問題 2
探す手間が省けてラッキーと思ったのも束の間、深刻な顔をした執事に話があると言われ、人気のない部屋へと連れて行かれた。
大体何を言われるか予想はつくが、疲れているのでさっさと話を切り上げて休みたい。
「どうぞ」
執事は紅茶を私の前に置くと立ったまま話をしようとするので、座るように促す。
'ここ私の家じゃないけど'
おかしい、勝手に座ればいいのに、と思うもこの世界では貴族の許可なく平民が目の前に座ることなど許されないので仕方がない。
執事は本当にいいのか、と思いながらも言われた通りに座る。
'あいつらと全然違うわね'
恐る恐る座る執事を見て、これが本来の貴族と使用人の関係なのかと知る。
ルネとシオンの2人にも少しくらい主人を敬う心を持って欲しいと思いつつも、使用人ではないため期待するだけで無駄。
それでも一応、使用人たちと同様に主人に仕える契約をしている。
対価として報酬を払っている以上、立場は同じだ。
そこまで考えるも、あの2人が変わることはないだろうという結論に元々至っていたので、それ以上考えるのをやめて話に集中することにした。
「それで、私に話とはなんでしょうか」
さっさと話を終わらせて休みたくて無駄話もせず本題を聞く。
「……」
執事は言うのを躊躇っているのか、口を少し開けては閉じるを繰り返す。
何をそこまで躊躇うのかはわからないが、言おうとしていることが相当言いにくいことには間違いない。
執事が自分から言ってくれるのが一番だが、疲れた体を早く休ませたくて、緊張せず、話しやすくなるように優しく声をかける。
「大丈夫ですので言ってください」
「……はい」
暫く悩んだ後、執事は返事をしてから言うか悩んでいたことを話し出す。
「実は、公女様が持ってきてくださった小麦粉が今日の暴動で半分以上駄目になってしまいました」
'え……?はぁ!?ちょ、嘘でしょ!?'
私はなんとか顔と声に出すのは我慢して平静を取り繕うが、内心では焦りまくっていた。
応援がくるまで、まだ5日ほどかかる。
彼らも急いでくれるだろうが、それでも数時間早く着くがどうかだろう。
'……終わった'
私はフッと笑いながら天井を見る。
食事は生きるために必要不可欠な行為だ。
水と睡眠をしっかり取れば2、3週間は食事を取らなくても大丈夫だが、ここにいる人たちは私たちがくるまでの間、大半の人が食事をとっていなかったし、呪われて体が衰弱しているいま、食事を取れないということは死を意味する。
'さて、どうするか'
過ぎたことをこれ以上後悔しても仕方ない。
どうにかして応援がくるまでの間やりくりをしないといけない。
人手が足りてないことだけでも頭が痛かったのに、それに加えて食料不足も加わった。
考えるのを放棄して大声で叫びたいのをグッと堪えて、対策を考える。
'とりあえず食料調達をしないといけない。そのためには人手がいる。ああ!クソッ!余計なことしてくれたおかげで仕事が増えたじゃない。全くどこのどいつよ!仕事を増やしてくれた馬鹿は!それでなくても人手不足なのに!!'
執事に悟られないよう、彼にはこれからどうするかを静かに考えているみたいに見えるよう取り繕っていたが、内心は部屋を荒らしたいほどイライラしていたが、突然自分の言葉で閃いた。
'ん?……あれ?もしかして?いけるくない?いや、いけるよね。これなら人手不足も解消できる'
私は自分の天才的な閃きに、つい嬉しくなり笑みが溢れる。
それを見た執事は私が怒っていると勘違いして、恐怖で体が震え、どうしたら許してもらえるか考えた。
だが、どれだけ考えても許してもらえる気がせず、執事は何か言わなければと口を開くが、さっきよりも怖い笑みを浮かべながら「フッフッフッ」と笑い出すローズを見て、目と口を開けたまま気絶した。
意識を取り戻した後も、まだ笑っていて執事はフッとわらってから、また気絶した。
見捨てないで助けて欲しいとお願いしたかったのに、結局きちんと話し合いができたのは、それから結構後だった。
※※※
「なぁ。一体何があれば俺たちが寝てる間に、あいつらの顔が変わるんだ?」
ルネは近くにいたものに尋ねる。
昨日、薬を盗み拘束された領民たちの顔が倍の大きさになっていた。
本当に人間かと疑ってしまうほど顔が化け物に変わっている。
昨日、薬を盗んだ人たちと言われるまで誰1人気づかなかった。
家族や友人ですら気づかないレベルだ。
ルネたちが気づけなくてもおかしくはない。
「さぁ?わかりませんが、お嬢様ならできるのでは……」
ルネの問いかけにオリバーが答える。
その言葉に「確かに」と全員が納得する。
「でも、なんであんなことを?ここは主人の領地じゃない。領民じゃないんだ。あんなことをすれば問題になるんじゃないのか?ここを治める人間は主人より階級が上だろ?大丈夫なの……か?」
シオンは心配でそう言うが、少し離れたところで物凄い笑顔で話をしている主人を見て、心配するのが馬鹿らしくなった。
心配しないといけないのはここの人間たちの方だったな、と。
他の者たちもローズの顔を見てシオンと同じことを思った。
早く自分たちのやるべきことをやらなければと思うが、同じくらいローズが何をこれからやるのか気になって、その場から動くことができなかった。