第104話:なんで泣いてるの?
仕事ついでのストレス解消という名の、ただの八つ当たりをすることによって大分落ち着いた俺は、懐中時計で時間を確認しようとしてポケットがないことに気付き、
「そうか、今はティアの体だから服も違うし、時計もないのか。……ん? じゃあいつもあいつは一体どこから俺の血が入った試験管を出してるんだ?」
別に後で直接本人に聞けば済む話なのだが、気になったものはその場で解決したい性分なので、悪いとは思いつつ、あっちこち服や体を触り続けること約一分。
見つけた……けど、見た目的にも年齢的にもこれはどうなんだ?
というのも、俺が探していた物は太ももに装着されているレッグホルスターに、試験管みたいなやつを刺すような感じで収納されていたのだ。
……まあどうやっているのか知らないけど、ティアがどんなに激しく動こうとも着物の中が見えたことは一度もないので、問題ないといえば問題ないんだろうけど、ロリ婆がこれってどっちを取ってもアウトだろ。いや、でも吸血鬼基準で見た420歳はかなり若いらしいからセーフなのか?
もう面倒くさいから似合ってれば何でもいいや。さっさとこの血まみれの格好を何とかして帰ろう。
ぶっちゃけ疲れたので、早く帰って寝たくなった俺は、そんな適当な結論を出した後、本当は風呂で洗い流したいのだが、それをしようとすると血だらけで家に帰ることになるので、仕方なく魔法で時間を戻して服や体を綺麗にしてから直接玄関へと転移した。
* * *
……電気がついてるってことは、まだパーティー中か? チッ、もう少し遅く帰ってくれば―――
そう思った瞬間、後ろから誰かに肩を掴まれたかと思えばそのまま無理やり前を向かされ……正面から抱きしめられた。
「よかった~、やっと帰ってきました」
「まったく、家出するならするでちゃんと宣言してから出て行ってください」
「ふ~あ、帰ってくるのが遅いからもう少しで寝落ちするところだったわよ。この馬鹿ソウジ」
「別にそこまで心配する程のことではないんじゃし、何よりもう夜遅いんじゃからセリアは先に寝ておれと言ったじゃろうに」
「まあソウジ君が私達を置いて突然いなくなるわけないしね」
「なんだ坊主、随分と短い家出だったな。男ならもうちょっと頑張れよ……って言いたいところだけど、やりたい放題やった挙句、師匠にパーティーを押し付けて突然いなくなったって考えれば、そこらのチンピラよりも男だな。裏を返せばただの問題児だけど」
みんなが普段の格好に戻っていたり、ティアが大人の状態とはいえ俺の姿じゃないってことは、パーティーは既に終わってるってことで……こいつら、もしかしてずっと玄関で待ってたのか? 馬鹿じゃねえの。
「……今日のパーティーでのことは悪かった。正直、自分が犠牲になるだけで他の誰かが傷つくなんて考えはなかった。というか、想像すらしてなかった」
逆にこれでまたみんなから褒めてもらえるとは思ってたけど。
「あのですねソウジ様。確かにあの瞬間、私達は凄く後悔しましたし、問題の二人やそれに同調していた方々には腹が立ちました。ですが一番私達がショックだったのは……ソウジ様から、自分ならいくら泥を被ろうが馬鹿にされようが結果的に勝てれば何でもいい、というような……自己犠牲精神が感じられたことです」
「いや、あの、確かにミナが言ってることは全部当たってるんだけど……なんでちょっと泣いてんの?」
そんなに何か不味いことをしたのかと内心焦り始めていると、ティアが
「はぁ、まさか二日連続でこの話をすることになるとはのう……。言っておくが、自己犠牲とカッコつけることは似て非なるものであり、今のお主がやっておることはどれもカッコつける為にやっておるように見えて、ただの自己犠牲じゃぞ。………まったく、わらわとしたことがこんなことも見抜けておらんかったとは」
二日連続? いや、そんなことより自己犠牲とカッコつけることってどう違うんだ? というか今までの俺の頑張りが全て自己犠牲だと? いくら心を読めるからって変な言いがかりはやめ………。
* * *
もう朝か……。…………もう朝⁉
「やばっ‼」
今日は重要な仕事があるにも関わらず目覚ましをかけ忘れたことを思い出した俺は文字通り飛び起きたのだが、頭がクラクラするだけでなく突然吐き気まで襲ってきたせいで、前のめりに倒れそうになったところをお母さんが
「まったく、ようやく目が覚めたかと思えばいきなり飛び起きたり倒れそうになったりと忙しい子ね。ほら、まずは大人しく布団に戻りなさい」
「おい、今何時だ? つか離せ! 俺は二度寝してる場合じゃねんだよ‼ ……力つよ⁉」
「いいから病人は大人しく寝てる。だいたい誰もソウジを起こしに来てない時点で、まだ時間に余裕があるか何か理由があることくらい落ち着いて考えれば分かるでしょうに」
言われてみれば確かにそうだな。逆に起きたくなくて二度寝してると絶対にリアが起こしにくるし。………ん? 病人?
そう思った瞬間、再び眩暈と気持ち悪さが同時に襲ってきたせいでお母さんに抵抗していた力が一気に抜け、ガクッとなったところを正面から抱きかかえられるような形になり、
「なんか怠い。もう動きたくない……というか動いたら吐きそう。でもこれ、吐けないやつだ」
「吐きたくても吐けないのは貴方が昨日のお昼ごはん以降何も食べてないからであり、吐きそうな理由は胃が空っぽだから。あと医者が言うには疲れが溜まってて熱が出たんだろう、ですって。分かったら大人しくもう一回寝なさい」
そう言いながらお母さんは俺の体をゆっくりとベッドへ倒し始めたところで、ようやく自分のオデコに冷○ピタが貼ってあったり、なんでか体が小さくなっていることに気付き、
「おい、なんで俺の体が小さくなってるんだ? いや、犯人は一人しかいねえけど」
「ティアがその方が看病しやすいだろうってことで貴方を小さくしたのよ。まさか寝起き一発目で役に立つとは思わなかったけれど」
なんか最近、勝手に俺の体小さくされがちじゃね? しかもそれら全部に一応理由があるのがちょっと腹立つな。
などと考えているうちに俺の体がベッドへと戻されており、掛け布団をかけてくれようとしたのか一旦離れようとしたところを慌てて服の裾を掴み、
「あっ、あの……」
やばい、早く言いたいことを言わないとあの人みたいに“言いたいことがあるならハッキリ言って”って言われる。早く、早く言わなきゃ、早く、早く、早く………。
“この朝の忙しい時にやめてよね”“私、学校に電話したくないから貴方が電話してよね”“なに? 結局学校行くの? 行かないの?”“それで、一体どうしたいわけ? 私暇じゃないんだけど”
体調不良のせいか思い出したくない昔のことまで思い出してしまい、尚更上手く言葉が出なくなってしまったところでお母さんの口が動き出すのが見え、ドキッとしたと同時に
「ん、なに?」
言葉や状況は同じなのに、あの人とは違って凄く優しく、まるで今の俺の気持ちに気付いて落ち着かせようとするかのように自分もベッドに倒れ込んで目線を合わせながらそう問いかけてきたのを受けて、自然と涙が流れ出したのと一緒に
「昨日はお母さんに向かって乱暴な言葉を使ったり酷いこと言って……ごめんなじゃい、うぅ、すん。ごめんなざいー」
「別にそんなに泣かなくてもいいじゃない。あれくらい普通の親子ならよくある喧嘩でしょ? 会話の内容は普通とは程遠いものだったけれど。まあ今日はゆっくり休みなさい」
別に謝っている時は号泣というほどのものではなく、勝手に涙が流れてきているという感じだったのだが、お母さんの最後の言葉を聞いた瞬間、まるでずっと求めていたものをやっと手に入れたかのような感覚を得たせいか、泣きつかれて寝落ちするまでずっと泣き続けた気がする。
* * *
「んー、やっぱり―――の影響が一番―――なのかな」
「なんて言うか……あれは私と――ことで泣いて―――よりは、何か別の――原因で―――気がするのよね」
………んっ、ぅん~。誰かがこの部屋にいるのか?
そう思いながらゆっくりと目を開けると
「あっ、ごめんねソウジ君。もしかして起こしちゃった?」
「……腹減った」
「貴方、それは全く返事になってないわよ」
「さっきも思ったけど、なんでお母さんの近くにコ○ンの漫画が大量に積まれてるわけ」
「これは完全に頭が働いてないわね。悪いんだけどエメかリアーヌにソウジのご飯をお願いしてきてもらっていいかしら?」
失礼な、見た目は子供でも頭脳は大人だっつうの。
「オッケ~、じゃあこの話はまた後でってことで」
「お母さんに対する態度軽くない⁉ うっ……」
「はいはい病人は大人しくしてる。じゃあお願いね」
そう言いながらお母さんは寝汗でベタベタになった俺の髪の毛を整え始めたのだが、それを見たマイカはいつかのようにちょっと羨ましそうな顔をしつつ部屋を出て行った。




