目を覚ましたその場所は…
読みに来てくださりありがとうございます。温かい目で見てくださると嬉しいです。
目を覚ますと、俺はどこかの暗い城の中にいた。
——―真っ暗だ。
天城蓮が意識を取り戻したとき、そこにあったのは闇。まるで奈落の底に放り込まれたような、静寂と重圧。だが、次第に瞼の奥にぼんやりと赤い光が差し込んできた。瞼を持ち上げるように目を開くと、そこに広がっていたのは——見たこともない異形の空間だった。
漆黒の石材で築かれた天井は高く、赤黒い炎を灯した燭台が、等間隔に並んでいる。
壁には奇妙な紋様が刻まれ、どれも脈動するようにうごめいていた。空気はどこか湿っていて、だが嫌な感じはしない。むしろ肌に馴染むような感覚すらある。
「……どこだ、ここ……?」
蓮は身を起こし、周囲を見渡した。そこは巨大な玉座の間だった。床は光を反射しない漆黒の石で敷き詰められ、頭上のシャンデリアは血のようなルビーで彩られている。部屋の先、玉座に座していたのは、漆黒の衣に身を包んだ女——――。
「…………目覚めたようね。ようこそ、“我が魔王軍軍”へ」
目の前には、一人の女性。長い白髪、妖艶な微笑み、
――そして背中から伸びた漆黒の翼。
その声は深く、そして妖艶。まるで魂に直接響くような不思議な響きだった。蓮は立ち上がり、警戒心をあらわにした。
「私はルシェリア=ヴァル=ネーヴェ。魔族を率いる王――魔王……と言った方がわかりやすいだろうか」
蓮は息を呑んだ。現実感がない。だが、胸の内で何かが騒いでいた。ただの驚きでも、恐怖でもない。もっと根源的な……何か。
「……なぜ俺を?」
「理由は単純。我が軍には“適格者”が必要だ。そしてお前には……その素質がある。魔族としての資質がな」
その言葉に、蓮の背筋が凍った。
「俺が……魔族?」
「ふむ、そう思うのも無理はないな。だが、我らが解析したところ……お前の魂には、魔族由来の因子が深く刻まれていた。
人の世界で生まれたとしても、お前は“混じり者”だ。
人でもなく、完全なる魔でもない……。 だが、それこそが貴重なのだ。 そして、お前がこの空間に違和感を覚えぬのも、その魂が共鳴しているからだ」
蓮は、知らずに胸元を押さえた。そこには、いつのまにか刻まれた魔紋が赤く光を帯びていた。
「感じるだろう、その脈動を。魔王城の魔力が、お前の内側と共鳴している証拠だ」
たしかに、体の奥底に何かがある。まるで魔王城そのものが、自分を歓迎しているかのような感覚だった。
そのとき、玉座の間の扉が音もなく開き、二人の魔族が姿を現した。一人は黒き翼をもつ青年。もう一人は蛇の下半身を持つ女。どちらも、異形でありながら神々しさをまとっている。
「ルシェリア様、この者が例の“適格者”ですか?」
「うむ。紹介しよう。天城蓮、彼らは我が軍の13幹部の一部。左が深淵の空賊レヴァント、右が毒蛇の巫女ミュラ。いずれも、お前の同胞となる者たちだ」
蓮はまだ心の整理がつかないまま、二人を見つめた。だがその瞬間、奇妙な感覚が走った。二人の“魔”が、自分の中の何かと接続される感覚。まるで同じ回路を持っている者同士が、自然と認識しあうように。
「やはり……こいつは“こちら側”の者だな」
レヴァントがそう呟いた。
「自覚がないだけで、魂の質は完全に魔族よ。しかも相当高位の。下手をすれば……我々よりも、ね」
ミュラの目が細くなる。蓮はたまらず口を開いた。
「俺は……人間……、のはずだっ……、」
「人の世界では、魔の因子は封じられていた。だがここでは違う。魔王城は魔力の源。お前の“本質”を明らかにする場所なのだ」
セレネが立ち上がる。その歩みは静かでありながら、確かな威圧感があった。
「あなたは、勇者として召喚されたのではない。むしろ魔族向きのようだ。ステータスを見てみるといい」
俺は混乱しながらも、自分のステータスを確認してみた。すると、そこには驚くべき事実が書かれていた。
――――――――――――
名前:天城 蓮
種族:人間(異世界転移者)
所属:魔王軍直属 特別戦力
称号:異界の来訪者/魔王の選びし者
年齢:17歳
レベル:1(成長限界値 不明)
HP:200
MP:300
攻撃力:25
防御力:15
俊敏性:22
知力:35
幸運:???(測定不能)
スキル:
・《世界適応》
▶︎異世界の環境に即時適応し、潜在能力を最大限に引き出す
•・《心核の共鳴》:深く繋がった者との感覚共有
▶︎ 魔王の力に反応し、成長率と能力が飛躍的に上昇する(※魔王ルシアとの接触時に発現)
•深淵の剣王
▶︎ 天城の感情・罪・記憶に反応して“進化する”唯一の魔剣。
この剣は彼の影より生まれ、彼が成長するたびに姿も力も変化する。
••《収納》:無限収納空間を開閉可能
・《???》:現在封印中。特定条件で解放予定
特徴:
・魔族・魔王軍からのみ影響を受ける特殊な存在
・召喚時、通常の英雄召喚とは異なる魔法陣が使用された形跡あり
・成長速度は常識外れ。スキル枠の大半が「未覚醒」としてロックされている
・本人に戦闘経験は乏しいが、直感力と反応速度が高い
備考:
召喚した魔王ルシア本人が“運命の鍵”と評する存在。彼がこの世界に与える影響は、まだ誰にも読めない――。
――――――――――――
どうやら俺は、魔族としての適性が高いらしい。しかも、スキルを見る限り、ただの魔族ではないようだ。
まだ、何もわからない。
だが、心のどこかで——この場所の空気が、自分の“居場所”だと訴えかけていることは否定できなかった。
「適格者は居場所が無い者,闇を抱えているものが多い。突出した戦闘能力や技能を持っている事も相まって、この世界では忌み嫌われている」
「俺に……、戦いの才能があると……?」
「技術型の場合もあるが、お主の場合は戦闘型であろうな。――――1つ勘違いを訂正しておこう。私はお前に戦いを無理強いするつもりはない。あくまで、保護して居場所を与えるだけだ。本人の意思を尊重する。それが魔族を統率する王としての義務だ」
「居場所を…………」
考えてみれば、居場所など家族を事故で亡くしたあの時から――――無かった。
「もし、出て行くとしても止めはせん。先ほども言ったが、本人の意思次第だ。だが――、私はお前に興味がある。一緒に暮らしてみないか?」
そう言って差し出された手は、まるで戦など知らぬかのように滑らかで白く、細くしなやかだった。
「――――お願いしますっ……!」
魔王と言うのは、日本では恐ろしい存在として描かれることが多い。だが、しかし――――目の前にいる人は自分にとっての居場所のような安心感を感じる。
その瞳は優しくて――――――
「私のことはルシアと呼べ。お主の名は?」
「天城蓮です」
そう言って差し出された手を取り、しっかりと握る。
「――好きなだけいるといいさ。よろしく頼むぞ、天城蓮」
そう言ってルシアが差し出した手は、驚くほど柔らかく、滑らかだった。まるで戦場で剣を振るったことなど一度もないかのような、繊細な手。
蓮は一瞬ためらいながらも、その手をそっと握り返す。互いの手が触れ合う瞬間、妙に鼓動が速くなったのを感じた。
「これからよろしく頼む」
微笑むルシアの表情には、威厳とともにどこか人懐こい温かさがあった。だが次の瞬間、その柔らかな手が蓮の手をぐっと引いた。
「えっ──」
不意を突かれた蓮の身体がバランスを崩す。そのまま引き寄せられ、気づけば彼女の胸の中に抱きしめられていた。頬に当たるのは長い銀髪、そしてふんわりと香る花のような匂い。
「……ちょ、ちょっと待って、ルシア?」
「わ、わかってる! でも……今のうちに、こうしておきたかったの!」
魔王とは思えないほどに早口でそう言ったルシアの顔は、真っ赤だった。先ほどまでの威圧感はどこへやら、まるで年頃の少女のように戸惑い、恥じらいの混じった眼差しを向けてくる。
蓮は抱きしめられたまま、困惑を隠せずにいた。まさか、初対面で握手した直後にハグされるとは思ってもみなかった。しかも相手は、魔王なのだ。
「なんでいきなり……?」
「だって、ずっとあなたと会えるのを楽しみにしてたんだもの……。会って、話して、握手したら……なんだか我慢できなくなって……」
ルシアの声はだんだんと小さくなっていく。彼女の細い指が、蓮の背中をぎゅっと掴んでいた。力は強くない。だがその仕草には、言葉以上の想いがこもっているように感じられた。
しばらくの沈黙の後、蓮はゆっくりと息を吐き、軽く苦笑した。
「魔王って……意外と、かわいいんだな」
「なっ……!」
ルシアの顔がさらに赤くなる。その表情を見た蓮は、ようやく緊張がほどけたように肩の力を抜いた。
こうして、天城蓮と魔王ルシアの奇妙な関係が始まったのだった。
ここでなら――――俺を必要としてくれる…………“誰か”がいるなら
胸の奥に残る、詩織と高嶺の悲痛な叫びが頭をよぎり、一瞬顔を歪めそうになるが、異世界で“誰かのために生きる意味”を探し始める――
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をしていただけると、執筆の励みになります。
ブックマークもして貰えると本当にうれしいです。
よろしくお願いします!!