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フリージア領


「あれ?私、自己紹介してませんでしたか?」


私はノエルの言葉で自己紹介をしていないことに気づいた。


さすがにやらかしたな、と思いながら軽く咳払いをしてから名を名乗る。


「今さらですけど、改めて自己紹介しましょうか。私はローズ・スカーレットと申します。先程、公子様がおっしゃった雪男と契約した人物とは私のことです」


男爵家の者とバレた以上、ノエルに対して敬語を使わなければいけないことに、内心面倒くさいと思いながら貴族としての規則に従う。


「……!」


ノエルは私の態度がいきなり変わったことに驚きを隠せなかった。


見た目や言動からどう見ても貴族には見えなかったが、今の自己紹介で見せた口調や所作は完璧で、どこからどう見ても貴族にしか見えなかった。


さっきまでと全然印象が違うなと少し混乱していたが、ふとあることを思い出した。


'あれ?俺って侯爵家の人間だよな?で、ローズ・スカーレットは男爵家の人間だよな?それなのに、なんで、年も階級も上の俺にタメ口?態度もデカかった。俺が侯爵の人間って知ってたのに?タメ口?'


この世界では階級は絶対。


どの家に生まれるかで人生が決まるくらいの階級世界。


そんな世界で生きてきたノエルには、侯爵家の人間とわかっていてタメ口で話しかけ、殴ったり、容赦なく脅したりする思考回路が理解できず混乱してしまう。


「公子様。何かおっしゃりたいことがあるなら、どうぞ、遠慮なくおっしゃってください」


何か言いたいげに見てくるノエルに言いたいことがあるならはっきり言えと遠回しに言う。


「いや、なんでもない。ただ、君があのローズ・スカーレットだということに驚いただけだ」


'正直に言ったら怒るくせに!'


ノエルはタメ口で話したことを指摘し、揶揄ってやろうとするも、すぐにそんなことをすれば自分の身が危険になると思いやめる。


さ笑顔でなんでもない、と言う選択しかなかった。


「そうですか」


私はノエルの言葉を聞いて少し驚いた。


タメ口や失礼な態度のことを言われる子かと思っていたが、笑顔でなんでもないと言われ大人の対応もできたのだと少しだけ困惑したが、すぐに気を取り直し「では、行きましょうか」と言って氷の鳥に乗り、フリージア領へと向かう。






※※※







「想像以上に酷いわね」


私は暗くなった海を見て顔を顰める。


フリージア領にはまだ着いていない。


着くまでもう少しかかるのに、ここまで離れた海にまで被害が出ていることに思った以上に深刻なのだと知る。


「シオン。スピード上げて」


私は少しでも早く着いて治療をしなければと思いそう言った。


「ああ」


シオンはそう返事をすると速度を上げる。


時間にすると2分程度でフリージア領に着いた。


最初に侯爵に挨拶とノエルのことを報告しないといけないので、屋敷のところに降り立つ。


普段ならこんなことをしたら罪に問われるが、今が緊急事態なのと、ノエルも一緒といることで許されるとわかった上で私はシオンに降りよう指示をだした。


私たちが鳥から降りると侯爵と夫人、騎士達が慌てて駆け寄ってくる。


侯爵は私の顔を見た後、ノエルに気づき、息子が何かやらかしたのかと思い、頭が痛くなりながら騎士達に心配しなくていいと手で合図を出す。


その合図を見た騎士達は警戒を解く。


「お久しぶりです。ローズ嬢」


先に侯爵が挨拶をする。


「はい。お久しぶりです。侯爵様」


'やつれてるな。この間とは別人みたいだな'


侯爵がスカーレット領にきて、ジャムを売った時が何年前かのように感じるほど、今の侯爵はやつれていて心配になる。


「連絡もせず、いきなり訪問したことをお詫び申し上げます」


男爵家の者が侯爵家に許可も貰わず、訪問するなど本来なら許されないので謝罪をする。


「いや、気にしないでください。息子がご迷惑をお掛けしました。連れてきてくださり感謝します」


侯爵は頭を下げてお礼を言う。


何があったか知らないが、ノエルが一緒にいる時点で何かやらかし、連れてきてくれたのだと気づいていた。


そもそも、ノエルの着ている服が普段とは違って装飾も色も地味なので、服を借りるような何かをやらかしたことに頭が痛くなる。


「ノエル。話しは後で聞く。中に入ってなさい」


侯爵は鋭い目つきでノエルを見て、冷たく言い放つ。


ノエルが言い返そうとする暇も与えず、私に向かって今度は柔らかい目つきで優しくこう言った。


「ローズ嬢。此度の件のお礼は後日、必ずさせてください。申し訳ないが、今日はおもてなしするのが難しいため許して欲しい」


遠回しにここは危険なので早く帰るよう言う。


侯爵家は魔法使いたちの結界のお陰でなんとか清潔さを保っているが、結界から一歩でも出れば空気は淀み息苦しさを感じる。


町はもっと酷い。


お礼などいつになるかわからないが、迷惑をかけた分は必ず何かしなければと、負担がさらに増え、侯爵は頭が痛くなるがそれを顔に出さず微笑む。


「ありがとうございます。楽しみにしています」


'さすが、国王の最側近。いくら大変でも顔には出さないわね'


だが、ここに来たのはノエルを送り届けるためではない。


それはついでだ。


「ですが、今日訪問したのは公子様を送り届けるためではありません。フリージア領にかけられた呪いを解くためです」


「!?」


私の言葉に侯爵は驚きのあまり息を止めてしまう。


すぐに冷静さを取り戻し、何故をそれを知っているのか、領民を救えるのか、色々聞きたかったが、金魚のように口をパクパクさせるだけで声は出なかった。


そんな侯爵の表情を見て私は何を言いたいのかがわかり、順を追って呪いを知ったきっかけから話す。


全ての始まりはノエルがセイレーンに呪いをかけられ化け物としてスカーレット領の海に現れたことが始まりだと言うことを。

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