問題 4
その言葉を聞いた領民たちは、何を言っているんだと思うも、目が合った男だけは本気で言っている、と気づき嫌な汗が背中をつたった。
男はどうするべきか悩んでいると、いきなり頬に痛みが走った。
何が起きた?
そう思った次の瞬間、反対の頬にも痛みが走った。
理解できずにいると、また反対の頬に痛みが走った。
その痛みを繰り返し感じ、目と口が開かなくなると痛みは止まった。
男は本当に何が自分に起きたのか分らず考えていると、後ろから「ごめんなさい。許してください」と誰かが謝ってくる声が聞こえてきた。
それも1人でなはなく、結構な人数が。
もしかしたら、自分以外の全員が謝っているのかもしれない。
男がそう思った次の瞬間、パンッと音がした。
すぐにまたパンッと音がする。
音は止まることなくなり続ける。
後ろを見ても痛くて目が開かない。
男には何が起きているのか分らなかった。
いや、本当はわかっていた。
わかってはいたが、わかりたくなかった。
わかってしまえば、自分に何が起きたか知ってしまう。
馬鹿にしていた小さい貴族のお嬢様にボコボコにされ、今も体を震わせ恐怖を感じているなど恥ずかしくて認めたくなかった。
だから、男はいま自分たちに何が起きているのかわからないフリを続けた。
一体どれだけの時間が経ったのか。
全員が早くこの時間が終わってくれと願ったが、それを嘲笑うかのように夜は長く、終わりはなかなか訪れなかった。
解放されたのは空が明るくなりはじめたころだった。
途中、執事は意識を取り戻したが、ドレスを着た悪魔が奇妙な武器で領民たちを痛めている姿を見て、あまりの恐ろしさに、今度は目を開けたまま後ろに倒れ気絶した。
「彼で最後ね。罰はこれで終わりよ」
私がそう言うとあからさまに全員が助かったとホッとした。
これ以上何かされたら死んでいただろう、と全員が思っていた。
「さて、ここからは話し合いをしましょう。お願いだから、大人しく聞いてくださいね。もし、また暴れたりしたら、本当にしたくないんですが、大人しくさせますからね」
笑顔で領民たちに優しくそう言ってから、手でハリセンを叩き、音を聞かせる。
その音を聞いた領民たちは、どうやって大人しくさせられるのかを理解し、何度も首を縦に振り、大人しく聞きます、と態度で示す。
そんな領民たちの態度に私は気分が良くなり、優しく柔らかい声で話を続ける。
「そういえば皆さんは知ってますか?フリージア領民を救うために人手が必要なことを。いくら、私たちが頑張ろうと9割以上が呪われていたら全員を見ることは難しいです」
私はわざとらしくため息を吐き、大変さをアピールする。
そんな私のわざとらしい態度を見た、領民たちはビクッと体を震わせる。
言い方から自分たちはいま非難されているのだとわかったからだ。
これ以上続きを聞きたくなくて耳を塞ぎたかったが、指一本動かせないほど痛めつけられたため嫌でも聞くしかなかった。
「そんななか、皆さんが昼間、暴れてくれたおがけで食料が半分以上駄目になったんです」
アッハハハ、と私は笑う。
手を叩く。
困っている人たちを助けようと必死に動いていたのに、全てを否定され、笑う以外できなかった。
暫く私が笑っていると、領民たちを笑った方がいいのかと思いだし、引き攣った顔でハハッと笑うがすぐに後悔する。
私は領民たちの笑い声が聞こえると、一瞬で顔から表情が消え、こう尋ねた。
「面白い?あなたたちのせいで、人がたくさん死ぬかもしれないのに。ああ、もしかして、顔も名前も知らない人が死んでも関係ないから笑ったの?自分の大切な人は死ぬことはないとでも思ってるから笑えたの?お前ら、私のこと舐めてんのか?」
自分で笑う分にはいいが、笑われるのは許せなかった。
怒鳴ることはしなかったが、ただ静かに冷たく言った。
「……」
領民たちは何も言えなかった。
怖すぎて口を開くどころか、ローズの顔を見ることすらできなかった。
自分が助かりたいがために行動した結果が、こうなのだとわかっていたら、絶対に馬鹿なことはしなかったのにと後悔する。
「ふふっ、冗談よ。冗談。舐めるなんて気持ち悪い。そんなことしないわよね」
張り詰めた空気から突然、子供が楽しそうに遊ぶような空気に変わり、領民たちは動揺する。
心臓がバクバクと物凄い速さで脈打つ。
殺される。
そう覚悟したのに、冗談と言われ、全身から嫌な汗が吹き出た。
「ねぇ、私はあなた達をうまく使えることができるわ」
私は座り込んでいる男と目線を合わせて話しかけるためにしゃがむ。
「どうする?私の言う通りに動ける?動けない?どっちか教えてくれる?それ次第で全て変わるからさ。ね?」
首を傾げながら言う。
男は震える口をなんとか動かして「う、うご、けます」と言った。
他の人たちも男に続くように「動けます」「できます」と口にする。
「そう。なら、よかった」
私は領民たちの言葉を聞いて、満足して笑顔になる。
「じゃあ、言う通りに動いてもらいましょうか」
そう言ってから、彼らにこれからどう動いて欲しいのかを伝える。
伝え終わったときの彼らの表情は納得いきません、と不満げな顔だったが、ハリセンで手を叩き、パンッと音を立てたら怯えて表情に変わり、素直に言うことを聞こうと決めてくれた。
お互いに不満などない状況になると太陽が顔を出した。
朝食の時間が近づいてきた。
アスター達も起きる時間だ。
「じゃあ、行こうか」
私は彼らを引き連れ、フリージア領民全員を集めた。