度いい筈なんだけど! ―――やっぱり抜けん。どうなってんだ?




