不満
「よし、次に行こうっか」
呪いを見つけた以上ここにいる必要はない。
さっさと次の怪しいところに向かおうと歩き出すが、アスターに声をかけられ足を止める。
「え?お嬢様。呪いは探さないのですか?」
「もう見つけたわよ。あんたが休んでる間に」
私は目をカッと広げながら言う。
'顔怖いな'
アスターは私の顔を見て、不細工な顔をしながら嫌な言い方をするなと思いながらも、事実なので言い返すことができず黙って聞いた。
「どこにあったんですか?」
アスターは嫌味を聞き終わると、きた道を戻りながら尋ねる。
「花畑の真ん中にあったわ」
さすがに花の下に呪いの模様があるとは思わなかったので、全部調べ終わったあと、ダメ元で探したのに、見つけたときはそこに呪いを書いた者への怒りが湧き上がった。
'え?そんなところに?よく見つけましたね。あ、だから全身に花びらをくっつけてたのか'
アスターは想像もしていなかった場所に呪いの模様があったことに驚く。
そして、よくそんな場所も探したなと感心した。
「なんで、そんなところに……そもそもなぜ花畑なんて作ったんですか?」
アスターにはわからなかった。
呪いと花畑にどんな関係があるのか。
どれだけ考えても答えが出ず、彼女ならわかるかもしれないと思い期待して尋ねるが……
「は?そんなの知らないわよ。私が知るわけないでしょう。呪いかけたの私じゃないんだから」
と、馬鹿にするような口調で言われた。
アスターはその答えに不満げな顔をする。
他の人ならそう言われても何も思わないし、そもそも言わない。
ローズだから、わかるかもしれないと思って聞いたのに、きちんと聞く相手を選んでから聞いたのに、まるで何も考えられない子供のような者認定されたことに憤りを感じるも、反論することもできないので、黙ってその言葉を受け取るしかできなかった。
そのまま2人は次の場所に向かうが、アスターは暫くの間、子供のようにはぶてていた。
それでも空気は良く問題はなかったが、その頃の治療班では、こことは違い険悪な空気が流れていた。
※※※
「ちょっと!さっきからうるさいんだけど!」
フリージアの人達を朝からずっと治療をしていたアイリーンは焦りと責任、疲れからか、いつもは我慢できるルネのお腹の音に、今回は我慢できずに怒鳴る。
といっても、1時間は我慢した。
「しょうがないだろ。生理現象だ」
ルネはお腹が空きすぎてイライラして、いつもより冷たい口調で吐き捨てるように言う。
「ここは治療場よ。そんな所でずっとお腹を鳴らすなんて普通あり得ないわよ」
アイリーンの言い分は正しい。
死にかけている人達を見たら、普通食欲などわかない。
ただ、ルネに関しては死にかけている人達を見ても食欲が湧くのは当然のことだ。
反乱を起こして封印される前までは、死んだ人達も痛ぶる仕事をしていたため、ルネにとっては今の状況でお腹が空くのはおかしいことではない。
寧ろ、普通のことなのだ。
「それはお前らの基準だろ。お前らの基準で俺様を測るなんていい度胸じゃねーか」
ルネはオーラを纏いながらアイリーンを挑発する。
「やるつもり?ご主人様のご好意でそうしていられるのに。それすら裏切るというなら容赦しないわ」
アイリーンもオーラを纏いながら、ルネの挑発に乗る。
いつもの2人ならこんな些細なことで喧嘩になどならならないが、呪いのせいで時間がない焦りや、治療したのに文句を言ったり、自分勝手な言動をする人間にうんざりしていたのが爆発して喧嘩をしてしまった。
寧ろ今までよく喧嘩をしなかった。
妖精と悪魔は顔を見合わせれば必ずと言って良いほど戦いが始まる。
それなのに戦いが起こらず、今まで平和に暮らせていたのだから奇跡としか言いようがない。
それも、もう終わりだと2人は覚悟したそのとき、パンッと手を叩く音が部屋に響いた。
その音で2人はハッと我に返り、纏っていたオーラを消した。
ルネがオーラを纏った瞬間に異変を察知して、急いで状況確認のためルネの元へと向かったため、なんとか間に合った。
「2人共。今は喧嘩をしている場合ではありません。それに、2人が喧嘩をすれば周囲のものがどうなるかくらいわかるでしょう」
オリバーはなんでことのないように淡々と話をするが、実際は手足が震え、全身から嫌な汗が湧き出ていた。
当然だ。
妖精王と悪魔の王のオーラなど人間には普通耐えられない。
耐えられるとしたら、同等の力を持ったものでないと無理だ。
オリバーは執事のため、基本剣を握らないので到底その境地には達することはできない。
だが、ここを任された以上止めないわけにはいかない。
怖かろうが、逃げ出したかろうが関係ない。
'私の役目は1人でも多くの命を救うこと'
そのためにも、2人の喧嘩は止めなければいけなかった。
「すみません」
アイリーンは自分の軽率な行動に謝罪をするが、ルネは横を向いて口を固く閉ざしていた。
ルネが謝るとは最初から思っていなかったので、気にせず話をする。
「私たちはお嬢様にここを任された身です。例え何があろうとも、その命を全うしなければなりません。それがお嬢様に仕える者の使命ですから」
オリバーはそう言いながら、昔は違ったのにいつからそう思うようになったのか考えた。
まるで別人のようにかわり、スカーレット家を建て直し、国王からも一目置かれるようになった彼女をいつから信じるようになったのか。
借金が消えた日か、温泉を作った日か、領民に仕事を与えた日か、国王に甘味料を売りつけた日か。
信じようと思った日がいつかは思い出せなかったが、その日に誓った想いなら昨日のことように覚えていた。
決して何があろうとも、この身が危険にさらされようとも、お嬢様の命は必ずやり遂げる、と。
それが間違いなく、この世のためになると確信したからだ。
「はい。その通りです」
アイリーンは今のオリバーの言葉を聞いて自分がなぜローズと契約したかを思い出した。
そのお陰で、今自分が何をしなければいけないのかはっきりとわかった。
「わかっとるわい」
ルネはアイリーンとは違い吐き捨てるように言う。
契約がある以上、問題を起こすわけにはいかない。
止めてくれたオリバーに感謝する。
契約項目には人を傷つけることを禁止ている。
ローズから許可をもらった人は問題ないが。
ここではもらっていない。
もし、アイリーンと喧嘩をして誰かが傷ついたなんてことになれば、と想像しただけでルネは気分が悪くなった。
お陰でお腹の音をおさまり、2人は昼食の時間まで喧嘩することなく、互いにやるべきことをやった。
その頃のシオンは1人、気楽に魔物退治をしていた。
気楽だったが、数が多すぎて誰でもいいから手伝ってほしいと思っていた。