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水の妖精


「できた。思った以上に私すごくない?海でこれだけのものを作れるなんて」


私は出来上がった料理を見て、自画自賛をする。


「本当に素晴らしいです。ご主人様。どれもとても美味しそうです」


いい匂いにつられて飛んできたアイリーンは、出来上がった料理を見て目を輝かせる。


早く食べたい、と飛び回る。


「本当に美味しそうです。お嬢様、これらはなんて言う料理なのですか?」


オリバーも匂いにつられてきた。


丁度いいところで薬品作りが終わったというのもあるが、匂いのせいで食欲がそそられ、作業どころではなくなった。


「これは刺身、こっちはイカ焼き、こっちは茶碗蒸し、こっちは天ぷら。今日は魚介バージョンよ。それで、これらはタコのカルパッチョと白身魚のカルパッチョよ」


私は作った料理名を言うが、これらは全て元の世界での名前であるため、言ったところで何を言っているのかオリバーにはわからなかった。


'刺身?イカ焼き?茶碗蒸し?あ、天ぷらはわかる。ん?タコのカル、白身魚のカルなんとかとは?'


オリバー初めて聞く単語に混乱し、最後は何を言っているのか聞き取れなかった。


隣で聞いていたアイリーンも同じような顔をして首を傾げる。


ふと、アイリーンを見てさっき指示したことを思い出した。


「それより、アイリーン。水の妖精は?」


料理を作っているときに話しかけられると思っていたが、結局話しかけられなかった。


それどころか完成した料理を見て目を輝かせて、水の妖精の話をしようともしない。


私は不思議に思いながら、アイリーンにそう尋ねた。


「もうすぐ来るはずです」


'妖精王の呼び出しよりも優先することがあるなんて珍しいわね。まぁ、急いでないし、いいけど'


妖精は自分の仕える王の呼び出しには例え契約した人間の命が危険でも、それを放って呼びかけに応じると書かれていたため、私はその妖精の行動を変に思うも、アイリーンより弱いので問題ないと判断し、くるのを待つ。


「そう?なら……」


いいわ、と続けようとしたが、急に目の前魔法陣が現れた思った次の瞬間には、それはお尻に変わった。


'誰だ?いきなり人の顔の前にケツを見せる馬鹿は'


私は目の前のお尻を叩くか蹴るか悩む。


どっちも捨てがたくお尻を睨みつけていると「遅くなり申し訳ありません。アイリーン様の呼びかけに私、ルュールュエが参りました」と声が聞こえた。


'ん?アイリーン様の呼びかけって言ったか?ってことは、人の目の前にケツを見せるこの馬鹿は私が頼んだ厳格な妖精なのか……'


怒るに怒れず、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする。


「シオン」


私は落ち着くとシオンを呼ぶ。


「どうした。主人」


シオンはつまみ食いしようとしていたのがバレたのかと思い、怒られると身構える。


「ノエルを少しの間、眠らせて」


「あ、ああ、わかった」


怒られると思っていたのに、違う案件で呼ばれたとわかると安心し、眠り魔法を発動させノエルを眠らせるも「あんた、つまみ食いしようとしてたわね」と言われ固まってしまう。


何も言えず固まっているシオンに追い打ちをかけるように私はこう言った。


「もし、食べてたらあんたの昼飯はそれで終わりだったからな」


止めた私に感謝しろよ、と。


それを聞いた瞬間、シオンは全身の穴という穴から汗が吹き出し「二度つまみ食いをしようとしない」と固く誓った。




「ルュールュエ」


アイリーンは優しく名を呼ぶ。


「はい」


ルュールュエの声は震えていて顔を見なくても泣き出しそうなのだとわかった。


1000年間封印されていた自分の主人にようやく会えたのだ。


泣きそうになるのも無理はない。


「久しぶりね」


「はい」


「元気にしてた」


「はい」


ルュールュエは「はい」しか言わなかったが、それ以外を言えば涙が出そうで、他の言葉を言えなかった。


そんな2人のやり取りを見て、今は離れていようと少し離れた場所でシオンとオリバーと一緒に待機する。


待っている間に料理が冷めてはいけないので、保温魔法をかけておく。


アスターとルネもまだ戻ってこないので、食べるまで時間がある。


お腹空きすぎて流石にダメだと思い、つまみ食いでもしようかとしたそのとき、オリバーに「彼を呼んで何をしようとしているのですか?」と聞かれた。


私はイカの天ぷらを食べてからこう答えた。


「それは秘密。こういうのはネタバレしない方が面白いのよ」


そう言ってからイカの天ぷらをもう一個食べた。


シオンが「ずるい。俺も食べたい」と懇願するが無視する。


「面白いですかね?」


オリバーは相変わらず悪趣味だな、と思いながらも「お嬢様のすることだから何かしら理由があるはずだ」と信用していた。


「うん。とってもね」


私には今回のこの事件の結末が思い浮かんでいて、それを想像するだけで笑みが溢れてしまう。


'あ、これ、絶対にヤバいやつだ'


オリバーは私の笑みを見た瞬間、そう直感した。


そうしてこう祈った。


ーーどうか、こっちに被害がきませんように、と。





「ご主人様。ルュールュエとの時間をくださりありがとうございます」


話が終わったのかアイリーンは私たちのところへと来た。


「ん?もういいの?」


1000年ぶりの再会なのだから、積もる話もあるだろうと長くなるのは覚悟していたが、5分も経たない内に話が終わり、流石に驚いた。


「はい。ご主人様の用件の方が大事なので」


アイリーンの顔を見る限り、その言葉に嘘はなかった。


私は隣にいるルュールュエを見る。


自分の主人が人間に頭を下げる姿をみて、どう思うのかと反応が気になったからだ。


予想とは違い、彼は好意的だった。


鋭い目つきに、一切変わらない顔の表情は一見キツく見えるが、よく見ると瞳は優しく温かみを感じた。


'嫌われてはないようね。アイリーンが上手く言ってくれたのかしら?'


私はルュールュエの好意的な態度はアイリーンのお陰だと思い感謝する。


だが、実際は違った。


正確に言えば半分はアイリーンのお陰であるが、もう半分は違う。


1000年もの間、封印されていた主人を、自分たちが助けることができなかった大切な存在を救ってくれたことへの感謝から、好意的な態度になっていたのだ。


「初めまして。私はローズ・スカーレットよ」


「初めまして。ローズ様。私はルュールュエと申します」


ルュールュエは美しい所作でお辞儀をする。


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