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問題 3


時は遡り、昨日の夜。


ローズは執事に、あるお願いをした。


侯爵夫妻が倒れているいま、決定権は息子のノエルにあるが、その息子はいまローズの指示に従って動いている。


現にいまノエルは眠りについている。


両親が倒れたと聞いたときは、慌てて2人の元に駆けつけたが、安否を確認すると、医者から安静にしていれば大丈夫と聞いて治療施設に戻り、領民たちの治療を続けた。


本当は両親の看病をしたかったが、自分がいてもいなくてもたいして変わらない。


それなら両親は医者と執事に任せて自分にできることをした。


それが次期侯爵としての自分の役目だと信じて。


その姿を見た執事は、立派になったと喜んだが、すぐに侯爵代理の役目はどうするのかと不安になり尋ねると「公女がなんとかしてくれるだろうから、心配ない」と他人任せな発言に対して成長してないな、と思い知らされた。


それでいいのか、と思いつつも下手にノエルに任せるよりはその方がいいと判断し、ローズが帰ってくるまでの間、なんとか持ち堪えていたが、それはいつ駄目になってもおかしくない状況だった。


そんな状況で頼みの綱の人のお願いを一介の執事が断ることなどできるはずない。


執事は快くローズのお願いを了承したが、すぐにその決定を後悔した。






願いを叶えるために、執事は暴れて拘束されている領民たちの元に案内をした。


「初めまして。みなさん。私はローズ・スカーレットと申します」


私は笑顔で挨拶をする。


拘束されている領民たちは、そんな私を見て顔を顰める。


この状況で笑顔で話しかけるなんてふざけているのか、貴族だからって威張るな、と憤怒する。


中には鼻でフッと笑って馬鹿にするものもいた。


彼らは何もわかっていなかった。


目の前にいる女性が、ただの男爵令嬢ではないということを。


その中で最も馬鹿で、ある意味勇敢な男はローズを馬鹿にした。


もし、私が天才詐欺師で使いきれないほどのお金を奪い、悪魔の王を従え、妖精王に慕われていると知っていたら、決して誰もそんなことはしなかっただろう。


「あの黒い使い魔の主人はお前か。よくも、俺たちに攻撃させたな。どういう躾をしてやがる!できないなら契約なんてするんじゃね!ガキのくせに一丁前に契約なんて結んで調子に乗るから人様に迷惑かけるんだろうがかけるんだろうが!」


男がそう叫ぶと、他の者たちも「そうだ!そうだ!」と叫び、私を非難する。


私はそれを聞いて笑みを浮かべながら男に近づき、ビンタをお見舞いする。


そうしてこう言った。


「確かに、あなたの言うとおりね。私の躾が足りなかったみたい。ちゃんと言うべきだったわ。ゴミはゴミ箱に。クズには鉄槌を。人を傷つけ、自分だけ得しようとする悪党には、人間扱いではなく、それ以下の対応をしろ、とちゃんと言い聞かせるべきだったわ。主人として謝罪します。ごめんなさい」


私は謝罪の言葉を口にすると頭を深く下げて、あなたが正しいと態度で示す。


「だから、主人として私が責任を持ってちゃんとしてあげるから、心配しないで。ね?」


頭を上げて、拘束されている人たち一人一人を見ながら笑顔で爆弾発言をする。


私は魔力を右手に集める。


魔法陣が現れると執事は彼らを殺すのかと焦り、拘束されている者たちは殺されるのかと恐怖に陥る。


だが、すぐに魔法陣は消え、ただの脅しかと全員が安堵するも、私の右手にさっきまでなかったものが現れ、また恐怖に支配される。


(あれは一体なんなんだ?あの奇妙な形は武器なのか?)


執事は初めてハリセンを見て、奇妙な武器で拷問道具かと勘違いする。


「そんなに怯えないで。別にいじめるわけじゃないからさ」


私は笑顔でハリセンをパンパンと叩きながら言う。


(いや、絶対嘘でしょう)


執事はローズのあまりにも恐ろしい笑顔を見て、すかさず心の中でそう思う。


「私は貴族の令嬢よ。剣なんて持ったことのない、か弱くて、騎士達に守られる存在よ。そんな私があなたのような体格のいい相手に傷をつけられると思う?」


(思いますね。拘束されている相手なら。というか、あなた絶対にか弱い存在ではないですよね)


執事は口には絶対に出さなかったが、ローズの雰囲気から、自分より大きい相手に余裕で勝てるだろうと予想できた。


執事としての経験か、長く生きていたからかは分らないが、執事はローズがどれほど恐ろしい存在か当てることができたが、拘束された領民たちはその恐ろしさが分らず、「その武器で俺たちを拷問する気ならやればいい」と馬鹿にした表情を浮かべる。


そんな彼らの表情を見た執事は、いくら今が普通の状態ではないにしても貴族相手にそんな態度を取れば殺されても文句は言えないぞ、と血の気が引き、どう許しを請うか悩んでいると、「大丈夫」というような表情でローズに肩をポンと優しく叩かれた。


肩を叩く手は優しかったが、表情は物凄く恐ろしく「終わった」と執事は立ったまま気絶した。


「まぁ、でも、あなた達には罰を与えないといけないわ。私の部下に喧嘩を売っただけでなく、食材を駄目にし、そして、私に対して無礼な態度で接した。殺されても文句は言えない。あなた達が置かれている今の状況は、そういうところまできてるのよ。わかる?」


私は彼らの置かれている状況を丁寧に説明するが、興奮している彼らにその言葉は届かなかった。


「殺す?できるもんならやってみろ!」


1人の男が大声で叫ぶ。


侯爵なら自分たちを絶対に殺すのを許すはずがない、とわかっていて強気の態度を取る。


貴族が平民に裁判所を通さず罰を与えられるのは自分の領地に住む者たちだけ。


他領の領民を罰するには裁判所の許可を取るか、その領地をおさめる貴族の許可を得るかのどちらかだ。


勝手に罰を与えるのは許されない。


階級が公爵なら話が別だが、男爵家の令嬢が上の階級の貴族の領民を罰するなど許されるはずなどない。


執事が側にいるが、侯爵夫妻は倒れて、まだ目を覚ましたという話は聞いてないので、これは勝手にやっていることだと男には予想できた。


男の予想は半分当たっていたが、半分は外れていた。


「殺す?どうして私が?私は殺さないわ。そんな勿体ないことしないわ?」


(勿体ない?面倒や自分の手を汚すなんてしないじゃなくて、勿体ないって言ったか、この女は?)


男はようやくローズが普通の令嬢ではないということに気づいた。


だが、それでも世間知らずのお嬢様であることに変わりはないだろう、と余裕の態度を貫く。


今ここで過ちを認め謝罪をしていれば、男も他の者たちも助かった。


だが、全員ローズには何もできないと馬鹿にしていたので謝ることなどなかった。


何度も許しを請う機会を与えられていたのに、自らそれを潰してしまった彼らは、罰を与えられてから、ようやく己の愚かさに気づいた。


「私はね、どんな人間でも、ちゃんと使ってあげられるから」


ね、と男の目を見て笑う。


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