「不安の兆し」
桐生が陽介宅へ向かう途中、彼の胸には先ほどの奇妙な感覚が深く残っていた。
それは確かに無視できない何かがあったという証拠だった。しかし、陽介に話すべきかどうか、決めかねている自分がいる。
桐生が陽介の家に到着すると、ちょうど美沙が庭で何かをしているところだった。
美沙「おかえり、剛ちゃん!陽介、今上がってるからすぐに呼ぶね!」
美沙の笑顔が、桐生の心をほんの少し和ませる。だが、その笑顔に浮かぶ安心感とは裏腹に、桐生の心はどんどん重くなっていった。
しばらくして、陽介がリビングに登場する。
陽介「桐生、久しぶりだな。遅くまで疲れたろ?今、ちょっと休憩してるところだ」
陽介の一言に桐生は心から安堵した。だが、その安堵の中にも、やはり強い不安が根を張っている。
桐生「ああ、少しな…でも、やっぱり気になることがあってな」
陽介が少し首をかしげる。
陽介「気になること?どうした、何かあったのか?」
桐生はしばらく黙り込むが、美沙がふっと割って入る。
桐生はしばらく黙り込むが、美沙がふっと割って入る。
美沙「何かあったの?話してみて、剛ちゃん」
桐生はそれをきっかけに、ついに口を開く。
桐生「実はな…今朝、施設で変な兆候を感じたんだ。データがちょっとおかしい。最初は気のせいかと思ったけど、何度も確認しても消えなかった」
陽介と美沙の表情が一瞬硬直する。陽介が真剣な目つきで桐生を見つめる。
陽介「それ、本当に重大なことなんじゃないのか?もっと詳しく話してくれ」
桐生は一瞬、迷いの表情を浮かべたが、すぐにそれを振り切るように話を続ける。
桐生「データだけじゃなく、なんとなく周囲の空気もおかしい気がしてな…まだ大したことはない。だけど、あれが何かの兆しだとしたら、早く対処しなきゃならない」
陽介は考え込み、腕を組んだ。
陽介「それが本当に問題だった場合、MEにも影響が出るかもしれない…」
桐生は頷き、さらに話を続ける。
桐生「今のところ、異常は確認できていない。ただの気配に過ぎないかもしれない。でも、直感で感じるんだ。何か、大きな波紋が広がりそうな予感がする」
美沙はその言葉を聞いて、少し不安そうな表情を浮かべたが、陽介は冷静にその不安を受け止めていた。
陽介「とにかく、今は無駄に心配しないようにしよう。桐生、お前の勘を信じる。それに、もし何かが起きたときにすぐ動けるように、準備をしておこう」
桐生は少し驚いたが、陽介の言葉に思わず頷く。陽介は冷静で、常に一歩先を見据えて行動している。桐生も彼に従うしかないという信頼感が芽生えた。
その後、美沙が話を和ませる。
美沙「大丈夫、きっと何でもないよ。おいしいご飯を食べて、元気を出して!ね?」
美沙の明るい言葉に、桐生も少しだけ気が楽になった。
桐生「ああ、そうだな。ありがとう」
陽介は桐生に向き直り、微笑んだ。
陽介「桐生、ありがとう。心配するのも分かるけど、みんなで一緒にいれば大丈夫だ。俺も、この都市も、美沙も、すべてを守るためにいるんだからな」
桐生はその言葉に心を打たれた。
桐生「うん、分かった…ありがとうな」
そして、3人はその晩、いつも通り楽しく食事をしながら過ごした。しかし、どこかに不安の影がつきまとう。桐生の言う「兆し」が、何を意味するのか。陽介も、美沙も、まだその意味を完全には掴みきれていなかった。
だが、この時点では、その不安がどんな結末を迎えるのか誰も知る由もなかった。




