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終焉の欺瞞  作者: 広瀬
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第1話「 終焉前夜 」

 朝の光が差し込み、俺は目を覚ました。窓の外を見れば、雲ひとつない青空が広がっている。


 夏休みももう何日か経ったけれど、早起きしてしまう自分に少し驚きながら、ベッドから起き上がった。


「 はぁ....今日も何もない一日か 」


 伸びをして、寝巻きのままキッチンに向かう。冷蔵庫の中を見てみたけれど、食材はほとんど残っていない。


 冷凍庫の中に少しだけ残っている食材を取り出すか、それとも外で何か買うか。こういう時、やっぱり外出しないと気が済まないんだよな。


「 まぁ、買い物でもしてくるか 」


 軽く食事を済ませると、シャワーを浴びにバスルームに向かう。シャワーを浴びたあとはスッキリした気分になって、服を着替える。少し気分が晴れて、外に出る気になった。


「 さて、どうしようかな.... 」


 夏の日差しが少し強くなってきていて、外に出るとすぐにその暑さを感じる。

 街の中を歩くと、周りはみんな忙しそうにしているけど、俺は特に急いでもいない。なんとなく、いつも通りコンビニに向かうことにした。


────────


 コンビニに到着すると、店内に入って、まずはサンドイッチのコーナーを見渡す。何か気になるものがあるわけでもなく、少し悩む。


「 どうしようかな.... 」


 そのまま、弁当コーナーに向かう。弁当なんて、普段は買わないけど、今日はどうしても弁当を食べたくなった。


 チキンカツ弁当、ハンバーグ弁当、カレーライスの弁当が並んでいる。しばらく迷った末に、チキンカツ弁当を手に取った。


「 うーん、これでいいか 」


 袋を取ってレジに向かい、店員が淡々と商品を通す音だけが響いていた。無表情な店員にちょっと気まずさを感じながらも、お金を払って袋を受け取る。


「 さて、これで家に戻って食べるか.... 」


 外に出て、少し湿った空気を感じながら歩き出すと、スマホが震えた。


 画面に表示された名前に、少しだけため息が漏れる。


「 ....またか 」


 その名前は、いつも突然現れるヤツ。高校の同級生で、俺にとってはちょっと面倒な存在だ。

 連絡が来るタイミングがいつも微妙で、今回はなんだろうと思いながらポケットにスマホを戻し、足を速めてマンションへと向かう。


────────


 部屋のドアを開けると、案の定だった。


「 おっそいよ苑里〜!ずっと待ってたんだからね 」

「 なっ....お前、いつの間に....鍵閉めてたよな? 」

「 驚かないでよ!別に苑里の部屋に盗みに入ってるわけじゃないし 」


 そこにいたのは、元気すぎるくらいの少女。人懐っこくて、こっちのペースをいとも簡単に崩してくる。


 名前を呼ばれたことに対する反応よりも、先にツッコミが出るあたり、俺の順応力もそこそこ鍛えられてるのかもしれない。


「 で?今日は何の用だよ 」

「 何にもないけど、暇だったから遊びに来た! 」


「 なら事前に言っとけ 」

「 えー、面倒臭いよ~ 」


 笑いながら無邪気にふざけるコイツに、つい口元が緩む。俺の夏休みは、きっとこいつにかき乱される。それでもまぁ、悪い気分じゃない。


「 しょうがないな....。一緒に弁当でも食うか 」

「 やった〜!苑里の奢りで! 」

「 は?自分で食うぶんくらい自分で出せよ 」


そう言い合いながら、俺たちはいつものように、なんとなく笑い合っていた。


────────


 冷めかけた焼き魚弁当をつつきながら、俺は唐揚げを守るのに必死だった。隣にいる“コイツ”は、相変わらず遠慮ってもんを知らない。


「 ねえ苑里、最近ね、李白ん家にも行ったんだ 」

「 ....は?李白の家? 」


「 うん、ちょっと前に。行ったことないって言ってたから、なんか意外だったよ 」

「 そりゃ....俺も知らねえし、場所聞いても教えてくれねえんだよ、あいつ 」


「 えー、仲良いのに? 」

「 仲はいいけどな、そういうとこ変に秘密主義っていうか.... 」


 コイツはへーっと気のない返事をして、俺の卵焼きに箸を伸ばす。

 反射的にブロックしながら、俺は続けた。


「 ....で、どうだったんだよ、李白の家 」

「 んー.....不思議なとこだったよ。静かで、でもどっか落ち着かないっていうか……でも、李黒は元気だったよ 」


「 ...そうかよ 」


 なんだそれ。俺の知らない李白の一面を、“コイツ”だけが知ってるような、妙な感覚。

 それがちょっと、引っかかった。


 コイツは俺の視線を感じ取ったのか、ふと思い出したように「 あ 」と声を漏らした。


「 そうだ苑里、これ....李白から預かってたの、渡し忘れてた 」

「 ...は? 」

「 手紙、みたいなやつ。なんか“今すぐじゃなくていいから渡しといて”って言ってたよ 」


 そう言いながら、コイツは小さな白い封筒をポケットから取り出した。

 名前は書かれてない。ただ、俺に向けられたものだって、なんとなくわかる。


 受け取ると、手触りのやけに柔らかい紙が指先に残った。

 中を開ける。数行、手書きの文字が並んでいた。


 ....内容を読み終える頃、俺はふっと息を吐いた。


 気づけば、“コイツ”がじっとこっちを見ている。


「 ....どうしたの?笑ってるように見えるけど 」

「 ....気のせいだろ 」

「 そっか。じゃあ、いいや 」


 そう言って、コイツはまた弁当の残りに手を伸ばした。

 俺は封筒を静かに机に置いて、最後の唐揚げを譲った。


────────


 我々は、今この瞬間を最も重要視している。これまでのすべての計画は、この“明日”のためにあった。

 そして、この日が来ることを心の奥底で確信していた者たちは、果たして何人いたのだろうか。ほとんどの者は、もう諦めていたのではないか?

 それでも、我々は待ち続けた。


 我々の目標は、ただひとつ。あの者たちを超えること。時に無慈悲に、時に冷徹に。この世の支配者として、君臨することを──


 だが、それが一筋縄ではいかないことも理解している。何度も、その手を伸ばし、手に入れたと思った瞬間に振りほどかれてきた。


 それでもなお、この目標に執着し続けるのは、我々の誇り、そして使命だからだ。


 数百年の長きに渡る計画。無駄な犠牲も多く、我々の中でも幾人かは途中で倒れ、または姿を消した。しかし、残った者たちが確実に前進してきた。


 この力、この明日を信じてきたからこそ、ここまで来たのだ。


 明日こそ、すべてが終わる。


 我々の名は歴史に刻まれることだろう。いや、それだけではない。新たな時代が始まる。この一歩を踏み出した者だけが、その先に続く道を見出すことができるのだ。


 だが、全てを握りしめるその瞬間に、我々の前に立ち塞がる者がいる。それは予期していたことだ。彼らが我々を阻もうとするだろうことは、最初から分かっていた。だが、我々はそれに怯むことはない。


 運命という名の鎖に縛られ、どんな力を持ってしても逃れられぬ者たちだと認識している。だが、最早その鎖も我々にとっては意味を持たない。


 いよいよ、終局の時が来る。明日に。


 我々は何度も繰り返してきた。次の瞬間、次の一歩が我々の運命を決めると。そして、明日。その一歩を踏み出した瞬間、すべてが変わるだろう。


 あの者たちが手に入れると思っていた世界は、我々の手の中に収まる。そして、これまでの計画とその犠牲が無駄ではなかったことを証明する時が、明日なのだ。


 その時が来る。確実に、我々はあの者たちを超える。そして、新たな世界が築かれる。その世界を支配する者となる──明日に。


 ......それでもなお、心のどこかで我々は思っている。


 “あの日”の記憶が、完全に消え去ったわけではないのだと。仲間と協力し合い、時に裏切られ、それでもなお前に進まねばならなかった。あの日々があったからこそ、我々はこうして立ち上がることができた。


 感情は捨て去ったはずだった。だが、時折ふと、過去がよぎる。名前すら、もう思い出せぬはずの面影が、夢の中に立つ。


 .....ふん 何を今さら 


 我々が成すべきことは、ただ一つ 明日が来れば、あらゆるものが整理される 感情も、記憶も、未来さえも──全ては我々の手の内で、ただ一つの真実へと収束していく


 それでも、たまに考えてしまう


 ──アイツは これで 喜ぶのかな


 ......さあ 幕を上げよう 我々の長き旅路の果て 


 明日──終焉が、始まる

 ここまでお読みいただきありがとうございます。


 夏休みの穏やかな一日から始まった物語が、少しずつ終焉への緊張感を帯びてきました。苑里たちの関係と、明日へ向かう覚悟が交錯する第一話でしたね。


 では、また次の話でお会いしましょう。──広瀬

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