「未来は、僕が創る」
この都市――「I」、誰もが知る世界の中心地。
空を走る浮遊車、街を縦横に走る巨大な光の道、そして一瞬で物体が消える転送装置。
これらはすべて、神谷陽介が開発した「ME(Maguma Energy)」を基盤にした技術によって可能になった。
神谷陽介――彼の名は、今や世界中で尊敬され、崇拝される存在だ。
20歳という若さで、地球上のあらゆるエネルギー問題を解決する革新的な理論を打ち立て、たった5年でその技術を完成させた彼は、もはや「英雄」として讃えられている。
都市「I」の中心に立つ彼は、巨大なガラスのビル群の間にある広場で市民たちに向けて演説を行う。
その背後に浮かぶ巨大なスクリーンには、陽介が開発した技術が世界中でどれほどの変革をもたらしたかが映し出されている。
「未来は、僕が創る」
この言葉が、まるで都市全体に響き渡るように広がる。
周囲の高層ビルには、次々と光が流れ、街のシステムが彼の言葉に合わせて動き出す。
誰もがその言葉を信じ、賛美の声を上げ、彼の姿を見上げる。
その横に、神谷陽介を支える重要な人物――高坂美沙が静かに立っている。
彼女の目には、陽介に対する深い敬愛の念が浮かびつつも、どこか微かに陰りが見える。
美沙は陽介の最大のサポーターであり、彼の理論をともに支えた一人だが、陽介の目に見えない部分で何かが変わりつつあることを感じ取っていた。
彼が掲げる「未来は、僕が創る」という言葉。
その裏側には、まだ誰も知らない疑念が隠れていることを、彼女だけは知っていた。
だが、誰もその疑念に気づくことはなかった。
陽介は信じていた。自分こそが世界を変える存在だと。
そして、その信念の先に待ち受ける未来を、誰も予測できることはなかった。