第110話:クロエの謝罪
※本作の一部エピソードはショート動画としても公開しています。
慣れないこと続きで熱を出してしまい、自分で考えた案だというにも関わらず、
一日目に行われた各店舗への説明会はミナ達に任せっきりになってしまったり、二日目は無理をしたせいで倒れたりしてしまったものの、三日目には何とかなる程度までには回復し、面接以外の仕事で(それだけは絶対にやりたくなかった)みんなに貢献することができた。
ということで、それから何だかんだあって合計で五日も掛かってしまったものの、無事最終合格者まで発表し、今日から各自持ち場につくことになった為、ようやく自分の時間ができた俺はパーティーが行われた日の夜に暴れまわって殺した盗賊とモンスター等を換金しに冒険者ギルドにきていた。
え~と……あったあった。あの日どこに行けば敵がいるかを調べるため、千里眼でギルドが出してる依頼を眺めながら目を付けたものに片っ端からオブスキュア(認識阻害魔法)をかけて誰かに取られないようにしてから行ったけど、ちゃんと機能してたみたいだな。
まあそれが機能してなくて誰かが依頼を受けたところで、対象は既に俺が殺してるんだから意味ないんだけど。
なんてことを考えながら片っ端から画鋲止めされているクエストの紙を掲示板から外して回った後、受付の方を確認し……
当たり前だが受付は全部で三つ。右から美少女、ふんわり系お姉さん、クロエという順番であり、ラッキーなことに今は全部空いている。となれば俺が並ぶのはもちろん――
「これお願いします」
「……知ってますか陛下。ここでクエストを受けるにはギルド証が必要だったり、条件に合ったランクが必要なんですよ」
「知ってますけど面倒なので何とかしてください。というか何とかしてほしいからワザワザ嫌われた相手の所にきたんですけど」
実は俺が今回殺しまわったのは全てクエストに出ていたものであり、それの報酬を貰うにはクロエの所に行くしかなかったのでそう言うと、呆れた顔をこっちに向けながら
「ちなみに理由は?」
「ちょっと色々あって勢いでクエストに出てたやつを殺して回ったはいいものの、後からギルド登録していないことを思い出しました。なので今、私が頼れるのはクロエさんだけなんです」
「は~あ、一応こういうこともあるだろうってことでセリーヌさんから陛下限定で全クエストの受注を許可されてはいますが……まさか受注する前に終わらせてくるとは。陛下は私を驚かせる趣味でもあるんですか? あと敬語じゃなく普通に喋ってください」
クロエと話すのは会議の時以来なのだが、少なくとも表面上は怒っていないようなので、取り敢えず普通に会話を続けながら確認などを済ませていき――
「これが今回の報酬です。それと……今日の夜って時間ありますか?」
「まあ18時頃からは確実に空いてるけど、なんかあんのか?」
実際はミナとマイカの二人に休みをあげたせいでこの後の予定といえばティアとの模擬戦くらいなのだが、あんまり暇だと思われるのも癪なので若干見栄を張ってそう言うと、クロエは少し気まずそうにしながらも一枚のメモ用紙をこちらに差し出してきて
「それでしたらこの間のことを謝罪させていただきたいので、18時半にここへ来てください。もちろんお金はこちらが払いますので」
「どこだここ? つか別に謝罪とかどうでも―――」
“謝罪とかどうでもいいし”と言おうとしたのだが、確認の手伝いで途中から一緒にいたおばちゃんに遮られてしまい
「まあまあソウちゃんもそうつれないこと言わないで、私からもお願いだよ。クエスト関係で特別措置を用意してあげたんだしさ」
「うぐっ。……分かったよ。行けばいいんだろ。これがどこかは知らねえけど、店の前にいればいいのか?」
「今から私が予約しておくから、ソウちゃんはお店に入って自分の名前を言えば大丈夫だよ。まあ有名過ぎて名前を言う必要はないと思うけど」
予約だの自分の名前を言えばいいだのって、なんか嫌な予感がするんだが……行くしかないよな。
「分かった。んじゃあ18時半にまた」
そう言いギルドを出た俺は直で家に帰り、たまたま居間にいたミナにメモ用紙を見せながらクロエに誘われたとだけ伝えたところ、“今すぐ詳しく! 詳細に教えなさい‼”と言われた。
* * *
それから俺は昼飯を食べた後、ティアとの模擬戦・ミナと二人でクロエに呼び出された場所で必要になるであろう基本的な勉強・セレスさんからの情報提供、そして最後にドレスコードがなんだのとリアに言われて着替えと続き、それが終わった頃には18時ちょっと前になっていた。
その為もう少ししてから一人で歩いて向かえば丁度いいかな~とか思いながらソファーでくつろごうとしたところをティアに見つかり、頭を軽く叩かれた後、“わらわが馬車の運転をしてやるから早く乗るのじゃ”とか言われた挙句、どこから持ってきたのか知らないがタイヤがゴムの物に付け替えられているそれに無理やり押し込まれたら中にドレスを着たクロエがいたりしたが、タイヤのお陰か今回は酔わずに無事目的地へと着いた。
なので俺が先に降り、クロエに右手を差し出すとティアが満足そうな顔をしながら
「こやつが王族になるに当たってわらわ達が一通りこういう場での動き方を教えてはあるが、もし何か変なことをしおっても多少は目を瞑ってたもう」
「ティア様がそう言うということは、運が良ければ陛下の余裕がない姿を見れるかもしれないということですね。それは楽しみです」
「まあ普段は適当なくせに勉強なんかは他の者の何十倍、何百倍と頑張っておるから、お主が期待しておるような姿は見れんかもしれんがの」
そんな余計な事言ってくれちゃってるティアに早く行けよみたいな目を向けると、一言二言だけクロエと話してからどっかに行った。なので俺は教えられた通り扉を開けて先にクロエを中に入れてから自分も入ると――
うーわ、なにこのTHE高級レストランみたいな雰囲気・内装のデザイン・そして何より金持ちそうな客の多さ。今すぐ帰りて~。
「いらっしゃいませ。……ソウジ・ヴァイスシュタイン様とクロエ様でお間違いなかったでしょうか?」
これまたイメージ通りの店員? が受付から出てきて話しかけてきたので俺が返事を返すと、どうやらここのオーナーだったらしく簡単な挨拶をされた後、この店で一番良さそうな席へと案内された。
そしてそのまま食前酒はどうするかと聞かれたので、俺はシャンパンを、クロエはミネラルウォーター(ガス入り)を頼み、それを飲みながら雑談をしていると再びオーナーが近づいてきて
「セリーヌ様からお料理の方は既にご注文頂いておりますが、お飲み物はどういたしますか?」
「ここのお料理は頼んだワインの種類に合わせて味付けを変えてくださるのが特徴なんですけど、ソウジ様ってワイン飲めます?」
「ふ~ん、それは興味あるな。……じゃあ支払いは私が持ちますので値段は気にせず、彼女の好みに合わせてもらってもいいですか?」
そんなことを言われたところで缶チュウハイばっかり飲んでる大学生がワインの種類なんて知るわけもないのでクロエに丸投げすると、なんか凄く慣れた感じで好み等を伝え始め……少しするとその会話も終わり、最後に食後の飲み物を聞き離れていった。
「陛下のことですから既に気付いてるかもしれませんが、ここは席ごとに消音結界が張ってあるので普通に喋っても大丈夫ですよ。あと……ワインご馳走になります♪」
「よく分かんない時は店員もしくは一緒に食事する相手と相談しながら決めろってミナに教えられたからな。それに俺はワインに拘りとかないしご自由にどうぞ。それよりクロエはよくこういう店にくるのか? なんか結構慣れてるみたいだけど」
なんてちょっとした疑問を聞いたつもりだったのだが、何故かクロエは急に真面目な顔になり
「……私達ギルド職員は王貴族と関わることもあるので、最初の数年は仕事をしながらこういう場での立ち振る舞いなんかを教えられるのですが、一番早く合格する人でも一年ちょっとは掛かります」
「へ~、そりゃあ大変だな。ちなみに俺は魔法を使いまくって無理やり詰め込んだから二週間くらいで済んだぞ。まあ知識として頭に入れただけであって、あとは家でミナとかと何回か練習をしただけで実践は今回が初めてだから自信は全くないけど」
「いえ、あの別に大変さ自慢をしたいわけではなくてですね……というか大変さで言えば陛下には到底かないませんし。って、そういう話がしたいわけじゃなくて!」
真面目な顔になったかと思えば一人で怒り出したりと、相変わらず面白いな。
「じゃあなんだよ」
「……その、この間は陛下の本当の考えも知らずに怒鳴ってしまい……すいませんでした」
「午前中にも言ったけど別に俺は謝罪なんてどうでもいいし、今後も気に食わないことがあれば遠慮せずにどんどん言ってくれ。意見は多い方がいいっていうのは勿論、国民からの声っていうのはかなり重要だからな。ってことでまた俺のことが嫌いになったとしても文句があればご自由にどうぞ」
そう自分の気持ちを伝えると今度は笑いながら
「自分のことを嫌っている人の意見を進んで聞こうとする人は普通いませんよ。ましてや王様がそこらのギルド職員に酷いことを言われたにも関わらず“謝罪なんてどうでもいい”って。私は色んな意味で凄い人と繋がりを持ってしまったようですね」
「変人とはよく言われるけど、凄い人ってのは初めて言われたかもしれねえな」
マジで初めてな気がするので、内心ちょっと喜んでいると、タイミングを見計らったかのように最初の料理が運ばれてきた。




