探索班 2
「信じられねー。この女。俺様が働いているってのに、寝てやがる」
黒い霧を発生させてた木の魔物を倒し、ローズの元に向かったルネは、気持ちよさそうに寝ている彼女を見て怒りが込み上げてくる。
「ふざけんな!起きやがれ!俺様が戻ってきたぞ!スイーツをよこしやがれ!対価を払え!」
ルネはローズの顔の周りを飛びながら大声で言う。
そのお陰かローズは目を覚ましたが、近くにいすぎたせいで「うるさい」と虫を払うみたいに手を振って追い払おうとした手に、運悪く当たりまたもや飛ばされ木にぶつかってしまう。
「なんなのよ?うっさいわね」
無理矢理起こされ大欠伸をしながら体を起こす。
「ん?ルネ。あんた何してんの?」
私は木に逆さまで張り付いているルネを見て、変なやつだなとルネに白い目を向ける。
'誰のせいでこうなったと思ってんだ!クソヤロー'
ルネは口元をピクピクさせながら、思ったことを口にしないよう必死に耐える。
「まぁ、いいや。戻ってきたってことはあの霧どうにかしたのね。原因はなんだったの?」
ルネが変なのはいつものことなので気にしないことにした。
ベットを消し、今度は椅子を作って座る。
「木の魔物だ。そいつが黒い霧を発生させた」
ルネは木から体を離す。
「てか、何1人だけ寝てやがる。俺様はこんなに頑張ったって言うのに。褒美をよこせ」
ルネは小さい手を出してスイーツを要求する。
「なんでよ」
私はルネの手を叩く。
「俺様は1人で魔物退治をしたんだ。主人は何もしなかっただろ。だから、褒美をよこせ」
ルネは小さな体でピョンピョンしながら怒りを表現する。
'悪魔の王も小さかったら全く威厳もクソもないわね'
可哀想に、と他人事のように私はルネを憐れむ。
「ルネ。あれなーんだ」
私は笑顔で模様が入った木を指差す。
「は?あれって……!」
ルネは私の指の先に視線を向け、呪いの木を見つけて「嘘だろ」と思う。
全身から冷や汗が出てきて、数秒前の自身の失言を後悔する。
「それで、一体誰が何もしてなかったって?ん?誰かさんが魔物と遊んでいる間、私は1人で呪いを見つけたんだけど?」
探したと言えば嘘になるが、見つけたでは嘘にはならない。
たまたま見つけたと言え、私が見つけたことには変わりない。
休んでいたが、ちゃんと呪われた木は見つけたし、やることはやったし文句を言われる筋合いはない。
「……」
ルネは口をギュッと一文字にして汗をダラダラと流す。
「どうした?黙って?ん?」
私は魔法で巨大なハリセンを取り出し、パンパン叩く。
「……」
ルネはハリセンの音を聞いて、また叩かれるのかと思うと泣きたくなる。
悪さや、つまみ食い、仕事を放棄して遊んでいるのを見つかるたびにハリセンで叩かれた。
最初はそんな紙で叩くなど馬鹿な人間だと嘲笑っていたが、叩かれた後ではそんなこと言えなくなった。
叩かれると全身に激痛が走る。
それに今のルネの体は手のひらサイズなので一回ハリセンで叩かれると吹っ飛んでしまう。
「誰が誰に文句言ってるわけ。ブッしばくわよ」
ハリセンで、とは言わなかったがルネには何でしばかれるかわかっていた。
「すんません。許してください」
ルネは先程の態度とは180度変わり、土下座で謝る。
「次はねーからな」
肩にハリセンを乗せてルネを見下ろす。
'フッ。チョロいぜ。この程度で俺様が反省するわけないだろ'
ルネはローズが後ろを向いた瞬間、許されたと思いニヤリと笑う。
最初の頃は人間に頭を下げて謝るなどプライドが許さなかったが、スカーレット領に住み始めてからは考えが変わった。
人間は謝れば大抵のことは許してくれるし、可愛こぶれば甘やかしてくれる。
物を割ったり、迷惑をかけたとき謝れば笑顔で許してくれるし、謝れたことを褒めてくれる。
嫌な仕事や欲しいものがあるときに可愛こぶれば望むように動いてくれる。
きっとローズもそうだと信じていたルネは、予想通りの結果に満足して顔を上げるが……
「……って言うと思ったか、このクソジジイ!」
ルネは忘れていた。
自分の主人がどんな人間かを。
どうして自分が人間と契約し、使い魔のように過ごすようになったのかを。
ハリセンでぶん殴られ、その勢いで木にぶつかってようやくルネは思い出した。
自分が契約した人間は悪魔より悪魔で、普通の人間とは違うということを。
「ぶっ飛ばすぞ!コラァ!」
'もうぶっ飛ばされたわ'
ルネは木に沿ってズルズルと落ちていきながらそう心の中で呟く。
「どうせ、あんたのことだから、適当に謝ってれば人間は馬鹿だから許してくれると思ったんでしょう?えぇ?悪いけど、そんなクソみたいな手、私には通用しないから。あんたの考えることなんて手に取るようにわかるから」
長年、詐欺師として生きてきた私は、いつの間にか相手の目を見るだけ何を考えているのかわかるようになった。
無表情だろうが関係ない。
目は口ほどに物を言う、ということわざがあるように、どれだけ口で嘘を吐いたとしても、目だけは誤魔化せられない。
演技したり、自分を騙して相手を騙そうとするものは沢山いるが、誰1人として私を騙すことなどできなかった。
そんな者たちですら無理なのに、今まで好き放題に生きてきて、最近他人を騙すことに快感を覚えたばかりのルネに勝ち目などあるはずがない。
「すみません。ごめんなさい。もうしません」
ルネはハリセンで叩かれながら謝るが、心の中ではありとあらゆる言語で罵倒していた。