第108話:職業選択
その後も俺はティアと喋りながら廊下を歩いていると、いつの間にかパーティー会場の扉の前まで来ていた。
「さて、今日のお客様達は一体どんな目を俺に向けてくれるのかな?」
「元からポーカーフェイスは得意なようじゃったが、まさかここまで成長しておるとはのう。この前のパーティーでお主に喧嘩を売ってきた馬鹿二人のお陰かの?」
「確かに馬鹿のフリをする時はあの魔法を使ってたけど、後半の方は一切使ってないぞ。だいたいお前と毎日やってる半殺し訓練に比べれば、あんな気持ち悪い視線なんて何てことないし」
ということでそれを証明するかのように、俺は素の状態でパーティー会場の扉を開け、そのままティアと並んで中に入ると
う~ん。今日ここにいるのは仕事がなくて困ってる人達なだけあって、俺に向けられている視線も救いを求めるような目、救世主を見るような目などなど、この前とは真逆のものばかりだな。まあこれも別にいい気分になるものではないけど。
なんてことを考えながら壇上へと上がり、
「まずは改めまして、私ヴァイスシュタイン王国の国王を務めさせていただいておりますソウジ・ヴァイスシュタインです。本日はこちらが出した求人募集にご応募頂きありがとうございます。……そして一次試験合格おめでとうございます」
そう言うと、俺の計画を知っていたミナ達以外はみんな何のことか分からないという感じで軽くざわつき始めたので、それについて説明をしようとした瞬間、昨日行われた面接で合格したらしいサムールの看板娘ことナナが手を挙げてきたので喋ることを許可すると
「あの、実は私達も昨日なんの試験も受けた覚えがないのに同じようなことをミナ様に言われたんですけど、これって一体どういう意味があるんですか?」
「どうやらナナさん以外にも気になっている人が多そうですのでネタバラシと行く前に……。昨日は私が熱を出してしまったせいで説明会に参加できず申し訳ありませんでした。まあ最初から面接に関してはミナ達に任せるつもりだったので別に私はいてもいなくても変わらなかったんですけどね」
………あれ? なんでみんなしてナナのことを心配そうに見てんの? 本人もよく分かってないみたいだし、ウケる~。
「どう考えてもお主のせいじゃろうて。胸に手を当ててよう考えてみい」
俺なんかした……そういうことか。
「今のは普通に謝罪しただけであってナナさんのお店をどうこうする気は一切ないのでご安心ください。というか誤解を生むような言い方をしてしまって申し訳ありません。ということで先ほどのナナさんの質問の答えですが……簡単に言っちゃえばあんまり面倒なのがうちに入られても面倒なので軽い振るい落としをしただけですよ」
方法としては、うちの正門に予めセレクト・ジャッジメント(選別魔法)を付与しておいて、それに引っかかった奴は元から張られている結界に弾かれるという感じである。ちなみに基準としては
・悪意がないこと
・この国の国民であること
・今現在仕事がなくて困っている者
・体をちゃんと綺麗にしてきた者
・綺麗な服を着ている者
・つまりは最低限身だしなみを整えてきた者
という六つすべてをクリアした者だけが正門を通れるように設定していた。特に最後の三つに関しては、銭湯を無料開放したり特別報酬としてかなりのお金を渡しているのだから、ということで一番重要視していたりする。というか他の三つは当たり前だし。
あとは説明が面倒なので端折るが、昨日行われた一次試験も同じようなものである。
ということを説明してやるとナナは軽く周りを見回して確認した後、納得したのか一人で“なるほど~”とか言っていた。
「どうやら他の方々も納得してくださったようですので次の説明へといかせていただきますね。と言いましても、あとは面接なり実技試験なりを受けてもらうだけなんですが……文字の読み書きに加えて四則計算が出来る方ってどのくらいいますかね。もしいらっしゃれば手を挙げてもらえると助かるのですが」
………こっちの予想より多く人が集まったから試しにセレスさんの部下(経理部と商業部の人員)でも募集してみようかな~とか思って言ってみたけど、結構いい感じの人数なんじゃないか? それにミナが何も言ってこないってことは全員嘘はついてないみたいだし。
「ちなみに今手を挙げてもらった方の中で、うちの国の経理部もしくは商業部で働いてもいいって方っていますかね? 実はちょっとここら辺の人員が全然足りていませんでして、まあだからと言って簡単に受かるわけではないどころか他の所よりも難しいとは思いますが、その代わり待遇はかなりいいですよ」
まあ俺は雇ってる側だから本当にそうかは知らないけど。
とか思っていると一人の男性が
「あの、一つ質問いいでしょうか?」
「どうぞ」
「……もし今陛下が募集なされた二つに応募したものの試験に落ちてしまった場合、他のところにはもう応募できなくなってしまうのでしょうか?」
あ~なるほどね。確かにそこら辺の条件によってどうするかも変わってくるか。
「まず今募集した二つに関しましては一番最初に筆記試験を受けてもらいます。そしてそれに合格された方のみが面接へと進み、合否が決まるという流れを考えていますのでもし筆記試験が不合格だったとしてもある程度の点数が取れていた方に関してはこちらからお声を掛けさせていただきますし、うちで募集しているプール・銭湯・騎士団の三つに関しましては後からでもご応募いただいて結構ですよ」
「すいません、もう一つ質問なんですけど……今の言い方だとまるで面接が不合格だった人にはその資格がないという風に聞こえるのですが」
「風に聞こえるもなにもその通りですから、もしそれが嫌ならうちが募集しているものではなく今日ここに来てくださっている各飲食店さんのどれかの面接を受けることをお勧めいたしますよ。あと騎士団の方も実技試験の合格者のみが明日の面接へと進み、合否が出るという感じですのでお気を付けください」
少なくともうちにはいくら頭が良かったり戦闘技術があっても性格に問題がある奴はいらねえからな。
「なるほど分かりました。私の質問に答えていただきありがとうございます」
「いえいえ。他にも何か聞きたいことがあれば答えますが、誰かいませんか? ……どうやらいないようですので最後の説明へと移らせていただきます。まず飲食店を希望される方に関しましてですが、午前中は全店舗共通で説明会の時間とさせていただいておりますのでこのままここで気になるところをご訪問ください」
そう言い終えた後、俺は指パッチンをし、それに合わせてティアが俺の魔法を使って就職説明会の会場にある各企業のブースみたいなものを用意し
「ということで私の説明はまだ続きますが各店舗の皆様は自分達のブースで準備をしていただいても構いませんのでご自由にどうぞ。次に騎士団への入団を志望されている方に関しましてですが―――」
という感じで一通りの案内を済ませた俺は、最後にセレスさんに一応用意しておいたテストを渡した後、ずっと隣にいるティアに向かって
「お前がどんな実技テストをするのかは知らねえけど早く訓練場に行けよ。アベルが待ってるぞ」
「なに自分の仕事は終わったみたいな雰囲気を出しておる。まさかとは思うがわらわとの約束を忘れたわけじゃなかろうな?」
「ちゃんと覚えてるっつうの。適当にマイカでも連れて行くから安心しろって」
そう言うと渋々ながらも納得したらしいティアはマイカをこっちに呼び、事情を説明した後、俺にかけていたクリオ(冷却魔法)を解いてから訓練場へと向かって行った。
* * *
それから俺は魔法を使えない為怠い体で玄関まで歩いて向かい、マイカと一緒に病院に直接お邪魔すると婆ちゃんが
「ほら、ティアちゃんから既にソウちゃんのデータは貰って準備は整ってるから早く病室に入りな。私も点滴を使うのは初めてだからどのくらいの効果があるかは分からないけど、何もしないよりはマシだろうさ」
クソッ、この病院を新しくした時に病人の状態に合わせて最適な薬等がタダで地球から瞬時に届くというぶっ飛び機能も付けておいたとはいえ、まさかこんなにも早く自分で使うことになるとは。
そんなことを考えながらベッドに倒れようとしたところ、最初から俺がそうするのを分かっていたかのようなタイミングでマイカが支えてきて
「ちょっ、体温高すぎでしょ⁉ よくこんな状態でさっきまで平気そうな顔して喋ってたね」
「別にこれくらい慣れてるし、今日はクリオを使って無理やり平熱にしてたからいつもに比べれば大分楽だったけどな」
「そこまでして自分の仕事をするとは呆れたもんだね。……ほら、ちょっとチクッとするからね」
熱のせいか全然痛くない……というかもう限……か………。




