知りたい
「ないわね」
アスターたちにセイレーンの鱗どりを任せている間、周辺を捜索するが呪い関連は一向に見つからない。
ここにはないのだろう、とそう結論づけ次の場所に移動するため3人の所へと戻る。
その戻る途中でなぜか急に真っ黒な海が気になり立ち止まって数秒眺める。
'さすがに海の中に、なんてことはないよな'
もしそうだったら探すのが大変だし、濡れるし最悪だ、とそのことを想像しただけで面倒でやりたくなくなる。
どうか予想が外れてますように、と祈りながら急いで戻り、ルネに尋ねると天に思いが届いたのか「それはない」ときっぱりと断言してくれた。
それを聞いた私は嬉しすぎて心の中で何度もガッツポーズをした。
「それより、主人。一つ聞きたいことがある」
私が喜ぶのあまり天を拝んでいると、怪訝な顔をしたルネがそう言った。
「ん?なに?」
私がそう言うと、ルネは目を瞑ってゴホンと咳払いして、片目だけ開けてから小さな声でこう言った。
「あれは一体どういう魔法なんだ?」
「あれ?」
私はルネの言う「あれ」が何をさしているのかわからず首を傾げる。
悪魔の王が知りたがる魔法なんて使えないので、どれだけ考えてもわからない。
そもそもこの世界の人間ではないのでわかるはずなどない。
「あれだよ、あれ。さっき使っただろ?」
'さっき使った魔法って言ったら……あの爆発のことか?'
さっき使った魔法は一つしかないのですぐに思い出すも、本当にこの魔法のことを言っているのかわからず眉間に皺を寄せて首をさらに傾げる。
'石に爆発させる魔法をかけるだけの魔法をこいつが知らないなんてあり得ないし……いや、でもまさか……'
どけだけ頭の中で同じ問答を繰り返したのかわからない。
結局答えは出ず、さっさと聞いてスッキリしようと思い「石にかけた魔法のこと?」と聞くと、ルネは「そうだ。それだ」と言って右頬に突進してくる。
結構な速さで突進されたので、痛くてよろけてしまう。
私は無言でルネを掴み睨む。
そして目で訴える。
ーー次やったらどうなるかわかってるよな、と。
ルネは無言で首を何ども縦に振って「もうしない」と訴える。
「それで、その魔法がなに?」
ルネを離し、首を回しながら聞く。
「あれは一体どんな魔法なんだ」
「どんなって。普通に石に爆発魔法をかけただけよ。こないだ買った本に書いてあった、あれよ。あんた、それ見て馬鹿にしてじゃない。もう、忘れたの?」
'ジジィだからボケてんのか?'
ルネが真剣に聞いているのは顔を見ればわかるが、知っている魔法なのに知らない魔法みたいに言うので、心配になる。
本来の姿が人間の20代後半のような見た目だとしても、実際は1000年以上生きたおじいちゃんだ。
爆発魔法など、ルネからしたら下の下の下だ。
いくらこないだ馬鹿にした魔法出しても、結構な年なのどから忘れていても仕方ないな、と憐れむような目を向ける。
「嘘だ!」
「嘘じゃないわよ」
ルネがいきなり耳の近くで大声を出すので、驚いて顔を顰める。
「嘘だ。あの魔法はあんな威力はない。あのときだって、木に少しダメージを与えるだけだった。それなのに、今回はセイレーンを全滅させた。絶対他の魔法だ。教えろ」
ルネは私が爆発魔法を試しで使った時のことを指摘する。
確かに、その日は今日のような威力はなかった。
だが、それは当然のことだ。
地上と海中の中では威力が変わるのは当たり前なのだから。
そこまで考えて私はある一つの仮説が浮かんだ。
'まさか、こいつ陸と海では爆発の威力が変わることを知らないのか?'
だが、すぐに今頭に浮かんだ考えを黒く塗り潰す。
いくらボケた年寄りでも、知らないわけがない。
それに、この世界にも学者みたいな存在はいるはず。
いくらこの世界が中世ヨーロッパを真似た世界だとしても、書いた人間は現代人。
それに魔法の世界。
元の世界の進んだ化学でも真似できないような魔法が存在しているのに、陸と海では爆発の威力が変わることを知らないなんてことがあり得るのだろうか。
「ルネ。まさか、あんた知らないの?」
私は震える声で何とかそう言う。
「何がだ?」
ルネはいつものように馬鹿にされたと思いムッとした顔をする。
「陸と海では、同じ爆発でも威力が違ってこと……もちろん、知ってるよな?」
私は「頼む。知ってると言ってくれ」と心の底から祈りながら、引き攣った顔で言う。
「……?何のことだ?」
祈りなど虚しく、ルネは知らないと言う。
後ろで話しを聞いていたアスターとシオンもルネと同じ表情をする。
ーー何言ってんだ、こいつ?
そんな表情をするので、まるでこっちがおかしいみたいな感覚になる。
ルネだけならまだしも、アスターとシオンもなので、もはや疑う余地もない。
この世界の知識は現代と比べて遥かに劣る。
当然と言えば当然なのだが、魔法があるためきっと知識に関しては現代に近いはずだと思っていた。
だが、よくよく思い返してみれば、そんなはずないとわかる。
何より、衣食を見ればどれだけのレベルかなど一目瞭然だ。
住に関してだけは現代と同等のレベル。
寧ろ、上かもしれない。
但し、それは魔法で作った建物に限る。
平民の家に関しては比べるレベルではない。
男爵家の屋敷は貴族の屋敷だが、正直に言うと現代の高級マンションの方が綺麗だ。
でも、フリージア侯爵家の屋敷は現代の技術と変わらないで綺麗で丈夫だ。
だが、衣食は最悪だ。
他にも色々と最悪なところはある。
本当に思い返せば、知識も最悪なのだろうと簡単に想像がつくのに、なぜ今までわからなかったのか理解できない。
他のことで忙しかったとしても気づくべきだった。
誰も知らないことを最初にやってのけたものは、後世に語り継がれる。
そして今現在生きている人たちから感謝されるだろう。
だが、それが多ければ?
一個の分野だけでなく他分野で活躍すれば?
どうなる?
答えは簡単だ。
自分より地位も権力も上のものにいいように使われて、死ぬまで働かされる。
'ふざけんな!それだけは絶対にごめんだ!私はこの世界では遊んで暮らすんだ!絶対に!!'
元の世界で身につけた知識のおかげで食は改善されてきたが、これ以上知識を使って何かすると、目をつけられることになる。
そうなれば遊んで暮らすという夢が潰れてしまう。
これからは気をつけて行動し、目立たないように生きていこうと決意する。
但し、フリージア領の問題が解決した後から。
ここまで首を突っ込んだ以上、それなりの報酬を手に入れなければ全てが無駄になる。
'もし、面倒なことになったら逃げればいっか'
そう自分に言い聞かせながら、早く教えろと目で訴えてくるルネに陸と海での爆発の違いを説明する。